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幼馴染と婚約したけど聖女も好きになったので頑張って爵位を取り、二人の女の子と結婚したい件  作者: ふくみどり
帝国学園編

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ストーン村到着

女性陣は馬車に揺られ、雪混じりの道を進む。


車内には柔らかな空気が流れていた。

プラーサが用意してきた菓子が小さな箱に並べられ、香ばしい甘い香りがほのかに広がっている。


揺れる馬車の中で、甘い香りと温かな空気が混ざり合い、外の寒さを忘れさせていた。


「はい、セーニャもどうぞ」

「ありがとうございます、プラーサ」


セーニャは上品に微笑みながら菓子を受け取り、小さく一口。

その仕草一つにも、聖女らしい落ち着きがにじんでいる。


ベラミカも手を伸ばしながら、ふっと息を吐いた。


「こういうの、やっぱり侯爵家って感じよね……」

「ふふ、たまにはこういうのもいいでしょ?」


プラーサはどこか誇らしげに微笑む。

そのやり取りに、セーニャも小さく頷いた。


そんな穏やかな空気をよそに――


セラフィスは窓に張り付くように外を覗き込んでいた。


「ねえ見て見て!雪!すごいわよ!」


子供のようにはしゃぎながら、くるりと振り返る。


「ほらほら、みんなも見なさいよ!」


その無邪気さに、ベラミカは思わず苦笑する。


「……師匠、落ち着いてください。馬車の中ですから」


「いいじゃない、せっかくの遠出よ?

 こういうのは楽しまないと損なんだから!」


セラフィスは満面の笑みで言い放ち、再び窓の外へと視線を向けた。


馬車はゆっくりと進み続ける。

車輪が雪を踏みしめる音が、一定のリズムで響いていた。


外は凍てつく冬の景色だが、

車内だけはどこか温かく、穏やかな時間が流れていた。


――その外側で。


イヴァンスは馬車の前を歩く護衛たちと足並みを揃えながら、時折馬車に目を向ける。


吐く息は白く、足元の雪は踏み固められていく。

だが、その足取りに迷いはない。


男性陣は徒歩で先導し、

近衛騎士団の二人に囲まれて進む。


護衛が周囲を固めているため、道中は安全そのものだ。


その安定感を知ってか、

周囲には旅行者や商人たちが自然と集まり始めていた。


金銭的に余裕はない者も、

貴族とその護衛の後に続けば危険を避けられる。


結果、馬車列の後方には小さな行列ができていた。


誰かが誰かを守るわけではない。

だが、その“流れ”の中にいるだけで、安全は共有される。


護衛の存在があることで、野党や山賊も近寄りにくい。

それは暗黙の了解のように、この道に根付いていた。


「……皆、ただ歩いてるだけで安心できるんだね」


馬車の中から外を見たベラミカが、小声で呟く。


セラフィスは窓から手を振りながら、楽しげに笑った。


「うふふ、みんな安心だからいいわよね。

 やっぱりアルフォース帝国はこうじゃなくっちゃ」


その言葉は軽い。

だが、それが成立している現実は決して軽くはない。


三日目の午後――


遠くに、イヴァンスにとって見慣れた門が見えてきた。


雪景色の中に浮かぶ、懐かしい輪郭。


ストーン村だ。


「着いた~!」


セラフィスは馬車が止まるより早く、ぴょんと飛び降りる。


冷たい空気の中で、両手を大きく広げた。


「やっぱり外はいいわね!」


ベラミカは呆れながらも、その後を追う。


「師匠……転ばないでくださいよ」


イヴァンスも苦笑を浮かべながら、その光景を見ていた。


村の入口では、後ろに続いた人々も次々と足を止める。


守られていた“流れ”が、ここで一度解ける。


門にいた村人がイヴァンスに気が付き、目を見開いた。


「おい、イヴァンスだ!」


その声はすぐに広がり――


ほどなくして、見慣れた少女が駆けてくる。


「みんな、いらっしゃい!」


その声と同時に――


「ぴぃ~!」


セーニャの腕の中から、小さな赤い影が飛び出した。


レックは一直線にクラリスへ向かい、勢いそのままに胸へと飛び込む。


「わっ、レック……もう、いきなりどうしたのよ」


驚きながらも、クラリスはしっかりとその小さな体を受け止めた。


「ぴぃ~!」


嬉しそうに鳴きながら、ぺたぺたと顔を擦り寄せる。


「はいはい、寂しかったのね」


苦笑しながらも、その表情はどこか柔らかい。


セーニャはレックの様子を見て微笑んでいた。


「ふふ、クラリスさんのこと、大好きみたいですね」


「さ、みんな。疲れたでしょ。

 私の家に案内するわ。

 シルフィスさんたちは宿屋をとってるからそっちに行ってみて

 宿屋はあそこだから」


クラリスはレックを腕に抱き直しながら、宿屋を指さす。


「女性陣はそのままうちで休んで。暖も取れるし、お茶もすぐ出せるから」


その言葉に――


「え~、お茶が出るってことは……ストーン村の銘菓とかも出るの?」


セラフィスが即座に反応する。


ぱん、と手を打ち合わせ、目を輝かせた。


「アルナミンってストーン村の特産物なんでしょ?

 楽しみ~!」


完全に“それ目当て”の顔だった。


「師匠……」


ベラミカがじとっとした視線を向ける。


「さっきまで馬車の中で、お菓子を食べてましたよね」


一瞬だけ動きが止まり――


「それとこれとは別よ!」


即答だった。


「旅先の名物は制覇していかないとね!

 久しぶりの旅なんだから~」


ベラミカは深くため息をつく。


「……もう好きにしてください」


セーニャはそんなやり取りを見て、くすりと笑う。


クラリスも肩をすくめながら口を開いた。


「ええ、期待していいわよ。

 アルナミンパイよ。まだ帝都でも販売してなんだから」


「ほんと!?」


セラフィスの目が一気に輝く。


「それ絶対おいしいやつじゃない!」


今にも駆け出しそうな勢いだった。


「ちゃんと用意してあるから、慌てなくても大丈夫よ」


クラリスは苦笑しながら頷く。


その言葉に、セラフィスは満面の笑みを浮かべた。


ふと、クラリスはイヴァンスへ視線を向ける。


「イヴァンスはどうするの?」


「ああ――」


イヴァンスは軽く肩を回しながら答える。


「母さんにあいさつしてくるよ」


「そっか。じゃあ後で合流ね。

 私の家で待ってるね」


短いやり取り。

だが、それだけで十分だった。


「ぴぃ~」


レックがクラリスの腕の中で満足そうに鳴く。


その様子に、セーニャはくすりと笑い、

ベラミカもどこか肩の力を抜いた。


こうして一行は、それぞれの場所へと散っていく。


久しぶりの帰郷。


そして――


新年祭を迎える村での、穏やかな時間が、静かに動き出していた。

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