017 ) いろいろと頑張ってる
マメが城からギプスの家に戻った日の翌朝、日課の薬草採取に来ていた。
「さて、今朝はこのくらいで良いかな?」とマメが言うと、少し離れた草むらからアンナがひょっこりと顔を出して、
「マーク様、お待たせしました。
しかし、ただ見ていただけと、実際にやってみるのはやはり違います!やはり見ているだけではなくて、一緒に何かをして、一緒に同じ会話が出来るって良い事ですね♪」と右の二の腕に『フンス!』と力こぶを作って見せるアンナ、
今朝は、マメが日課の薬草採取に出かけようと家の玄関を出たら、何故かアンナが玄関の前にすでに待っていたのだ、しかも朝食用のサンドイッチが入ったバケットを持って・・・
「確かアンナって、僕がベッドを出る時には、まだ横で寝てたよね?」と不思議に思って聞くと、
「はいマーク様、私、出来るメイドですから♪」と帰って来た。
うん、何がどうなれば『出来るメイド』なんだろうか?全くわからないが、城に泊めて貰った時にお風呂で聞いたスキル『マイハウス』を使ったんだろうな?とは予想が出来るけどね。
昨日までの3日間は、アールがエメラダの所に行ってていなかったけど、今日はエルがバルバドス大王の近衛騎士として側に仕える事になっているので、マメの側にはいない、バルバドス大王が派手に近衛騎士を率いて城に現れたのだから、最低でも大王と国王同士の公式の場での話し合いが終わらない限りは、マメと一緒に城から帰って来るのはマズイだろう?と言う事となり、マメにはアンナが専属メイド兼、護衛として付く事になったので、マメだけ帰宅する事が許されたのだった。
エルがマメの護衛役として一緒に帰っても良かったのでは?との声も上がったが、
「今回、彼は大王様の近衛騎士筆頭として登城しています。
その彼がマーク様に付き従う形で城から退がるのは、少し無理があると愚行します。
ですが、メイドとして私がマーク様に付き従って城から退がるなら、事情を知らない物達は『マーク様のお世話係として一緒に城から退がるメイド』としか思われないのでは?と思います。
マーク様は私が命に変えても御守りしますので、是非御一考頂きます様、お願いします。」とアンナがバルバドスに直談判した結果、暫し考えたバルバドスがアンナに『勤めを果たせ!』と許可を出したのだった。
そんな理由で今日はマメとアンナの2人きりなのだ、まあこの後、冒険者ギルドに薬草を収めたら、クラウン雷槌までアールを迎えに行く事にはなっているが、はてさてエメラダが素直にアールを離してくれるかが少々心配だったりする。
だってエメラダさん、初心者ダンジョンの攻略が終わって王都に帰って来た時なんて、王都の王門の前で全員解散と言う事になったけど、アールと離れたく無いからって、大量の人形達を召喚して僕達が身動き出来ない様にして、アールを連れて帰れない様にしようとしたんだよ?!
あの時のアスタさんの慌て様なんて・・・
「エメラダ〜! 何をしてるの〜! ダメ!ダメ〜!」と、エメラダが次々と空間収納から人形達を呼び出して王門の前を人形達で埋め尽くして、僕達が帰るのを阻止しようとするエメラダに対して、アスタさんが慌てて涙目になりながらも、再び人形達を空間収納の中に戻すという無限ループに陥ってしまい、気転を利かせたアールがエメラダを『ギュ〜♪』って抱きしめてエメラダの動きを止めた瞬間、すかさずアスタさんが空間収納のアクセス権を奪い返す事で、事態を収束はさせたが、エメラダはアールに『ギュ〜♪』ってされたからなのか?完全に動きを止めた所を、アスタに他の人形達と一緒に空間収納に入れて閉じ込められていた。
アスタさんには悪いけど、今思い出しても結構笑える騒ぎだった。
何事か?と、その騒ぎに巻き込まれた女性冒険者達が、普段は凛とした振る舞いしか見せた事が無いアスタが、アタフタと慌てている姿を見て、
「キャ〜! アスタさん可愛い〜♪」って騒がれてしまい、アスタがその黄色い声援を聞いて更に顔を真っ赤にして、余計にアタフタしてしまうと更に声援が増えてしまい、羞恥心の限界を超えてしまったアスタは、すべての人形を空間収納に収納した途端に、馬車の御者台に飛び乗ると、物凄い勢いで王門外周にある馬場に、クラウン所有の馬と馬車を返却しに行ったが、それ以来アスタさんの顔は見て無い、その代わり、エメラダが僕の前に姿を現して、アスタからの手紙を手渡された。
まあ詳しい手紙の内容は此処では話さないけど、アールの新しいボディ作りの研究には、約束した通りに付き合ってくれるとは書いてあった。
そして今日は冒険者ギルドに採取し来た薬草を収めると、クラウン雷槌を訪れる約束をしていた。
マメが冒険者ギルドのカウンターで、採取して来た薬草を検品して貰っていると、
「アッ!マメだ〜〜〜♪」と元気な声と共に、突然マメの後頭部が柔らかい物に包まれた。
「マメ〜!今回の遠征中、ズ〜〜〜っとマメに逢えなくて寂しかったぞ〜!」と言いながらマメを抱き抱え、スリスリと頬ズリして猫可愛がりしているのが、冒険者ギルドのマリエや、エレナ母さん達と一緒に『女子会』するメンバーのひとりで、久しぶりにマメに逢えた嬉しさが爆発したんだろう猫系虎種獣人のミーヤだった。
突然マメの後頭部を抱き抱えたミーヤは、いつもマメの側に居るアールがいない事に気付くと、
「アレ?マメちゃん、今日はアールちゃんと一緒じゃ無いの?」と聞いて来た。
「はいミーヤさん、アールは数日前からクラウン雷槌のアスタさんの所でちょっとお世話になってて、今朝、採取して来た薬草の検品が終わったら、その足で雷槌までアールを迎えに行くんです。」
「そうなんだマメちゃん、でもアスターナさんとは何処で知り合ったの?」
「アイス叔父さんから紹介してもらいました。」
「ああアイス頭領か〜、うん、だったら一緒にクラウンに行こうよ!」
「えっ?でもミーヤさんは、冒険者ギルドへのクエスト完了の報告と、回収して来た素材の検品は良いのですか?」
「ああ報告は終わったから、後は検品が終わるのを待つだけなんだ! それに、検品の立ち合いと確認は、ミーヤで無くても大丈夫!大丈夫! オ〜イ、ガガス〜! 先にマメちゃんと一緒にクラウンに帰るから、後はお願い〜♪」とミーヤは、自分のパーティーのサブリーダーに後を任せて、マメと一緒にクラウンに行く事にした様だった。
「へぇ〜 良いな〜 アスターナさん、マメちゃんのダンジョンデビューに一緒に行ったんだ〜 良いな〜 私もマメちゃんのダンジョンデビュー、一緒に行きたかったな〜 本当はね、マメちゃんがEランクにランクアップして、ダンジョンも解禁になったから、私達のパーティーでマメちゃんのダンジョンデビューのお手伝いをしようと思って、アイス頭領の所に行ったんだけど・・・ 」
「何?マメのダンジョンデビューに同行したいだと? 残念だが、マメのダンジョンデビューに付き添うメンバーはもう決まっておるよミーヤ、」
「えっ!? もう決まってるの?」
「ああ、しかも初心者ダンジョンに同行出来る最大人数7名分決まっておる。」
「誰? 誰ですかそんな羨ましい人達わぁ〜〜〜!?」
「聞きたいか?」
「うん!」
「仕方ないな〜♪」と言いながらも、アイスは嬉しそうにマメのダンジョンデビューに同行するメンバーをミーヤに教えたらしい。
ただ、最後のメンバーに関しては『秘密じゃ!』との事で、ミーヤには教えてくれなかった。
「良いな〜アスターナさん、マメちゃんに同行して初心者向けダンジョンに行くメンバーをアイス頭領から聞かされた時に、アイス頭領達マメちゃんの家族が一緒に行くのは納得出来たけど、最初は『何処のSランクダンジョンにマメちゃんを連れて行く積もりなの?このメンバーで!?』って、ミーヤ本気でマメちゃんの事を心配してしまったわよ!」とミーヤは、マメの体にその自慢の尻尾を巻き付ける。
この尻尾、猫系獣人達特有の習慣で、家族や恋人、特に親しい友人ぐらいにしか触る事を許さない。
特に自分から尻尾を巻き付けるのは、猫系獣人の愛情表現である。
マメの正式な『専属メイド』として、姿を隠してマメを影から護衛しなくても良くなったアンナは、マメとミーヤの後ろを澄ました顔をして『出来るメイドモード』で付いて来ていた。
本当ならば、目の前でマメとイチャイチャとイチャつく様に歩く者に対しては、従者として主人の貞操を守る義務が有り、その様な輩は実力行使で排除すべき所なのだが、猫系獣人の発情期は年に一度しか訪れないので、ミーヤに発情期が訪れ無い限りは、マメの貞操に関しては安心して見てる事が出来る。
ましてや、主人の交友関係にメイドが口出しするのは以ての外であると、アンナも心得ているし、実はアンナ、無類の猫好きだったりする。
そんなアンナ、マメとミーヤが自分の前を歩いている姿を、ニコニコと幸せそうな笑顔で見ていた。
「そうだマメちゃん! 私、アイス頭領にクエスト完了の報告をしたら、10日間の休息期間なんだけど、その間に一緒にダンジョンに行かない?」
「えっ、ミーヤさんの休息期間中にですか?」
「そうそう♪」と、ミーヤがクラウン雷槌の玄関口ホールに設置してある受付でそんな話しをしていると、
「ミーヤ、残念じゃが今回はソレは無理じゃ!」とミーヤの後ろから声が掛かる。
「あっ、バイスさん、ただいま〜です!」
「バイス師匠、こんにちは♪」
「おう良く来たなマメ、そしてミーヤ、魔導蜘蛛の討伐クエストは無事に終えた様だな! して討伐の成果は?」
「安心して下さいバイスさん、バイスさんから頼まれていた魔導蜘蛛の魔核と、魔導蜘蛛の外殻、そして魔導蜘蛛の糸は、サブリーダーのガガスがこの後持って来ますよ!、しかも今回はクイーンを討伐する事が出来たので、ガガスの空間収納がいっぱいになるぐらいの収穫でした。
ですから楽しみにしてて下さい。
で、今、バイスさんが言ってた『ソレは無理』って、何でですか? バイスさんが地下の作業現場からわざわざ出て来る様な緊急クエストでも? それにバイスさんの後ろにはアスターナさんまで居るし?・・・」
「ああ心配せんで良い、上の兄貴に呼ばれているとアスタが知らせに来てくれてのう。
アスタと一緒に兄貴の所に行こうとしてたら、お前さん達の姿が見えたから声を掛けたまでで、ミーヤが心配する様な事は何も起きておらんよ!」
「じゃあ何で『ソレは無理』なんですか?」
「ああ、マメが公務とか試験の準備で忙しくなりそうでの!」
「ハァ〜〜〜!? マメちゃんの公務?試験? 何ですかソレ?」
「まあ、ミーヤ達がクエストに出掛けている最中に色々有ってのう。
その一件で、マメはこれから急いで色々と準備する事が有って、忙しい身なんじゃ、まあマメももう少しレベルを上げておく必要が出て来たから、兄貴に『マメのレベル上げ要員としてダンジョンに一緒に行きたい』と頼んだ方が良いかもな?」
「じゃあ今からアイス頭領に直談判してくる!」
「待て待てミーヤ、今から儂等は、マメも含めて兄貴達と大切な相談をせにゃならん、直談判するのはその後じゃ、お前さんのそのテンションで、今、兄貴の所に突撃して行ったら、下手したら兄貴の大槌にお前さんの脳天がカチ割られるかもしれんぞ!」とバイスに言われたミーヤが、急に大人しくなる。
ミーヤは、過去に一度、アイス達と一緒にAランクダンジョンの最深部に潜った事があるが、その時に『硬い外殻を持っ悪魔』と呼ばれる魔物と出会ったのだが、アイスが手に持つ大槌のだだ一度の殴打だけで、その魔物は撲殺されたのだ、しかも外殻は無傷のまま、脳天を殴られた魔物の脳だけが破壊されていた。