バカでアール隊、晒される
訓練はその後も順調に進んでいった。
カムシスから叩き込まれた気配の扱い。
ラプロスの剣術。
セラフィスの補助魔法。
グレッグの実戦的な動き。
四人の師匠に囲まれ、イヴァンスは容赦なく鍛えられていった。
最初はまったく形にならなかった気配消しも、
今では意識すればある程度は抑えられるようになっている。
もちろん、カムシスにはまだ簡単に見抜かれる。
それでも学園の生徒の中では、十分通じるレベルにはなっていた。
そうして訓練の日々が過ぎ――
やがて年末。
学園では年末試験が行われた。
今回は実技はなく、筆記試験のみである。
教室では答案用紙と問題用紙が配られた。
「それでは試験始め!」
監督の教員の号令が響く。
生徒たちが一斉に問題用紙に目を落とした。
イヴァンスは問題を見て、しばらく固まる。
(……えーと)
問題
「魔力循環の基本原理を説明せよ」
(なんだっけこれ……)
少し考えて、ぽつりと書く。
「魔力は体内を循環する」
(……まあ間違ってはいないよな)
その頃、後ろの席ではバリンスが小声で笑っていた。
「筆記だけか」
カデフが肩をすくめる。
「帝国学園なのに、
こんな魔法の筆記試験みたいなことする意味あるのか?」
アセプトがイヴァンスを見て笑う。
「まあいいじゃないか」
「どうせ、あのイヴァンスには関係ない話だろ?」
周囲でくすっと笑いが起きた。
イヴァンスは苦笑しながら答案を書き続けた。
そして試験は終わり、数日後。
掲示板の前には多くの生徒が集まっていた。
結果発表の日である。
生徒たちがざわめく中、ゆっくりと前に歩み出た人物がいた。
学術卿であり、この学園の長。
レンミル学園長である。
レンミルは掲示板の前に立ち、生徒たちを見渡した。
「今年の年度末試験の結果が出た」
静かな声だったが、周囲はすぐに静まり返る。
「今回は筆記のみの試験だったが――」
「成績の差ははっきり出ている」
そう言って掲示板を軽く叩いた。
「まず上位だ」
ざわめきが広がる。
レンミルは淡々と告げた。
「一位――プラーサ」
周囲から小さなどよめきが起きる。
「やっぱりか」
「またあいつか」
レンミルは続ける。
「二位――セーニャ」
イヴァンス隊の二人が、堂々のワンツーフィニッシュだった。
セーニャは少し驚いた顔でプラーサを見る。
「さすがプラーサ、また一位ですね。いつも負けてばっかりです」
プラーサは肩をすくめた。
「まあね」
レンミルは掲示板を軽く見上げ、ゆっくりと口を開いた。
「今年の年度末試験は筆記のみだったが、興味深い結果が出ている」
生徒たちが静かに耳を傾ける。
「一位のプラーサ」
レンミルは掲示板の名前を指で示した。
「彼女はすべての科目で高得点だ」
「特に戦略学、戦術理論、指揮学の三分野は圧倒的な得点差で、
他の生徒が追随できないレベルだ」
プラーサはわずかに視線を逸らしたが、表情は崩さない。
レンミルは続けた。
「二位のセーニャ」
掲示板を軽く叩く。
「こちらもほとんどの科目で高得点を出している」
「特に歴史、政治経済、魔法理論の三分野は突出しており、
国家運営や外交の知識も非常に優秀だ」
周囲が少しざわめく。
レンミルは静かに続けた。
「二人とも武術や魔法など苦手な分野がありながら
それ以外の学問分野でこれだけ安定した成績を出せるのは、
将来に向けても極めて重要な資質だ」
わずかに笑みを浮かべる。
「自分の強みを理解し、伸ばす者」
「広く学び続ける者」
「どちらも立派な努力である」
そして最後に一言付け加える。
「……もっとも、努力を怠った者の結果も、はっきり出ているようだがな」
レンミルの視線が掲示板の下位へと向いた。
その少し後ろで、イヴァンスは掲示板を見上げていた。
「俺は……っと」
しばらく探してから見つける。
「お、あった」
順位は真ん中あたり。
平均点。
「よし、落第じゃない」
ほっと息を吐く。
その時だった。
掲示板の下の方で騒ぎが起きる。
バリンス
カデフ
アセプト
ルフィン
四人の名前が、見事に下位を並んで独占していた。
「嘘だろ……」
「なんでこんな……」
青ざめる四人。
レンミルは掲示板を見て、静かに言った。
「今年は全体的に成績が良い」
少し間を置く。
「……下位の四人を除けばな」
周囲から笑いが漏れた。
バリンスたちは顔を真っ赤にする。
そこへプラーサがゆっくり歩いてきた。
掲示板を見上げ、くすっと笑う。
「へえ」
腕を組み、四人を見下ろした。
「魔法で散々、私やイヴァンスを馬鹿にしてたわよね」
四人が固まる。
プラーサは掲示板の下を指さした。
「でも――」
口元に小さく笑みを浮かべる。
「頭の方は、あなた達の方がバカみたいね」
バリンスたちの顔が引きつる。
その瞬間だった。
プラーサは左手を腰に当て、右手で四人をびしっと指さした。
「やっぱり――」
声が一段高くなる。
「“バカでアール隊”って呼び方、ぴったりじゃない!」
周囲から一斉に笑いが起きた。
バリンスが真っ赤になる。
「ぐっ……!」
カデフが呻く。
「お、覚えてろよ……!」
だがプラーサはまったく気にしない。
むしろ、どこかすっきりした顔で腕を組んだ。
今まで散々イヴァンスを馬鹿にしてきた連中への――
小さな仕返しだった。
その横でイヴァンスが頭をかく。
「いや……あれ俺が勢いで言っただけなんだけどな」
セーニャがくすっと笑う。
掲示板の前には、しばらく笑い声が響いていた。
学園には、ゆっくりと年末の空気が流れ始めていた。




