002 ) 冒険者見習いから次の段階へ
昨日の昼過ぎの事だが、マメがいつもの様に薬草採取を終えて、鎧の方のリビングアーマーにも魔力を補充してから王都へと戻り、冒険者ギルドの受付に採取して来た薬草を提出した時だった。
「マーク様の本日のクエスト『回復薬の原料となる薬草の納品』を確認いたしました。
ではマーク様の冒険者プレートの提示をお願いします。」
「はい、お願いします。」とほぼマメ担当となりつつある冒険者ギルドの受付嬢マリエさんに、木製のギルドカードを手渡す。
「あら? マーク様おめでとう御座います。
マーク様、いえ、マーク・メタリアーナ様は、本日をもちまして、ウッドランクからアイアンランクへと昇格となります。
また、冒険者規約第37条7項の規約に伴い、Fランクでの冒険者登録ではなく、Eランク冒険者としての御登録となります。
あらためておめでとう御座います。」
「あ…ありがとうございます。…!!?…?…」
冒険者ギルドの受付に座るマリエが席を立ち深々をお辞儀をすると、おもむろに満面の笑みでその胸にマメの頭を抱きしめられたので、ウッドランクからアイアンランクへ昇格した喜びよりも、突然抱きしめられた事の方が驚いた。
「マメちゃん、おめでとう。 この3年とちょっと、本当に頑張ったわね〜 お姉さん達皆んながマメちゃんを応援していたんだからね〜 」
「マメちゃん!おめでとう〜 」
「マメちゃん、3年間良く頑張ったわね〜 」
などと冒険者ギルドの受付嬢達から一斉に『おめでとう。』と言われて少々戸惑ってしまった。
しかも冒険者ギルドの食堂兼居酒屋で、もう酒を煽っていたドワーフ達は、マメの冒険者ランク昇格の話を聞いて、
「マメ〜!よう頑張った!今日はマメの冒険者ランク昇格記念だ!さあ遠慮なく飲め!飲め!」と宴会を始めてしまった。
この人達、ただ飲む口実が欲しかっただけじゃないの?
まあ祝ってくれるのは純粋に嬉しかったけど
そして、ドタバタと足音を響かせて2階の執務室から飛び出して来たのが、マメの冒険者ランク昇格の話しを聞いたマメの大叔父で、この王都ガラルの冒険者ギルドのギルドマスターのギプス・メタリアーナある。
「息子よ〜! この3年間、腐りもせずに良く冒険者見習いの仕事を黙々と頑張った! 儂も嬉しいぞ〜! さあ今日はこれから大宴会じゃ〜 」
「「「「 ウォオ〜〜〜〜!! 」」」」と、その場が一気に盛り上がったが!
「ギルマス! 少々お待ちください! 私もマーク君の冒険者ランク昇格のお祝いはしたいとは思いますが、ギルマスは、ま!だ!お!仕!事!が!残って!います! まずはそれを片付けてからということで、それでは皆さん失礼いたします。」
「そんな〜 殺生な〜 !! 」と、散々だだをこねていたギルドマスターだったが、サブギルドマスターのエレナさんに耳を掴まれて、強引にギルドマスターの執務性と連行されていった。
その際サブギルドマスターのエレナさんが(まめちゃん、冒険者ランク、昇格おめでとう)と言ってウィンクをしてくれたのは嬉しかった。
ちなみにだが、この冒険者ギルドのサブマスターのエレナさんはエルフであり、ギルドマスターであるギブスの冒険者時代の仲間の1人でもある。
さらにギルドマスターはエレナんに対してこの50年間ずっ〜と!プロポーズをしてきたが、いまだに『うん!』と言ってもらえた試しがないが、最近はなんとなく『良い返事が貰えそう』だとギブスは言っていた。
そうそうマメとギブスは1年とちょっと前に養子縁組をして書類上では親子となっていた。
まぁこのことに関しては色々と紆余曲折はあったものの、ギブスとマメの関係は概ね良好である。
ただこの概ねと言うのは、信じられない事にギプスが父性を発揮して、マメに対して激甘になってしまったことが少々問題ではあった。
「さてさて、エレナが儂に大量の書類仕事を押し付けるから、儂は仕方なく仕事をするかの〜」
「あら仕方なくなんですか?私は頑張って仕事をしているあなたの姿を見るのは好きですよ。
もちろん、冒険者時代に重戦士として強い魔物達から私を守ってくれている後ろ姿も格好良くて好きでしたけどね〜 さて、話は変わりますが、例のお兄様が来られる件はいかがいたしましょうか?」
「あ〜、兄貴が来る件か〜・・・
これに関しては、兄貴との予定の擦り合わせが大事だからな〜
しかしラルゴの奴、こんな大事な話を俺なんぞに任せても大丈夫なのか?」
「何を言っているのですかギブス?
貴方だからラルゴさんはお願いしてるんじゃないの、第一、ラルゴさんは貴方の古いお弟子さんの1人じゃあない、それだけ師匠として信頼されていると言う事ですよ。」
「仕方ないの〜 まあ家族と弟子の為じゃ!」
「ええ、あなたのお兄様も忙しい方ですので、連絡を小まめに取って先方とのスケジュールを組まないとですね。」
「それに貴方は、お兄様とマメちゃんを合わせてやろうとお考えなんでしょう?」
「ああ、マメの奴、自分の母親の事も父親の事も詳しくは知らんじゃろうからの〜、
まあマメが3〜4才の頃にあんな事が有ったし、儂もあの時はマメの事は知らなんだ・・・、また兄貴も自分の曾孫がこんな事態になってるとは夢にも思ってはいなかっただろうよ!
調べによると、マメがいた村に突如魔物達のスタンピードが起こったのは『人為的な工作があったからだ』と国の調査機関からは報告が上がっている。
まぁ兄貴のことだから様々な情報は収集しているとは思うが、今の今までマメを放置したままと言うのが少々儂には解せないがな!」
「まあギプス、貴方にしてはかなりご立腹の様ですが、お兄様はお兄様の立場もお考えもおありでしょうから・・・ それよりもマメちゃんのダンジョン講習は、本当に貴方がなさるのですか?」
「ああ、マメのダンジョン講習な!
まあマメが仲良くしてもらっている先輩冒険者達でも良いが、やはりマメにはドワーフの冒険者としてのダンジョンの攻略のやり方を、やはり同じドワーフの大先輩として、ドワーフの戦い方を儂達が教えてやらんとな!」
「で! その心は? 」
「可愛い息子と! レッツダンジョン!」とギプスは満面の笑みで顔面崩壊寸前、
「まあ貴方が嬉しそうなのと、それまでにギルドの仕事を片付けて行くなら私も何も言いませんが、条件が一つあります。『私も母親枠での参加』を希望します。」
「えっ!?・・・ 『母親枠』って・・・ 」
「貴方は『義父』として、例のカルテットを連れて行くご予定なんでしょう? だったら私もマメちゃんの『義母』として同行する権利は有りますわよね?」
「いや・・・、『義母』としてって・・・」
「もう! 貴方は鈍過ぎです!」とエレナの長い耳が真っ赤になっている。
一瞬、目の前のエレナが顔どころか、長い耳の先端まで真っ赤にして恥ずかしそうにする姿に呆けてしまったギプスだったが、エレナが言っている意味を理解した瞬間、
「おう! 溜まっている仕事を早々に片付けたら、エレナの新しい杖とマントを武器屋に買いに行こうな!」
「新しい杖もマントも必要ありません! 第一、私達のランクの魔法使いが使う装備がその辺の武器屋になんて売ってたら私達は苦労して高難易度のダンジョンを攻略なんてしません!」
「まあそれもそうか? しかし、アイツらに『エレナも一緒に行くぞ!』って言ったら大喜びだぞ!『姉御とご一緒ですか〜』ってな!」とガハハとギプスが豪快に笑いながら溜まっている仕事を片付けていく、
マメが、ギプスとエレナとの3人連れで、まだ朝日も顔を出さない時間に王都からダンジョンへと続く王門に着くと、既に多くの冒険者達がダンジョンへと向かって出掛けていた。
その王門の出口での出門手続きを終えたマメ達は、王門を出た所で各々の冒険者パーティー達が仲間の到着を待っている『待ち合わせ場所』へ向かうと、そこには重装備で身を固めたアイス・バイス・カイス・デイスの四兄弟が待っていた。
「おう!皆、忙しい身なのに今日は儂の我儘に突き合わせて悪いのう。」
「いえ叔父貴、我ら四兄弟! 叔父貴からの頼みとあらば、何を差し置いても!」と長男のアイス、
「叔父貴、マメは叔父貴の可愛い息子さんなのは勿論、儂にとっては可愛い弟子です。可愛い弟子のダンジョンデビュー、何を差し置いても付き添うのが師匠の役目ですよ。」と鍛治師でもあり、錬金術師でもある次男のバイス、
「それに、やはりマメには正統派ドワーフの戦い方ってもんをその目に焼き付けて貰いたいですからな!」と三男のカイス、
「それよりも叔父貴、そして姉さん、この度はご結婚、おめでとうございます!」と四男のデイスが声を掛けると、四兄弟が一斉に、
「「「「 叔父貴! 姉さん! おめでとう御座います!」」」」
と、頭を下げてギプスとエレナの結婚を祝う。
「叔父貴、これは儂達からの心ばかしの祝いの酒です。」と四男のデイスが背中に背負っていた大きな酒樽を下ろすと、手に持っていた鍛治師が鍛冶場で良く使うハンマーで、酒樽の蓋を叩き割ると、三男のカイスが何処からか取り出した大ジョッキに酒樽の酒を満たしてギプスに差し出す。
それを満面の笑みで受け取ったギプスが一気に飲み干すと、今度は次男のバイスがエレナにジョッキに酒を満たしてエレナに差し出す。
無論の事、祝いの酒として差し出された酒は『ドワーフ殺し』と呼ばれる程のアルコール度の高い酒で、エレナには飲み干すのは無理なので、一口だけ口をつけるとギプスに渡してしまった。
まあギプスにとっては水の様なもので、全く顔には出て無いが、エレナなどは一口飲んだだけで顔が真っ赤だ。
そしてドワーフ四兄弟はまたまた何処から出したのか?自分達も大ジョッキを取り出すと、酒樽からジョッキへと並々と掬い上げると『叔父貴!おめでとう御座います。』と言いながら、大ジョッキの中に入った酒を一気に飲み干した。
それを見たギプスが『何で儂だけ並ジョッキなんじゃ?』とブツブツと文句を言っていたが、
「叔父貴、この大ジョッキは俺達四兄弟特製のお揃いのジョッキだから勘弁して下さい。 まあ今度、叔父貴の結婚祝いに夫婦ジョッキを送らせて貰いますよ!」と長男のアイスに言われて渋々と引き下がっていた。
「はいはい! そろそろ出発しますよ! 第一、冒険者ギルドのマスターとサブマスターが王門の前でいつまでも酒盛りなんかしてたら、冒険者の皆さんに示しがつきません! そうそう、アイスさん、バイスさん、カイスさん、デイスさん、私達の結婚の祝いの品、ありがとうございます。」とエレナが深々と頭を下げて感謝の意を伝えると、
「姉さん何を水臭い事を、儂達は叔父貴の親戚、叔父貴の姉の息子達です。そして姉さんは叔父貴の奥さんとなられた方、家族に何の遠慮がありましょうか!」と長男のアイスが答えると、
「「「そうですよ!家族に遠慮なんて必要ありませんよ!」」」と他の3人も一斉に声を上げる。
「ありがとう。」とエレナが目元を潤ませながら嬉しそうに再度頭を下げている姿を見ながらギプスが、
「さあマメの初ダンジョンデビューだ! 気合いを入れて行くぞ〜!」
「「「「おお〜〜〜〜!」」」」と全員が雄叫びを挙げる。
ちょっと恥ずかしそうに拳を挙げるマメが可愛いくて、エレナがマメの頭をワシャワシャと撫でると、ギプスに四兄弟が次々とマメの頭をなでぐりまわす。
そしてマメは更に恥ずかしそうに顔を真っ赤にしてる。
「そうそう、この王都ガラルの冒険者諸君! この酒樽に残った酒はこの『鉄壁の四兄弟』が儂達の結婚祝いに用意してくれた祝い酒だが、しかし! 儂達は今から息子の初ダンジョンデビューに同行せにゃならん! 空間魔法で収納して行っても良いが、この王都ガラルの冒険者諸君に、我々ドワーフにしてみれば少々惜しい気もするが、儂達の『結婚祝い酒』を諸君達にも振る舞おうと思う! さあ!
皆よ! 遠慮なく飲んで今日と言う日を祝おうぞ!」と王門の出口に集まっている冒険者達に声を掛けると、初心者向けダンジョンへ向かう為に用意していた馬車へと向かって歩き出す。
通常、冒険者ランクの低い冒険者パーティーや、駆け出し冒険者パーティー達は、各ダンジョン向けの乗り合い馬車に乗り合わせてダンジョンの入り口まで向かうのだが、流石はギルドマスターと言えば良いのか?それとも『鉄壁の四兄弟』の所有している馬車なのか?それとエレナさんが手配してくれていたのかな?と思いながらもマメはエレナに背中を押されながら準備された馬車へと向かう。