42.196kmのモヤモヤ
殴り書きで書いた超短編小説です。もはや小説とも言えないかもしれません。
お手柔らかにお願いします。
走る。とにかく走る。
目の前の風景が霧になって私に触れる
息もとっくに切れているが、そんなこともう覚えてないくらいに今は全力だ。
華のセブンティーンという貴重な春の1ページが、私の生む風に煽られてペラペラとめくれていくのがわかる。今まで悩んでいたページも、まるで白紙のままのように軽やかにパタンと倒れていく。
彼の言った言葉が一向に頭から離れず、YouTubeもドラマも映画も漫画も小説も、全てに集中できなくなってしまっていた。ただこの万年床の上でゴロゴロと左右に転がってみたり、じっと枕に顔を埋めたりしたが、結局何も変わらない。そんな悶々とした臓器も吊るしながらリビングに向かうと、いつもパンパンの郵便受けから取ってきた無数のチラシが食事をするテーブルの上に散らかってた。
そうだ、この中から1枚選んで、書いてあることを実際にやってみたら、少しは心も軽くなるんじゃないのか。そう思い、ぐしゃぐしゃだったり、やたらと光沢があったりするチラシの中からズバッと選びぬいて見せた。
「42.196kmの世界へ駆け抜けろ
御影山町フルルマラソン!」
取った瞬間にわかった、これはハズレだと。
やたらと達成感に満ち溢れた男性が両手を上げてゴールしている写真がでかでかとのっていたた。別に運動が嫌いとかではないが、普通に考えて42.196kmも走る17歳の女子高生などいないのだ。しかもなんだこの距離、フルマラソンからちょっと伸びただけじゃん。字余りみたいなフル「ル」が仮にその1mだとしたら、走る前に主催者にドロップキックかましてやる。
絶対に練習してやると意気込んだのはいいが、応募締切は明日の9:00と、発走時間と同じというイカれた時間だった。もう今日は考えるのもやめたので、明日の朝に会場で登録して、そのまま走ることにした。
マラソンシューズなどないが、中学生の頃から使っている体育で使う外用の靴を履き、ギッチギチに靴紐を結んで向かった。
参加する大人たちはいつも町でみかけるおじさんやおばさん、お兄さんたちといったとこだが、いつもと明らかに顔つきが違う。話しかけたら靴のスパイクで足つぼされるんじゃないかと一抹の無駄な不安を膨らませながらスタート位置についた。
パン!パン...
いや!絶対2回目間違えて打ってるでしょ!
そうつっこむ隙もなく、朝の通勤電車のごとく人の波に押されていく。まあ私の住む田舎ではそんな経験できないので、あくまで妄想である。この波に押されるがまま自転車のギアを変えるように段々とはやくなっていった。
途中、何度か栗まんじゅうのお店の香りに胃袋を緩めるところだったが、靴紐がそれを許さなかった。おかげで、誇れるほどではないが、中団から若干後ろあたりに位置してると思われる。スタートの時に、つけるサングラスを一生懸命に考えていた魚屋のおっちゃんには、これでもかと言うほどの水を与えてあげて欲しい。
きっと、水を得た瞬間から、ピチピチと復活するだろう。ただ途中の公園でリタイアしたので、人が気づくか怪しいな。
少し心配する振りをしながら自分もリタイアしてしまおうかと思った。
ん?なにやら見覚えのある影が見えてきた。
1人だけ体格のいい若い男が走っていた。
そう、私はこいつを知っている、
こいつは私の彼氏だ!!!!
この前「僕ばかり気を使って疲れた。」とこぼしたことで、私は私のない脳みそを0から錬成するという離れ業をするに至った人物!
けど、どんな顔してあっていいかわからない。
今だって、このモヤモヤの臓器を振り落とすためにこのマラソンに出ているのだから、まだ何も伝える言葉は用意してない。
だんだんとその背中は遠のいていった。そして、彼に今近づくのはあまりいいことじゃないなと勝手に諦め、20kmを通り過ぎた辺りにある児童館のとこでリタイアした。
これでいいのさ、今はもう。
途中でやめるなんてだせえな!
バカ姉ちゃん!
後ろからでかい声で高音を鳴らすのは、ここらの児童館に通う子どもたちの親方、「にーちゃん」
もとい、私のバカ弟である。
疲れてるのか!なんで4本足なんだよ!
大人だろ!諦めるなよ!
この四本足というのは、ご覧の通り、私が両膝両手を床について項垂れていることから、
地面についてる足が4本ということになるらしい。スフィンクスかよ。
ちなみにこの「にーちゃん」という名前の由来は、どんな時も「二」本足で歩くからかっこいい、とか、「仁」王立ちが好き、とか、なんとも子供じみた理由だ。
元気ない顔してんな!そういう時はな!
走ることがいいんだよ!
走ってさ!走って走って、
そんで先頭に立って、どうだ!
って言ってやるの!
バカ姉ちゃんもずっとゴロゴロするくらいならさ!
今からマッハ40で走って先頭に立って言ってやんなよ!じゃなきゃつまんないし!
それにさ!
バカ姉ちゃんが頑張ってるのわかんないままだよ!
しっかりしろ!4本足!
無理やり起こされた体は錆び付いて動かなくなったロボットのようにぎこちない。けど、私の中の変な意地が燃え始めた。
そうだ、そうだ!気まずくて会いたくないとか、彼を理由にして逃げるのはダメだ!
ちゃんと真正面から伝えなきゃ!
だから、今、全力で、走んなきゃ!
思いのほか単純な構造の私は、そのまま全てを置き去りにする速度でゴールした。生憎1位じゃないが、彼を追い抜いてゴールしてやった。お互い疲れきってまともに会話もできなさそうだが、
どうよ!これが本気だよ!
さすがに身体を痛めつけすぎたのか、その後の記憶が無い。覚えているとすれば、病院のベッドで目が覚めたことくらい。
自分の意味不明なモヤモヤを晴らすために参加したマラソンで、彼を追い抜いてどうだ!って、私なにやってんだろ....。
今とてつもなく枕に顔を埋めたいが、左手の点滴のせいで、枕を顔の上に置くしかできない。
病室のドアがあくと、そこにはシャワーを浴びたての彼がやってきた。正直気まずいと思う気持ちは晴れきらないが、何か言わなきゃって思う。
大丈夫?熱中症気味って聞いたけど。
あ、でも元気そうでよかったよ。
じゃ、まあ、また来るね。
待って!
ん?
私の気持ちはね、別に薄れたりしてないの、
ただ今まで真正面で向き合って来なかったから、変に勘違いさせちゃった。ごめん。
でも、これからはその離れた距離を、
思い切り走りきって、追い抜いて、
しっかり真正面から伝えるからね。
だから、ちょっと先で待ってて!
彼は大きな声で笑った。そして、ほんの少しだけ涙を浮かべたように見えた。
ようやっと退院した身体は、まるで幾千の戦いをくぐり抜けてきたロボットのように年季が入ってみえる。まあたぶん気のせい。
では、途中で諦めないように、
靴紐をギッチギチに締め上げ、
走り出した。
ここまで読んでくださりありがとうございます。
皆様の貴重な時間をいただき、とても嬉しい気持ちでいます。
後書きも初めにも、書くのは初めてなので特に思い当たりませんが、僕は42.196km走りきる体力も自信もないとだけ記させてください。