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幼馴染と婚約したけど聖女も好きになったので頑張って爵位を取り、二人の女の子と結婚したい件  作者: ふくみどり
帝国学園編

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新年祭の巫女舞

広場には人々のざわめきが少しずつ高まり、

新年祭の開始を告げる太鼓の音が遠くから響いていた。


セーニャは足元を見つめ、ゆっくりと息を整える。

肩の力は少し硬く、白い息が小さく震えた。


「セーニャ、大丈夫よ。学園で踊ったとき、

 あんなに上手に舞えたじゃない」


プラーサが優しく肩を叩く。


「う、うん……でも、あの時とは比べものにならないくらい、人が多くて……」


目の前には、見渡す限りの観客。

胸が少しずつ高鳴り、手先が冷たくなるのを感じた。


そのとき、イヴァンスがそっと傍らに来て言う。


「レック、おいで」


セーニャの視線が向くと、イヴァンスは自分の右手の甲をレックの額に当てた。


ほのかに、イヴァンスの手の竜の紋様が淡く光る。


セーニャは思わず息を呑む。

その光は、まるで温かい霧が胸に流れ込むようで、

不安な心をそっと包み込む。


「よし、じゃあセーニャ、レックを抱いてみて」


イヴァンスの言葉に従い、セーニャはそっと小さな獣を腕に抱き上げた。


レックの体温が手のひらに伝わり、

ほのかな暖かさが体中に広がる。

その瞬間、自然と肩の力が抜け、

胸の奥の緊張が少しずつほぐれていくのがわかった。


「あれ……なんだか、緊張が和らぐみたい……」


「だろう? 竜の紋様を光らせると、

 不思議な力が出てくる感じがするんだ」


イヴァンスは少し微笑んでセーニャを見つめる。


セーニャは小さく頷き、深呼吸を一つ。

胸の奥には、まだ小さな緊張が残るけれど、

それ以上に温かい安心感が広がっていた。


舞台に立つ瞬間、彼女は一歩踏み出す。

広場のランタンの柔らかい光に照らされ、白い衣が揺れる。

風がそっと頬を撫で、街灯の明かりが夜空に反射してきらめく。

ざわめきは遠くに押しやられ、周囲の景色が静かに浮かび上がる。


(――私、できる……)


そう心の中でつぶやき、セーニャは両手をゆっくりと広げた。


夜空に向かって、彼女の巫女舞が始まろうとしていた。


その光景を見つめながら、

ベラミカは小さく息をつき、クラリスにボソッとつぶやく。


「クラリス、イヴァンスのあの行動……天然よね」


「た、たぶん……」


ベラミカは視線をセーニャに戻し、少しため息をつく。


「セーニャのことが好きでもないのに、

 あんなことしてたら……かなり罪作りよね」


「本当にそう……イヴァンスって、

 セーニャのことどう思ってんだろう?」


二人の間に静かな空気が流れる。

その目は、舞台の上で凛と立つ巫女の姿に向けられていた。


広場の空気が、ぴんと張り詰める。

人々のざわめきは、

舞台の周囲で静かに止まったかのように感じられた。


セーニャは両手をゆっくりと広げ、深く息を吸い込む。

胸の奥にあったほのかな温もり

――レックとイヴァンスの支え

――思い出すと、指先に力が自然と流れた。


一歩、また一歩。白い衣の裾が柔らかく揺れる。

ランタンの光が舞う衣に反射し、舞の一瞬一瞬を浮かび上がらせた。

街灯の光が夜空にきらめき、舞台全体が静かに輝く。


両手が空を描くように舞うたび、足元の鈴がかすかに響く。

その音は夜の闇に溶け込み、柔らかく広場全体に染み渡った。


胸の内は緊張と集中の狭間にあった。

観客の視線を感じつつも、

視線の外側にある光や風に、

セーニャの心はすっと吸い込まれていく。


(――私の祈りが、この夜に届きますように)


白い衣の裾を揺らし、

彼女の体はまるで水面を滑るように軽やかに動く。


手の先から指先、

指先から羽のように広がる布のひらめきまで、

すべてが一つの流れとなった。


観客の誰もが息を呑む。

小さな子供も、老人も、村人も、広場の隅に立つ騎士たちも――

皆、舞の中に引き込まれ、ただ静かにその美しさを見守っていた。


セーニャの心も、舞の動きとともに穏やかになっていく。

胸の奥の温かさが、ほのかな光となって全身を包む。


(――大切な人たちが、幸せでありますように……)


最後の一礼。

両手を胸の前で合わせ、ゆっくりと頭を下げる。


風がひと吹き、白い衣が軽く揺れる。

広場の空気が、静かに、そして確かに変わったことを、

セーニャ自身が感じていた。


観客の間から、自然と拍手が起こる。

最初は小さな手拍子だったが、

やがて広場全体を包む大きな拍手となり、夜空に響き渡った。


セーニャは微かに笑みを浮かべ、深く息を吐く。

肩の力が抜け、胸の奥の温かさが舞台上で一層はっきりと広がる。


心の中にある祈り

――大切な人々の幸せや未来への願い

―が、静かに夜に溶けていくのを感じた。


プラーサも思わず手を叩きながら、

「セーニャ……すごいわ。こんなに堂々と舞えるなんて」

とつぶやく。


ベラミカは少し驚いた目で舞台を見つめ、クラリスも同じく息を呑んでいた。


その光景を少し離れた場所から見つめていたバリンスは、目を細めて父・カイルの方を振り向く。


「父上、巫女舞をしていた聖女は――セーニャって学園の同級生なんだ」

彼の声は低く、けれどどこか熱を帯びている。


「聖女としても将来有望だし、政治、経済、歴史の成績はトップクラス。

 僕の横で支えてくれる伴侶としては、これ以上ない存在だと思わないか?」


カイルは少し眉を上げ、バリンスの言葉に耳を傾ける。

その背後で、夜空に灯るランタンと街灯の光に照らされた、

巫女舞を終えたセーニャの姿が静かに揺れていた。


――この瞬間、物語は次の波へと動き出そうとしていた。

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