001 ) 1人の少年の話し
まったりのんびり過ごしたいと思うドワーフの少年の話しです。
まったりのんびり過ごせるでしょうか?
東の方角に見える山々の山頂が朝日の光に照らされ始める時刻、深い森へと続く道手前の草むら、そこはとても街道とは言えないような、まあ獣道に毛が生えたような道から少し入った場所、その草むらの中でなにかがゴソゴソと動いていた。
「今朝はこのくらいで良いかな〜?」とかなんとか言いながら、小さな男の子が草むらから頭をピョコりと出して、遠くに見える山々の白く染まってきた姿を眺めながら呟く、この男の子?、、、イヤこの少年?
この少年、とある山間部に在る名もなき小さな村から、3年ほど前に同じ村出身の青年や、少年達と一緒に王都まで出て来たのは良かったが、、、
「ごめんなさいね〜、15才未満の子は冒険者としては登録してあげれないの」
「本当に?本当〜にダメ〜?」
「だからマメはまだチビだから冒険者には成れないって、何度も何度も言って聞かせたじゃあないか! いい加減に聞き分けろよマメ!」
「う〜〜」と、マメと呼ばれていた男の子が、冒険者ギルドの受付で背伸びしながら受付カウンターから顔を覗かせて、ギルドの受付のお姉さんに対して両目をウルウルとさせながら冒険者登録して欲しいと懇願しているのに対して、一緒に村から出て来た少年達のリダー的役割りをしていた少年が、マメと呼んでいた男の子を何とか説得しようと四苦八苦していた。
「おい小僧! チビだと冒険者には成れないって? それはワシに対して言っているのかい?」と赤ら顔のドワーフが突然話に割って入ってきた。
「いえ、そんなわけではなくて、どうしても冒険者になりたいとマメが騒ぐ…、いや、この子はマーク・メタリアって言うんだけど、マークを説得している際に、マークの背の低さのことではなくて、マークがまだ冒険者として登録できる年齢に達していない事が言いたくて…」
「まぁそんな事だとは上で聞いてて思っていたが、マリエ、ちょっと小僧達の申し込み用紙を見せてみろ!」と言いながら、そのドワーフは左手でカウンターの端を掴むと『ヨッ!』と言いながら体を持ち上げ、マリエと呼ばれた受付嬢に右手を差し出した。
マリエはマメが記入した申し込み用紙と一緒に『こんな物も預かっています。』と、差し出し人の名前も一切書かれていない一通の茶色く古ぼけた封筒を渡す。
器用にも片手でカウンターに身を乗り出しているドワーフは、その差し出された申し込み用紙と古ぼけた封筒を受け取ると、まず申し込み用紙に目を通した後、封筒の裏表を確認して、封筒の匂いを嗅ぐと胸元から小さなナイフを取り出し、カウンターを掴んだままの左手の指先で封筒の端を抑え右手に持ったナイフで封筒を開け、中に同封されていた手紙を読み始めた。
その間、マメと呼ばれていた男の子は、目の前のドワーフを驚愕と尊敬の目で見ていたが、自分もそのドワーフと同じようなことができないかと、一生懸命カウンターの端を掴んでは自分の体を持ち上げようとぷるぷるとしていたが、いかんせん未だに体が出来てないマメに自身の全体重を支える腕力が有るハズも無く、カウンターの向こう側に居る受付嬢から見れば、ただただ顔を真っ赤にしてプルプルしている可愛い小動物にしか見えなかった。
「話しは分かった!おい小僧…、いや、小僧呼びは悪かった。
名前はマークだったか?マーク!お前は今日からこの王都ガラルの『冒険者見習い』としてビシバシと働かせてやるから覚悟しておけ! それと! このギルドに居る冒険者達に言っておく! この小僧、マーク・メタリアーナは! ワシもこの手紙で初めて知ったが! このワシ!ギプス・メタリアーナの親戚筋にあたる者らしい! だが!ワシの血縁者だからと言って甘やかすつもりもない! が! ドワーフの子供、しかも一族の者がワシを頼って来たのだ! ワシは歓迎する! そして、この場に居るドワーフの血族の者達よ! 俺たちに新たな家族が加わった! 勿論、ワシも出来る限りの面倒は見るつもりだが、ワシの目が届かない事も多々あるだろう、だが、我が同胞、我が同志達よ!そしてわが家族同様でもあるドワーフ族の皆がこの子の面倒を見てくれていると思うと、ワシも安心して仕事が出来ると言うものだ! 我が同胞達よ! 頼んだぞ!」
「「「 オオォ〜〜〜!! 」」」
と、この冒険者ギルドのトップでもあるギプス・メタリアーナと名乗ったドワーフの男が、広い冒険者ギルドのロビーで声高らかに宣言すると、それに応呼し、冒険者ギルドのロビーでたむろしていたドワーフたちが一斉に声を上げた。
それから3年の月日が流れ…
この3年、マメは毎日毎日冒険者ギルド見習い…、いや、冒険者見習いとして様々な雑用をこなして来た。
最初の一年は、ある日は王都の街の溝掃除、ある日は王都の地下下水道の掃除、ある日は王都が運営する公衆浴場の掃除と、毎日掃除だらけではあったが、マメは黙々とこなして来た。
二年目に入ると掃除以外にも徐々にだが冒険者ギルドの雑用も頼まれる様になって来た。
まあその多くがギルド職員からの頼まれ事と言う事も多々あったが、それでも冒険者ギルド内に併設された食堂兼居酒屋?の皿洗い&配膳係の仕事?バイト?まあこの仕事自体ギルド職員が持ち回りで担当していたのだが、多くの冒険者達が酔ってギルド職員達に絡むので、特に若い女性職員からのヘルプと言うか?助けてくれとの要請が多かった事もあり、ギルドマスターの
「じゃあ女性職員が当番の日にマメが暇している様なら、マメに代行を頼んでも良いぜ!ただし、マメの予定が最優先事項な事と、代打に入った日のマメへの日当分の賃金は、代わってもらった職員が負担する事を条件に許可する!」との鶴の一声で、マメは食堂兼居酒屋のヘルプにも入る様になった。
まあマメとしてはこの食堂のヘルプは大変に助かったので喜んでヘルプに入っていた。
だって夕食の賄いが出る上、ギルドの女性職員からもお小遣いやお菓子、雑用で一日中王都を走り回らないければならない日などはお昼のお弁当を持たせてくれる女性職員さんや、月に2回ほどある休養日などは女性職員さん達に連れられて色々な食堂やお店巡りなんかにも連れて行ってもらったりした。
無論、男性職員からも色々と可愛がってもらっている。
例えば、幼い子供が居る男性職員なんかは家族でピクニックに行く時に一緒に連れて行ってもらったり、暇な若い男性職員からは訓練場を使用して、戦闘訓練を実施してもらったりと色々と可愛がってもらったと思う。
まあ一部の男性職員からは戦闘訓練の合間に『あの女性職員には何処に連れて行ってもらったのか?』とか、『あの娘はどんな店でどんな物を好んで食べていたのか?どんな店でどんな物に興味を持っていたのか?』などの質問攻めに遭う事も多かったが、基本的には真面目に戦闘に関する訓練をつけていてくれた。
そしてギルドに所属している魔法使いからは生活魔法を教えてもらった。
特に種族特性なのか?土魔法と火魔法には適性があったようで、ギルド所属の魔法使いからは『マメちゃん、以外と魔法に関して素質があるよ!ちゃんと魔術師学校に通えたら、普通ランクの魔術師には成れるんじゃないかな?』と褒められたりもした。
まあ社交辞令だとは思ったけど、素直にお礼だけは言っておいた。
またギルドに加盟しているドワーフたちが主催している鍛治師の勉強会において、ドワーフ特有の鍛治スキルよりも、工作に関するスキルの方があったようで、鍛治師見習いの練習と称して鍛治道具の修理なんかをしている間に、なんと錬金術のスキルまで生えてしまった。
本当に魔法特性があるかも?
そして今日も薬草採取が終わったマメは、最近の日々の日課となっている場所へと足を進める。
そこには朽ち果てた2体のリビングアーマーが…
このリビングアーマー達、ダンジョン内で出没するリビングアーマーとは違い凶暴的ではなく、逆にどちらかと言うと理性的?で友好的な感じがした事もあり、自分の直感を信じたマメはこの2体のリビングアーマー達の鎧を、錬金術と魔法の練習も兼ねて修復してみようと思ったのだった。
1体はかなり損傷が激しく、もう1体は割合と損傷が少ない状態であったので、破損の多いほうのリビングアーマーの鎧を損傷の少ない方のリビングアーマーに使うことにして、破損の多いほうは冒険者ギルドに所属する魔法使いに教えてもらった土魔法で、小さなゴーレムを作り、その核をゴーレムの中に埋め込む事にした。
割合と破損の少ない方のリビングアーマーは、ギルドのドワーフ達に色々と教えて貰って覚えた錬金術(まあ簡単に鉄鉱石から鉄のインゴットを取り出す為に自然と覚えた様なものだけど…汗)で暇を見つけてはチマチマと少しずつだが鎧の修復に励んでた。
まぁマメ曰く『土魔法と錬金術の練習』らしいのだが。
マメが今日も森の中でリビングアーマーの鎧を修復していると、背後からガサガサと木々が擦れる音とともに、数体の人型の魔物達が顔を出す。
「あっ!今日も君達は来たんだ!」とマメが笑顔を向けると、そこには冒険者達からは『森の小人』と呼ばれているゴブリンが数匹立っていた。
マメが毎日の日課にしているリビングアーマーの修復に通っているこの場所も、実は彼らに連れて来られたのだった。
そして今日も彼等は両手に森の木の実や森で採れたキノコを両手いっぱいに持って姿を表した。
マメに干し肉や干し魚等と交換して貰う為に、
『森の小人』達は今日もマメに物々交換して貰うと、その足で森に帰る者、そのままマメがリビングアーマーの鎧を修復している姿を眺めてる者と様々だが、1匹の『森の小人』は、マメに交換して貰った干し魚を齧りながら拙い人族の言葉を使いながら、マメに色々と話しかけてくるのだった。
「マメ、キョウハ、ニンギョハ、ウゴクカ?」
「ああ、ニンギョでは無く『ニンギョウ』ねっ!」
「ニンギョ、チガウ、ニンギョウ!?」
「そうそう、『ニンギョウ』だよ!」
「キョウハ、ニンギョウハ、ウゴクカ?」
「そうそう、今日は人形は動かないよ!」
「ソウカ…」
「そんなにリビングアーマーが動くのが観たいの?」
「アア、ミタイ、ウゴクノミタイ!」と目をキラキラさせている。
なんでも彼は一度このリビングアーマー達が動いている姿を見ているらしい、しかもその時にボアに襲われていたのを助けて貰ったらしい。
「じゃあ頑張って修復してあげないとね!」
「マメ、ガンバル!」と、マメが以前に教えたガッツポーズをしながら愛嬌のある顔で笑う。
この『森の小人』と呼ばれるゴブリン達、洞窟やダンジョンで出て来るゴブリン達とは違い、邪気の無い顔をしている上、どちらかと言えば冒険者達に対して友好的で、例えば森の中で怪我を負った冒険者を見つけると、黙って横に寄り添っていたり、近くに他の冒険者が居たりすると、その冒険者達を怪我した冒険者の所まで誘導してくれたりする為、この王都の冒険者ギルドに所属する冒険者達は無闇矢鱈に『森の小人』に対して危害を加えたりする事は無い。
逆に、クエストに出掛ける冒険者が王都を出発する際にこの森を通り『森の小人』を見掛けると、願掛けも兼ねて『森の小人』に干し肉を手渡して行くぐらいだった。
そんな感じで、錬金術の練習と称してコツコツとリビングアーマーの鎧を修復し続け、やっと修復は終わったのだが…
「マメ、キョウモ、ニンギョウ、ウゴカナイ?」といつもの声、後ろを振り向くと例の『森の小人』、
「ああ、キミか〜、鎧の修復は終わったけど…修復された鎧にリビングアーマーの魔核が、まだ馴染んで無いのかな〜?」と、マメの側に立つ小さな姿に視線を移す。
マメの横では体長約50㎝ほどの小さな騎士の格好をした人形が、『何か用かな?』と言う感じでマメを見上げていた。
この『小さな騎士の格好をした人形』は鎧の損傷が激しかったので、魔核だけを取り出し、土魔法で作ったゴーレムに魔核を移植した方のリビングアーマーなのだが、こっちのリビングアーマーは魔核をゴーレムに移植した直後からチョコチョコと動き回り、なかりアクティブな姿を見せてくれており、そのせいか?早々に土で出来ているゴーレムのボディをなん度も作り直しさせられていたが、何度も土魔法でゴーレムのボディを作り直すのも面倒になり、角兎の毛皮に牧場で飼育されている家畜で、その姿を良く草原でも見掛けるビックシープのモコモコの羊毛を詰め込んで人形を作り、その人形の中にリビングアーマーの魔核を埋め込んだのだった。
まあ若い女性達に人気がある角兎の真っ白な毛皮では無く、少し燻んだ灰色の角兎の毛皮や茶色い毛皮、まあ余りお金を持って無いマメが主に購入する事が出来たのは、完全に薄黒い色をした毛皮だったが、ギルドに加盟するドワーフ達が行っている鍛治師の勉強会で覚えた革鎧作りや革鎧の補修技術を駆使して、覚えたばかりでまだまだ練習中の錬金術で角兎の長い毛を限界まで短くしてみたら、結果的には思っていた以上に手触りが良い鎧姿の小さな人形が出来上がったので、その人形の中にリビングアーマーの魔核を埋め込んだのだった。
まあモコモコの人形ならどんなに転げ回っても手足がボロリと折れる事も無いだろうし、なんせギルド所属の魔法使いさんに生活魔法の一つである『物質保存』の魔法を教えて貰ったので、早々には人形の手足が取れる様な事にはならないと思う。
この『物質保存』の魔法は、割れやすい陶器のカップ、皿、壺なんかに『物質保存』の魔法を掛けて割れにくくする魔法で、リビングアーマーの魔核を人形に移す前に教えて貰いたかったが、今更言っても仕方ない…
まあその代わりと言ってはなんだが『クリーニング』魔法を修得する事が出来た。
これで人形に魔核を移したリビングアーマーがどれだけ転げ回って泥だらけになったとしても、この『クリーニング』の魔法1発で綺麗になる事間違いなしだろう。
まあこの『クリーニング』の魔法は、長期間ダンジョンに篭る冒険者には必須の魔法だとの事だったので、早い段階で覚える事が出来たのだから大満足である。
その代わりと言っては何だが、ギルド所属の魔法使いには、今度、角兎の毛皮とビックシープの羊毛を使って人形を一体作って渡す事になった。
ギルド所属の魔法使いの彼の4歳になる娘さんが、マメが作った人形を一目見て、
「あっ…お父さ〜ん! 私もあんなお人形が欲しい〜〜〜!」と、ギルド所属の魔法使いの為に母親と一緒にお弁当を届けに来ていた娘さんが、ギルドの食堂で錬金術が得意なドワーフから革鎧の作成&修復のコツを教わりながら人形を作っていたマメを見掛けた際に、マメがその手に持っていた人形に一目惚れをしたらしい。
まあこの出来事以来、マメに人形を作って欲しいと依頼して来る人が増えた。
主な人形の製作依頼者が冒険者ギルドの受付嬢達だったり、女性冒険者達だったりと、そしてマメに人形を作って欲しいと依頼して来た彼女達が各方面で人形を見せびらかせて自慢するものだから、マメは陰で『人形作家のマメちゃん。』と呼ばれていたりもする。
ギルド所属の魔法使いが『クリーニング』の魔法を教えくれたのは、可愛い娘が駄々を捏ねてマメに人形を強請ったその対価だったりもするのだが…汗
魔法を覚えるにはお金がかかるのだが、そんな理由から魔法使いには貴族や商人などの金持ちの姉弟が多い事も頷けるだろう。
後は、ダンジョン等で魔物を討伐した際のドロップ品の魔法のスクロールか?ダンジョン産の宝箱の中に入っていた魔法書を手に入れて覚えるしかないのだ。
しかも!魔法のスクロールは銀貨2〜3枚で手に入れる事は出来るが、魔法書が無茶苦茶高い!最低でも金貨数枚、貴重な魔法書や強力な魔法が載っている魔法書などは、場合によっては白金貨が必要になって来る。
生活魔法を覚えるだけなら、意外と安価な魔法のスクロールを入手して、魔法使いに日当を払って体内の魔力を循環させるコツを教わりながら生活魔法を覚えるのだが、それでも上手に体内の魔力が循環し始めない人も居る。
そんな人は王都内にある教会に行き、金貨を払って司祭様か助祭様に強引に体内の魔力を循環させて貰うしかないのだが、その後数日間は体調を崩して寝込む事になるが、それでも生活魔法が上手く扱えない人も居ると聞いた事がある。
まあ魔法使いになりたい人達意外は、生活魔法が使えるだけで充分過ぎると思っていたマメだったが、最近では自分が使える魔力量が増えないか?と真剣に悩んでいる。
鎧を修復し終わったリビングアーマーの魔核に魔力を補充するには、どうもマメ自身が保有している魔力量では少ない様なのだ…
「さて、君の魔核に魔力を補充してみたけど動けるかな?」
「・・・」
「・・・、今日も起き上がるまでは無理か〜・・・、でも、まあ上半身を起こせる様にはなって来たね〜」とマメは笑顔だ。
マメが横を見ると人形に魔核を移植した方のリビングアーマーもウンウンと頷きながら、鎧姿のリビングアーマーの肩をポンポンと叩いている。
「さて、今日はちょっと早いけども僕はそろそろ行くね!」
「・・・?」と、最近では鎧姿のリビングアーマーもマメに対して自分の意思を思念で何となく伝えて来てくれる様になって来たのがマメには嬉しかったりする。
「ああ、僕は昨日で冒険者見習いから卒業して、Fランク冒険者になったんだ」
そう、マメがガラル王国の王都ガラルに来て3年と少しの月日が経過しており、とうとうマメは冒険者見習いを卒業して、念願の冒険者になれたのだった。
久しぶりの作品投稿ですが、楽しんで頂ければ幸いです。
また、誤字脱字等有りましたら指摘して頂ければ幸いです。
門希