5,匠先生、好きです!私と付き合ってください!②
匠先生と土曜に水族館、これはデートだよね。
これがデートじゃなければ、なにがデートなの?
サプリとプロテインを朝食にして、コールドは無理だから……温めのシャワーを浴びる。
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「よし!」
匠先生に認められたい。
ちゃんとやってるってところを褒めてもらいたい。
今日、告白しよう。
だってずっと好きだったし。
匠先生に好きになってもらえる努力はしてきたつもり。
△△△
それにしても、ちょっと、いやかなり、見た目が良すぎるんだよね。
ずっと周囲の視線を集めてて、気にならないのかな。
私、一緒に居るの気後れするんだけど。
「あの、匠くんの写真も撮っていい?」
思い切って言ってみた。
「いいけど……俺、一人で?」
「うん。友達に匠先生の正体だよって言いたい」
嘘、一人で見る。
「あー!俺、ほら顔出ししてないから身バレ厳禁でお願い」
「そうだよね。ダメかぁ……」
失敗。ドンマイ。
凹んでたら、匠先生から一緒に写真撮ろうって言ってくれた!
キャーッ!
う、腕が、首にあたって、か、肩も、ぶぶぶぶつかってる、よ!
「あ、背景、水槽、ばっちり。送るね」
今しかない。ガンバレ、私!
「たくみ……匠先生、好きです!私と付き合ってください!」
「……」
駄目かな。玉砕したかな。
大丈夫。失恋はばねになる。
「いいよ」
「……!」
やった!やった!やった!やった!
嬉しくなって、ずっとしゃべってしまった。
正直、何言ったかはあんまり覚えてないんだけど、匠先生にどう思われたかな……
「今日はありがと」
「こちらこそ。これからもよろしく」
「うん!よろしく」
水族館の後、カフェで遅めのランチ食べて、最寄り駅まで送ってもらった。
匠先生は動画の準備があるって言うし、私も夜のルーティンやらなきゃね。
△△△
次の日、匠先生から電話がかかってきた。
「今から行っていい?」
「え?家に?」
「ダメ?」
「駄目じゃないけど」
明日からお世話になる、インターン先の資料が広がっている。
「片付けるから、1時間後でいい?」
「やった」
やった、だって、かわいい。
駅まで迎えに行くと、匠先生は目立ってた。
だから、顔出ししてないのか、と妙に納得。
あんまり人気が出過ぎると、コンテンツに支障が出るんだろうな。
「お待たせ」
「ホントに行っていい?」
「いいよ」
手を繋いで来た道を戻る。
私に歩調を合わせてくれてるのが分かる。
「10分くらいだよ」
「らじゃ」
「飲み物ないんだ、コンビニ寄ろ?」
私はブラックコーヒー、匠先生はコーラ。
「コーラ飲むと、なんかいい事あるの?」
「スッキリする」
「あはは。私、匠先生は合理的を追及する機械みたいな人かと思ってた」
「先生、は、いらない」
「あ、だね」
いけな。プライベートと分けたいタイプだったのか。
メリハリつけるところも、流石、匠先生!
「ここ」
鍵を開ける。
匠先生が少し頭を傾げて入った。
玄関ってこんな小さかったっけ?
「あかねえ、っぽい!」
鼻息荒い。うける。
「そう?部屋で撮影してるから、ぽいって言うか、そのままでしょ?」
「おぉ!これ見てた。何が映りこんでんのか、気になってたんだ」
片思いしてた頃を思い出して、胸がチクってした。
「高校の部活でね、書道部だったの」
「へぇ」
毛に癖が付かないように、ぶら下げてた筆が数本。
「映りこんでた?」
「たまに、ちらっとね。何かなって思ってた」
「よく見てるね、ありがと」
恥ずかしそうに笑ってる匠先生、かわいいかも。
「これは?」
山積みにした資料。
「インターンシップ制度使ってね、明日からその会社に行くの」
「働くの?」
「うん。戦力にはならないだろうけど、ね」
「何系?」
「IT?」
「知らないのかよ」
「だから、今、見てたの」
「茜、おもろー」
買ってきた飲み物を開けて座る。
家にはテレビはない。
「動画でも見る?」
「おう、いつもどんなの見てるの?」
どんなのって、ほぼ匠先生だよ。
もうオールコンテンツ3周はしてると思う。
「今日の配信も良かったね」
「え?」
「腸内細菌って悪玉菌も必要なんだね、善玉菌だけあればいいのかと思って……」
キスされた。
匠先生が、急に私の頭押さえて、背中丸めて……
大人のキス、初めて。
やっぱり口ちょっと開けるんだね。
舌で舌、触った。なんか気持ちいね。
「ごめ」
「謝ることはないけど……ちょっとビックリした……へへ」
もっと気持ち悪いものかと思ってた。
とっても優しくて、腕とか胸とか背中とか、そわそわしてくすぐったい。
「今日は、動画の話はいいや」
「うん。うち何もないし、どっか行く?」
「そだな。勇太のこと冷やかしにでも行くか」
△△△
「この中に勇太君がいるの?」
デパートの1Fの大きな催事場は、人だかりができていて、その間を子どもたちが走り回っている。
「警察か、消防のマスコットキャラっつてたけど……」
「たくさんいて、分かんないね」
制服を着た人たち、着ぐるみの人形、のぼり、ブース
「あ、あれ。明日から行く会社だ」
自然と足が向く。
「あ、お姉さん、興味ありますか?サイバーセキュリティって聞いたことあります?目に見えないけど、これも立派な防犯ですよ」
そう言って、会社のパンフレットを前に出された。
「持ってますので、大丈夫です」
お辞儀をする。
「秋田茜と言います。明日からインターンでお世話になります」
もっとちゃんとした格好して来ればよかったな。
「そう?!わざわざ見学に来てくれたの?うちの若い子なんて、『休日出勤は致しません』なんて、ちっとも協力してくれないんだよ。あ、悪い子じゃないからね。合理的なだけだから。おじさんとは考え方が違うよね、世代かな?」
汗を拭き拭きしながら、一生懸命に話しかけてくれてるんだなって分かって嬉しかった。
「明日から、よろしくお願いします」
もう一度、深く頭を下げた。
いい会社っぽい。良かった。
匠先生を置いてけぼりにしてしまった。
キョロキョロと探す。
何だか知らないマスコットキャラに肩をポンポンされた。
振り返ると、人差指で入り口付近をツンツン指してる。
見たら、匠先生が女の子に囲まれてた。
「勇太君?」
こくこく頷いてる。
「大変だね」
中に入ってる姿を想像して、笑ってしまった。
勇太君にバイバイして、匠先生の近くまで行く。
すごい人気だな。
同じ大学の子かな?
軽く手を振ってみる。
気付いてぇ~って思いながら。
「悪いっ!」
そう言い残して、匠先生はこっちに走ってきてくれた。
「知り合い?」
「そんなとこ」
「あのパンフレットの会社だろ?」
「え?うちで見たやつ、よく覚えてるね」
匠先生は私の手を引っ張って、どんどんイベント会場から離れていく。
「挨拶できたの?」
「わざわざ見に来てくれたのかって、誤解されちゃった」
「別にいーんじゃね?」
「私も、つい、そんなフリしちゃって。なんか騙して、いい格好しちゃって、卑怯者っぽいよね……」
突然、立ち止まった匠先生に抱きしめられた。
そして、また頭を捕まれて、さっきよりちょっと強めのキス。
人生二度目のキスが路チューとは……ハレンチ?