018 ) なんとかなるもんだ
あれから約3ヶ月、マメの周辺は慌ただしく状況が変化して、やっとマメは落ち着いて部屋で朝食を取っていた。
もちろん、マメの食事世話をしているのはアンナ・・・ では無く、アカネと言う名のドールと呼ばれる家事手伝い専用の球体関節人形で、一般的な家事全般を余裕で熟せる存在である。
このドールが誕生した切掛は、アールのボディ作りに端を発しており、バイス師匠とデイス叔父さん、アスターナさんも絡んでいるが、まあマメの以外な発想からこのドールは生まれた。
その日は、朝から昼までの限られた時間ではあったが、バイス師匠にデイス叔父さん、そしてアスタさんの3人に、アールのボディ作りに関する相談に乗って貰いたいと思っていたので、数日前から約束を取り付けてクラウン『雷槌』の拠点であるクラブハウスに来ていた。
「しかしデイスも仕方ない奴じゃ、約束の時間になってもまだ姿を現さぬとは・・・ 」
「では私の人形に、デイスさんを探して来させましょう。」と一体の人形を空間収納から呼び出して、人形の胸の部分に手を翳すと、何やら魔法陣を展開してデイス叔父さんを探して連れて来る様にと言うと、魔法陣が人形に吸い込まれて、それまで棒立ちで命令を待っていた人形が動き出す。
この世界には、昔から人から命令を受けて単純な作業を熟す存在がいた。
それは『ゴーレム』と言う存在、このゴーレムは製作者の命令を忠実に実行する存在で、例えば、王墓の墓守りや、ダンジョンの主の間の護衛でも有名だが、街でも荷車を引いていたり、王都の外壁工事や、街道の補修作業にも役立っている。
だだ、土魔法で作ったゴーレムには、一つの命令しか実行出来ない事と、単純な命令しか実行出来ないと言う欠点があったのだが、
「ねえアスタさん、アスタさんの人形達って土魔法で作ってるの?」
「いえ、主に私の場合は固有スキルを使って人形を作っていますが、基本的には錬金術で各パーツを作って、必要なパーツが揃ったら各球体関節を錬金術で再形成して固定して、一体の人形に仕上げてます。」
「そうなんだ、でもアスタさんの人形って、ゴーレムと違って動きが滑らかなのは、その球体関節のおかげだと言う事は分かったけど、ゴーレムを土魔法で作る時には、ある程度の命令を魔法で書き込んでから作るけど、アスタさんは命令を出す度に人形に魔法陣を書き込んでるよね? じゃあどうしてダンジョンで魔物達と戦う時や、森に出現した魔物と戦う時には、一々魔法陣を書き込まなくても、人形達は一斉に空間収納から飛び出して行って、魔物に向かって行けるの?」
「それはエメラダの能力が関係しているのですが、マメ君はリビングドールと言う存在を知りませんか?アールくんやエルくんと同じ様に、自分の意思で動ける人形の事です。」
「えっ?・・・」とエメラダを見ると、エメラダはマメに親指を立てて見せる。
アスタさんの言葉を肯定したのだろう。
「先ず、人形達を錬金術で作る時には、土魔法でゴーレムを作る時とは違い、命令を実行する為に二つの魔石が必要となります。
一つ目は、人形が各球体関節を動かすのに必要な魔力を供給する為に、ある程度の魔力が蓄積出来る様に最低でもブルーオーククラスの魔石が必要となります。
次に二つ目の魔石は、受けた命令を覚えておく為に必要な魔石となります。
ですので、今回の様に『簡単な命令を実行させたいだけ』なら、命令を魔法陣で書き込んで、その時に一緒に魔力を少し流してあげれば、後は体内に込められた魔石に充填されている魔力が無くなるまで、命令された行動を実行します。
そして、ココで重要となって来るのが『行動して欲しい動作のイメージ』を魔法陣に込めると言う事です。
そして、私の人形達が私が魔法陣で命令を書き込まなくても一斉に集団で戦えるのは、エメラダが人形達に指示を出しているからです。
まあその他にも色々な秘密も有りますが、簡単に言えばエメラダが人形達の頭で、人形達はエメラダの手足だと言う事でしょうか?」
「アスタさん、ありがとうございます。
今のお話しだと、アスタさんの人形と同じ形式で人形を作れたら、アールのボディも作る事が出来るかもと言う事ですよね?」
「ええその通りですが、コレは私の『スキル』を利用して作っている人形達なので、マーク君も私と同じ方法で人形が作れるとは限りませんけれども、アールくんのボディ作りの参考になれば嬉しいです。」との事だった。
結果、その日はデイス叔父さんを発見する事は出来なかった様で、アスタさんの人形は魔力切れを起こすまで、デイス叔父さんの研究室のドアを叩き続けていたそうな、
先ずマメは、アールのボディ作りに必要な素材から集める事にして、Eランクダンジョンの攻略から始めた。
このEランクダンジョンは、第10階層まではほぼ初心者ダンジョンと同等レベルなので、重戦士装備のエルがタンク約で前に出て魔物の動きを止めると、アスタに借りている人形を操るアールが切り込み、魔物にダメージを蓄積させて行き、マメが覚えた亜空間魔法で、魔物の頭上に直径約3㎝、長さ約2mの魔鋼製の杭を空間収納で5本取り出すと、重力魔法で一気に杭の自重を数倍にして、魔物の頭上から落とす。
まだ亜空間魔法も重力魔法も、やっと使える様になったばかりなので、それ程には威力の有る攻撃では無いが、取り敢えずはコノ戦い方でEクラスダンジョンの攻略階層を、第11階層まで進める事が出来た。
「アール、エル、今日はダンジョンの攻略をココまでにして、取り敢えず休もうか?」とマメが2人に言うと、アールが操る人形が親指を立て、エルが大きく頷いた。
本来なら、マメがダンジョン内で安全に休息を取るには、Eランクダンジョンの第13階層まで攻略して、第13階層に在ると教えられている『セフティゾーン』まで階層を降りるか? 第15階層の転移石が在る階層まで、攻略を進める必要が有るのだけれども、マメは亜空間魔法でゲートを開くと、ゲートの中に入る。
このゲートは、マメが亜空間魔法で覚えた『マイルーム』に直結しているゲートで、アンナに色々と指導して貰いながら覚えたのだったが、最初はその『マイルーム』を意識して維持するのが中々に大変で、先ずは兎に角ゲートの展開が出来る様になるのに3日、次に『マイルーム』を構築するのに1日、そして5m四方の空間を24時間維持する事が出来る様になるのに、9日間も掛かってしまったが、幸いにもマメが元々持っていた魔力量も、初心者ダンジョンを攻略した事によって大幅に増えていた事もあり、ちょっとしたコツを掴むと、難なく24時間は『マイルーム』を維持する事が出来る様になった。
「しかし、今回はミノタリウスの体に5本中2本しか杭が刺さら無かったね」と魔鋼製の杭を回収して来てくれたエルに言いながら、アールが回収して来たミノタリウスからドロップした霜降り肉を、マイルームに設置しているテーブルの上に置いて、
「今夜はコノ霜降り肉を焼いてステーキにして食べよう♪」と独り言を言いながら、上機嫌でステーキの付け合わせに合う野菜を、空間収納から取り出して、マイルームに設置した小さなキッチンで野菜を洗い始める。
塩と胡椒とニンニクで味付けして、表面をカリッと焼いた霜降り肉のステーキに、アンナが持たせてくれた野菜にパンとチーズを添えると、
「うん! ミノタリウスの霜降り肉ステーキって美味しいね〜♪ 明日は、今回の目的でもある第18階層に無事に到達して、アールのボディを作る為の素材の原材料である魔鉄が沢山取れたら良いね♪」とアールに話しながら、ミノタリウスの霜降り肉ステーキを2枚も食べて満腹になったマメは、
「このマイルームに、後はお風呂が有れば言う事なしなんだけどな〜 Eランクダンジョンでの今回の目的が無事に終わったら、久しぶりに公衆浴場の大きなお風呂に入りに行こうかな?」と言いながら、来ていた服を全部脱いでクリーン魔法で綺麗にすると、アールとエルにもクリーン魔法を掛けて綺麗にして、最後に自分にもクリーン魔法を掛けると、マイルームに運び込んだベッドにそのまま潜り込んで寝てしまった。
翌朝? 取り敢えず10時間ぐらいグッスリと寝たマメは、身支度を済ませると、
「アール、ゲートの外に魔物が居るか?ちょっと見て来てくれる?」とアールに声を掛けた。
幸いな事に、コノ階層で良く出現するミノタリウスは、マメが出現させたゲート周辺には確認出来なかった様なので、マメは用心しながらゲートを出ると、第11階層の通路を冒険者ギルドで購入して来たマップを頼りに、次の階層に続く階段目指して歩き始めた。