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005 ) マメの怒りと憂鬱とアスタ




 自分の目の前を疾走するマメを見て、アスタは舌を巻く。


 曲がりなりにもアスタはSランク冒険者と呼ばれる存在、そんなアスタの全力疾走を上回る速度で、マメはアスタの目前を疾走している。 


 そしてとある場所で急停止すると、


「待て! 何をやってる!」と怒気を孕む声で叫んだ。


 

 その場所には、マメよりも少し歳上か?と思われる3人の少年冒険者達が、手に持つ剣で何かを叩き切ろうとしていた。


 マメの後ろを追走して来たアスタだったが、マメの余りにも怒気を孕む叫び声に立ち止まってしまったが、すぐさま『コレは自分が介入しない方が良いかも?』と思い、そのまま気配を遮断して身を潜めて様子を観る事にした。


 しかしこの直後、アスタはこの自分の判断を後悔する事となるとは思いはしなかった。



 マメが突然現れた事と、マメの尋常じゃない怒気を孕んだ声に、一瞬、身を固くして硬直していた3人の少年冒険者達だったが、


「今日は来たんだマメ? もしかしてアノ薄汚れたゴブリンがマメに泣き付きにでも行ったか?」と、硬直が溶けた3人の少年冒険者達のリーダー格の痩せたアバタ顔の少年が、マメを煽る様な喋り方をして来る。


 少し前からこの3人の少年冒険者達は、事あるごとにマメに対して必要以上に絡んで来ていた。


 言葉だけで絡んで来るだけだったら良かったが、最近ではマメが全く言い返す事も無く、無視してやり過ごす事が気に触ったのか?最初はマメを小突く程度だったのが、マメが薬草採取して王都に帰る帰り道を待ち伏せして、薬草が詰まった袋を奪い取り道にばら撒いて踏み躙ったり、仲間を増やしてマメを裏路地に連れ込んで殴る蹴るの暴行を加えるなどの、いわゆる『イジメ』行為が段々とエスカレートして来ていたのだったが、先日までマメは黙ってその行為に耐え、決して折れる事は無かった。


 しかし、それが3人の少年冒険者達には面白くは無かったのだろう。


 その結果、今度は『マメが大切にしている物をメチャクチャにしてやろう。』となった様だ。



ニヤニヤと笑いながらマメを見る冒険者達に対して、マメは怒気を自身の精神力で静かに鎮める様に


「だから何をやっているんだ!」

「はっ!お前はいちいち生意気で、俺達の気に触るんだよ! だからお前が大事にしていると言うこの人形をメチャクチャに壊して、俺達の気を晴らそうと思ったんだよ! そうすればお前もこんなガラクタに時間と無駄金を使わずに済むだろ?感謝しろよ! ああそうだ! お前、今日からオレ達に上納金を献上しろよ!」

「意味がわからないよ!」

「いや、それがオレ達には意味があるんだよ。 ギルドの受付嬢達や、女性冒険者達にちやほやされて、いい気になりやがって! 見てて面白くないんだよ。 だから俺達はお前を懲らしめる為に色々と嫌がらせをして来たが、お前は少しも堪えた様子を見せないからな! だからお前がこの人形を大事にしているって聞いて、わざわざ見つけ出して壊してやる事にしたんだ。 お前がどんな顔するか見たくてな!」

「僕は君達に何かをしたか?」

「ああ、したんだ! お前の存在自体が気に入らないのさ! 俺たちなんてFランクを卒業して1年経っても未だにEランクに成れないのに、お前は俺達に並ぶどころか、一気に追い越してEランクだと!? 益々気に入らない! まして、可愛いギルドの受付嬢や女性冒険者達に可愛がってもらえて・・・ 俺もあの胸に顔を埋めたいさ!」と3人の少年冒険者のリーダー格の少年が言うと、他の少年達も次々とそう言って笑う。


「さて、幸いにこの場合にはオレ達だけみたいだ、ここら辺で気に入らない奴には、永遠にご退場してもらうとするか?」と言ってアサシン志望の少年冒険者が、弓型に湾曲したダガーナイフを静かに抜くと、防具の無いマメの腹部に突き刺した。


「じゃあな! 苦しみながらお前の人形が壊れる瞬間を見とけよ!」と言いながら別の少年冒険者が無惨にも破壊されたリビングアーマーの胸部装甲板を強引に引き剥がすと、露出して剥き出しになったリビングアーマーの魔核を、手に持った片手用の戦斧で叩き割ろうと振り上げた瞬間、アールが少年冒険者の目の前に飛び込んできて、その魔核を守る様に立ちはだかった。


「何だこの人形? 一丁前に自分の仲間の魔核を守って俺の前に立ちはだかってやがる。

丁度良い、女達にちやほやされているお前も気に入らなかったんだよ! お前の仲間と一緒に、この戦斧で叩き切ってやるよ!」と言い、少年冒険者が戦斧を再び振り上げて、アールに向かって振り下ろした瞬間、カツン!と言う甲高い音とともに、少年冒険者が振り下ろした戦斧が止められたのだ、何処から姿を現したのか? そこには、アールの前に仁王立ちして右手1本で少年冒険者が振り下ろす戦斧を止めたエメラダの姿があった。


「何だ何だこの人形は? まあ良いや、お前も一緒に壊してやるよ!」

「やめろ〜〜〜!」


 その瞬間、アサシン志望の少年冒険者に腹部を刺し貫かれたアールの気が異常に膨れ上がったが、そのマメを後ろから優しく抱きしめるものがいた。


 アスタが動いたのはマメが腹部を刺し貫かれた次の瞬間、壊れたリビングアーマーの魔核が少年冒険者の手にする戦斧でタチ割られようとした瞬間だった。


 アスタは先ずマメの生命を優先し、空間魔法の魔法陣を展開して最上級回復薬を取り出そうとしたのだが、アスタが魔法陣を展開した瞬間、信じられない事にエメラダと一緒に亜空間に収納していたアールが、魔法陣から飛び出して行ったのだ、しかもエメラダまでが後を追って行ってしまった。


 しかし、その時アスタはマメの事を第一に動いた。

 

 マメの背後から優しく抱きしめると同時に、マメの腹部を貫くダガーナイフを素早く引き抜くと、傷口に最上級回復薬を振り掛け、この時には意識既に意識を手放そうとしていたマメの口の中に強引に流し込んでいた。


 後で『どの様にして意識を手放そうとしていたマメに最上級回復薬を飲ませたの?』とエレナに聞かれた時には、顔を真っ赤にして返答に苦慮する様な方法だった。


 その少し前、が腹部を刺し貫かれた瞬間に何かを叫んだのが見えた。

 

 そして、突然マメの気が異様に膨れ上がり『何かが覚醒しようとしている。』と感じた。


 しかも、こんな所で、こんな発露の仕方をしようとしている。


『 止めないと! 彼を! 』と・・・


 気がつくとアスタは無我夢中でマメを後ろから抱き締め、『もう大丈夫だから、私が守るから。』とマメの耳元で囁いていた。


 そのアスタの囁きを聞いて安堵したのか?狂気を孕んだマメの怒気が、静かに落ち着きを取り戻すかの様に身を潜めていく。





「なんだこりゃ?」と慌てる声に視線を向けると、



 突然の第三者の出現と、それに伴って現れた存在に対して、3人の少年冒険者達は、


「なんだ? この人形達は何処から出て来た!?」

「おい! この身動き出来ないほどに埋め尽くされた人形は何処から出てきたんだ〜!」

「・・・」


 ああ、3人目のマメを刺したアサシン志望の少年冒険者は、アスタに殴り飛ばされて口から泡と血を垂れ流していた。


 まあ彼は教会で司教様のハイヒール魔法で治療を受けるか?最上級回復薬を飲めば、取り敢えずは傷は治るだろう。


 まあ治療を受けるにしても、回復薬を買うにしても最低でも金貨50枚は必要だが、初心者に毛が生えた程度の冒険者が、金貨を50枚も用意する事が出来るか?どうか?など、アスタの知った事では無いが!  


 何故、少年冒険者達が慌てているのかと言うと、アスタが自身が呼び出した人形が出現して少年冒険者達が身動き一つ出来ない様に周囲を埋め尽くしていたのだった。


 まあ駆け出し同然の少年冒険者が身動きすら出来ないのは同然だ、この人形達、かの地竜の侵攻を受け止め、その先を一歩も進めさせなかった実績を持っていた。


 そして、その人形達の集団を引き連れるのが、アスタ・・・


 いや、アスターナの相棒で守護者で、エメラダと呼ばれている『人形』に宿るのは、かっては『戦乙女達』と呼ばれたバルキリーの1人であるエメラーダだった。


 そのエメラダ、かなりご立腹のご様子で、勢い余って上位のバトルドール達を呼び出して、周囲を包囲していた。



 まあ、そんなこんなしているうちに、ギブスたち一行が到着した様で、


「何だ!何だ! なぜアスタの人形達がこんなにも出ているんだ!?」と言いながら、ギブスが現場に到着すると、その光景に息を飲んだ。


 そこはアスタの人形達に拘束された3人の冒険者と、血溜まりの中でマメの頭を抱き抱えて座り込むアスタ、心配そうにバラバラになった仲間の鎧の残骸を見下ろすアール、そのアールを気遣うように寄り添うエメラダ、まぁはっきり言ってその現場はかなり悲惨な感じだった。



「アスタ、状況を説明してもらえるかな?」と肩で息をしながらギブスが声を掛ける。


 ギプスは『森の小人』と呼ばれているゴブリンが、まめに駆け寄って何かを話していたのは知っていたが、ゴブリンの話を聞いたマメ血相を変えて走り出し、そのマメの後を追う様にアスタが飛び出して行った事しか把握していなかった。


 アイスが森に住むゴブリンと頑張って意思疎通を図ったが、ゴブリン自身も傷だらけで興奮しているのか?なかなか上手くアイス達とは意思疎通が出来なかった。

 要領を得なかったギブス達6人は、森のゴブリンに先導されて現場へと向かうしか他ならなかった。


 ギブスは今なお意識のないマメをエレナに託し、3人の冒険者達から事情を聞いたが、何の事は無い、ただ単にマメの事を妬んで、嫉妬して、そして悪い大人に唆されていた様だ、まあギプスが思うには半分以上は本人の意思だが、それに漬け込んで上手くコントロールされた様だった。


 エレナも確認したが、この3人の少年冒険者達には『意識誘導魔法』が掛けられていた。



その証拠に、ギブスが3人の冒険者達を尋問したが、彼等は自分達を擁護する様な事は一切言わないからだ、本来、逆恨みが元で暴力沙汰や犯罪を犯す様な連中は、自分の行いを正当化する様な言い訳しか言わない。


 そしてギプスは、この少年冒険者の交友関係と言うか?関係者の中にそんな事をする人物に思い当たる節があった。





誤字脱字、文章のおかしいな所があれば、ご指摘頂ければ幸いです。


八葉門希

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