003 ) ダンジョンへ行く前に
「はじめまして坊ちゃん、私は『鉄壁の四兄弟』がクラウンマスターを務めます『雷槌』の『探索部』に所属していますアスタと申します。 本日は坊ちゃんのダンジョンデビューを、この馬車の御者兼雑用係としてお手伝いさせていただきます。 以後宜しくお願いします。」と馬車の乗り口の横に立ち、皆を向かい入れてくれている人物が、丁寧に挨拶をしてくれる。
「こっ、此方こそ! はじめまして! マッ、マーク・メタリアーナです! 皆さんからは『マメ』とか『マメちゃん』と呼ばれています! 是非、アスタさんもマメと呼んでください!」
「あははは、坊ちゃん、そんなに緊張されなくても大丈夫ですよ?」
「いやいや緊張もしますよ! だって、アスタさんと言えば『雷槌』の『探索部』の責任者で、しかもこの王都ガラルにも5人しかいないSランク冒険者で! しかも、5年前の地竜襲来の際にはギプス父さんとエレナ母さん、そして叔父さん達4人と一緒に地竜を討伐した功績で名誉貴族の伯爵位まで持っていて、しかも王都中の女性達の憧れの的じゃないですか〜! 緊張するなって無理!無理です〜!」
「いやいや坊ちゃん、坊ちゃんの方こそ先の勇者マサヒロのパーティーメンバーで鉄壁の守りと、神龍をも地に伏せさせたと言われる『雷槌のギプス』が父親で、古代魔法の使い手で、かの魔王までをも凍結魔法で氷漬けにした上に、風魔法で氷漬けになった魔王を細切れにしたとも言われる『滅殺の魔女エレナ』が母親で、我がクラウンのトップでAランク冒険者の『鉄壁の四兄弟』が叔父さん達ですよ? しかもアイスさん達なんか、国王様からSランク冒険者への昇格の話しがあっても『いや、儂は忙しくて酒を飲む時間が無くなるからイヤだ。』とか、『儂は冒険者よりも鍛治師を極めたいから無理。』とか、『今、新たに魔剣を打つ為の錬金術を模索中だから時間が無い。』とか、私はこれが王様に対しての返答としては1番酷い返答だと思っているのですが、『Sランク冒険者になると色々と面倒だから無理。』と言ってSランク冒険者への昇格を豪快に断る様な胆力をお持ちの方々が坊ちゃんの叔父さん達ですよ? 私なんかそのおこぼれでSランクに昇格して、しかも騎士伯家出身の私が今や名誉貴族の伯爵に、そんな私にしてみれば、尊敬する方々に囲まれたマーク・メタリアーナ君の方が正に『良家の坊ちゃん』って感じですね!」
「あはは・・・ それこそ凄いのは僕の父親なってくれたギプスさんに、母親になってくれたエレナさん、そして僕の父親になってくれたギプスさんのお姉さんの息子さん達であるアイスさん、バイスさん、カイスさん、デイスさん達が凄いのであって、僕が何かを成し遂げた訳もなく、ただの駆け出しの冒険者ででしかありません。 なので僕の事は『マメ』と呼んでください。」
「あはは、合格!合格! いや〜試す様な事を言ってゴメン! 私は『親の七光り』で自分も偉いと勘違いしている様な連中が嫌いでね! 特に貴族の馬鹿息子や、何かを勘違いしている様な貴族の令嬢とかね、だから君が何か勘違いしている様ならば、即座に王門を潜って自宅に帰り、今の私には10日前後の日数が暇になる機会など滅多には無い事なんで、部屋から出ずに好きな事だけをして、毎日ゴロゴロしながら過ごそうかと思っていましたが! 今日からの10日間が楽しみになったよ! それと、巷で評判の『人形作家のマメちゃん。』の事も気になってたんだ! マメ君、今、君の背負っている背嚢にちょこんと座っている可愛い友達を私にも紹介してくれないだろうか?」
「はい、この子は、元々は僕が薬草を採取しに行っていた森で出会った2体の朽ちかけのリビングアーマーの片割れだったのですが、余りにも損傷が酷かったのと、もう一方のリビングアーマーの修復にこの子の鎧を使ったのですが、試しに鎧の代わりに土魔法で小さなゴーレムを作って、この子の魔核を埋め込んでみたら、まあアグレシブルに動き回る事、動き回る事、余りにも毎日腕や足を壊してしまうので、土で出来たゴーレムが壊れてしまうなら、柔らかい素材で出来た人形にこの子の魔核を入れたらどうなるんだろう?って思って入れてみたらこんな感じになりました。 それに人形ならその辺りを転げ回っても手足が取れる事も無いですし、泥まみれになって汚れても生活魔法の『クリーニング』を使えば、一発で綺麗になりますし、この子の人形の身体には『物質保存』の魔法を掛けているので劣化もないですから・・・ あっ! すみません、この子の紹介でしたね! 普段、この子を呼ぶのに名前が無いと不便なので、この子の事は『アール』と呼んでます。 まあ時々面倒くさい時なんかは『アー君』なんて呼んでいる事もありますが・・・ あれ? 最近は『アー君』呼びの方が多い様な? 」
「はじめまして『アール』、私はアスターナ・フォン・バトラーだ、一応、ガラル王国の名誉伯爵を賜っている。」とアスタが、マメが背負っている背嚢の上にちょっとすわるアールを除き込みながら挨拶をする。
この時、普段は女性に抱きしめられても余り緊張する事の無いマメだったが、思わず顔すを真っ赤にしてしまった。
このアスターナ・フォン・バトラー、普段から男性の様な格好を好み、名前もアスターナでは無くアスタと呼ばせており、その立ち振る舞いも女性らしい品は有るものの、どちらかと言えば日頃の立ち振る舞いは男性の様に達振る舞っている。
そのせいか?この王都ガラルの女性達には物凄い人気であり、彼女が参加した貴族の社交会では、彼女が貴族の令嬢達に向かって微笑むと、その場で失神して倒れてしまう御令嬢もいたそうだ、そんなアスタもやはり女性で、その胸には他の女性の追付いを許さない様な凶暴な物を装備してる。
エレナ母さんもエルフ族にしては大きい方だとは聞いているが、アスタさんは更にその何段階かは大きな胸をしていた。
そんなアスタがアールに向けて自己紹介をする際、僕の両肩に手を置いて、僕の背中に背負った背嚢の上にちょこんと座るアールを覗き込んでいるのだが、アスタの大きな胸が僕の顔を包み、耳元からは優しげな声がするものだから、普段なら気になる事の無い事だったのだが、何故か?顔に血液が集まって顔を真っ赤にしてしまった。
そんなマメをギプス達はニヤニヤしなが眺めていたが、マメの師匠であり、アスタにとっても錬金術の師でもあるバイスが助け舟を出す。
「アスタ、そろそろ出発しようではないか? 儂達は馬車の中で叔父貴や姉さんとでマメにどの様な段取りでダンジョンに挑むか?とか、どの様にしたら効率良くダンジョンを攻略出来るか?とかを教えてやりたいのだが、まだまだ話が纏まってなくてのう。 じゃからアスタよ、先ずはマメが薬草を採取していたという森へ向かえ、そこでマメが錬金術で修復していると言うリビングアーマーをちょっと診てやろうと思っているからのう。」
「はい先生、じゃあマメ君、道案内を頼めるかい?」と言ってアスタはマメが背負っていた背嚢からアールを抱え上げて御者台に座らせると、
「じゃあマメ君、君が薬草を採取する為に通っていたという森に案内してもらえるかな?」と言ってマメを抱き抱えて軽々と御者台に飛び乗り、自分の横にマメを座らせて満足そうに微笑んだ。






