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幼馴染と婚約したけど聖女も好きになったので頑張って爵位を取り、二人の女の子と結婚したい件  作者: ふくみどり
帝国学園編

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女子会と恋の話①

賑やかな広間を離れ、女性陣は少し奥の部屋へと移動した。


灯りは柔らかく、外の喧騒もここまでは届かない。

先ほどまでの空気とは違う、少しだけ距離の近い空間だった。


暖炉の火がぱちり、と小さく音を立てる。

その温もりに包まれるように、それぞれが思い思いの場所に腰を下ろした。


「はぁ~……落ち着くわね」


プラーサが大きく息をつき、そのまま力を抜くように座り込む。


「さすがに長旅疲れた~」


肩を回しながら、ぐっと伸びをする。


「ふふ、でも楽しかったですよ」


セーニャが柔らかく微笑む。

その表情には、心からの安堵が滲んでいた。


クラリスはそんな二人を見ながら、くすっと小さく笑った。


「で?」


その一言で、空気が少しだけ変わる。


「何よその顔」


ベラミカが腕を組みながら、にやりと口元を歪める。


「せっかく集まったんだから、聞かせてもらおうじゃない」


「何を?」


クラリスはわざとらしくとぼける。


だが――


「決まってるでしょ」


ベラミカが一歩踏み込む。


「イヴァンスとの馴れ初めよ」


「……あー、そこ来る?」


クラリスは少しだけ苦笑した。


「当然でしょ。あんたたち、どんな経緯で婚約までいったのよ」


「そうそう、それ気になる!」


プラーサも身を乗り出す。


自然と、視線が一斉に集まった。


逃げ場は、ない。


「……別に大した話じゃないわよ」


そう言いながらも、クラリスは少しだけ視線を逸らした。


ほんのわずかに――照れが混じる。


「前にも話したでしょ。

 五歳のころから、イヴァンスが私と結婚するって言ってただけよ」


さらりと言う。


だが――


「で、『でもさ、クラリス、一人だけ他の女の子と付き合うのは許して』

 って言い続けたって話だったよね?

 あれって本当にそうなの?

 さすがにクラリス嫌じゃなかったの?」


間髪入れずに、プラーサが畳みかける。


「……プラーサ、容赦ないわね」


クラリスは苦笑しながらも、軽くため息をついた。


「そりゃ嫌だったわよ。初めて言われたときなんて――」


一瞬だけ言葉を区切る。


「大泣きで家に帰ったんだから」


ぽつりと続けた。


「いまだにママには、その時のこと言われるわよ」


どこか照れくさそうに肩をすくめる。


その様子に、三人の視線が少しだけ柔らかくなる。


セーニャが、静かに問いかけた。


「もう一人の女の子と付き合うってことを受け入れる……

 きっかけがあったんですよね?」


真っ直ぐな問いだった。


クラリスは一瞬だけセーニャを見て――


「うん」


小さく頷いた。


「レックと関係あるんだけどね。

 ストーン村に帝都からドラゴン討伐隊の野営地の

 設置手伝いの依頼があったんだ。


 その時、イヴァンスが手を上げてね。十二歳でだよ」


クラリスは少しだけ視線を落とす。


「もしかして、いなくなるかもって思ったらね――」


そこで言葉が一瞬だけ止まる。


暖炉の火の音だけが、静かに響いた。


「……怖くなったのよ」


ぽつりと、静かに続けた。


部屋の空気が、すっと落ち着く。


「それまでさ、あいつの言ってることなんて

 正直、ふざけてるとしか思ってなかったの」


「『他の子とも付き合う』なんて、ただの子供のわがままだって」


小さく肩をすくめる。


「でもね」


ゆっくりと顔を上げる。


「いなくなるかもしれないって思った瞬間に――

 どうでもよくなったの」


その言葉は、驚くほどまっすぐだった。


「隣にいなくなるくらいなら、

 他に誰がいようが関係ないって思った」


プラーサが思わず息を呑む。


ベラミカも、口を挟まずに黙って聞いている。


「出発前日の夜に、イヴァンスの家を訪ねてね……」


クラリスは少しだけ視線を細める。


「結局、あいつの前で泣いちゃった」


苦笑する。


だが、その笑みはどこか柔らかかった。


「で、出発の時にね。気持ちに踏ん切りつけて――」


一度息を整える。


「『いい? みんなの足手まといにならないのよ。

 ケガして帰ってきたら――承知しないからね!』って言ったら」


ほんの少しだけ、照れたように目を逸らす。


「そしたらあいつ、真面目な顔でさ」


その時の表情を思い出すように。


「『約束だ、クラリス。元気に帰ってくるよ!』って

 短く、でもはっきりとね」


一拍、間を置く。


「その後もね――」


クラリスは少しだけ懐かしむように目を細めた。


「陛下の前で、あいつ言ったのよ」


一拍置いて。


「『俺、グレッグ将軍みたいになりたいんだ』って」


部屋の空気が、わずかに変わる。


「『騎士団で強くなって――

 好きな子を守りたいんだ』って」


その言葉は、子供のものとは思えないほど真っ直ぐだった。


「……へえ」


ベラミカが小さく感心したように呟く。


プラーサも目を丸くしている。


クラリスは肩をすくめる。


「今思えば、あの頃から変わってないのよね」


「言うことだけは一人前でさ」


くすっと小さく笑う。


「でも、その後は本当にやり始めたのよ」


視線を少しだけ落とす。


「剣の訓練だけじゃなくて、帝国学園に入るために勉強まで始めて」


「……え?」


プラーサが思わず声を漏らす。


「算数すらできなかったあいつが、よ?」


クラリスははっきりと言い切った。


「最初はひどいもんだったわ。数字見ただけで固まってたし」


くすっと思い出し笑いを浮かべる。


「でもね、毎日ちゃんと机に向かってた」


その声は、どこか静かだった。


「逃げなかったのよ、一度も」


暖炉の火が、小さく揺れる。


「全部――約束守るため。ちゃんと帝国学園入学したんだもん」


ぽつりと落ちる言葉。


その重みが、部屋の中に静かに広がる。


セーニャは、何も言わずにそれを聞いていた。


胸の奥で、何かがそっと動く。


言葉にはならない。


けれど――


確かに、残るものがあった。


「それで――今に至るってわけ」


話し終えたクラリスは、ふうと小さく息をついた。


静かな余韻が、部屋に残る。


「……すごっ」


最初に口を開いたのはベラミカだった。


だが、その声にはからかいよりも、どこか感心が混じっている。


「いやでも、それは……納得するわね」


プラーサも素直に頷く。


「ただの幼馴染じゃないじゃない」


「まあ、その時にレックを連れてきたんだけどね」


クラリスは軽く肩をすくめる。


「そういう意味では、レックが恋のキューピットね」


さらりと言い切る。


その言い方が、逆に自然だった。


そして――


ふと視線が動く。


今度は、セーニャへ。


暖炉の火が、静かに揺れる。


女子だけの夜は、まだ続いていく。

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