表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/11

4,匠先生、好きです!私と付き合ってください!①

 勇太からチャットが送られてきた。


『これから、あかねえと会うけど来る?』


 は?行くに決まってんだろ。

 授業がない日なのに、キャンパスまで、わざわざ行った。


『嘘だったら、もう動画出てやらないからな』

『はーい。ホントだったら、ビールおごって』

『当たり前だ』


 スマホをピコン、ピコン言わせながら向かう。

 校舎の入り口で勇太と落ち合う。


「あかねえとどこで会うの?」


 校舎に入ろうとする勇太の肩を掴んだ。


「カフェテリア」

「ここにいんの?」

「そう」


 騙された。あかねえみたいな可愛い子がいたら、俺だって気付くわ。

 もうどんなドッキリ仕掛けられてるのか分からないし、別で撮影されてるかもしれない。

 諦めモードで、付き合ってやるよ、の、てい。


「ごめんね、待った?」


 と、勇太が声を掛けた先に……


「待ってない」


 まさか、だろ……


「これね、一緒に動画配信やって……」

「あかねえ、じゃん!」


 大きな声が出た。

 うっわ。かわいっ。ドタイプ。

 画面で見るより、数十倍は可愛いいな。

 かおちっさ。黒目でっか。思ってたよりほっそ。


「握手してください!」


 ダメもとで言ったら、手を握ってくれた。

 やわらけぇ。ほんと、かわいい。ふわふわじゃねーか。


 勇太が何言おうと、本人にドン引きされようと、俺の「あかねえ愛」を証明したかった。

 そしたら急に、俺たちの中身のない動画を言うのが恥ずかしくなってきた。


「勇太、ちょっとこっち来い!」


 腕を引っ張る。


「あのさ、俺らのコンテンツ、匠先生のって事にしない?」

「は?なんでだよ」

「あかねえは俺らのとか好きじゃないよ。俺のこと見ても分かってねーし」

「だからなんだよ」

「頼む。お前の企画をダメだって言ってるわけじゃないけどさ、会って早々、嫌われたくねぇんだよ」


 勇太に失礼なお願いをしてる自覚はあったけど、分かって欲しかった。


「いいよ」

「サンキュー!!!!!」


 匠先生の動画も、勇太と二人で見てた。

 この前、コラボの依頼を送ったら、返信があって盛り上がったばかりだ。

 具体的なことはこれからだけど、コラボも実現させたい。


 勇太が、匠先生のサイトを茜に見せた。

 名前が一緒だからな。信憑性はあると思った。

 だけど、まさか……


「私、大好きです!毎日見てます!匠先生なんですか?」


 と、いう、返事は、期待、して、なくて……


 ここで、いやぁ、ごめん。うそ、うそ、じょーだん、って言えればよかったんだけど。

 ぴょんぴょん、口押さえて嬉しそうに跳ねてる茜がさ……なに?うさぎなの?っていうくらい可愛らしくて、俺の脳みそショートした。たぶん。そう。焼き切れたんだな。


 匠先生を褒めちぎる茜。

 ちょっと嫉妬しながら、話を合わせる俺。

 俺だって、匠先生のことリスペクトしてるし。全部見てるし。


 勇太は気を利かせたのか、バイトが入ってたのか、気が付いたらいなくなってた。

 だから茜のコンテンツで俺が思ってたことを言ってみた。


「テロップがさ、背景色と近いと読みにくくなるからさ……」

「そうだね!」


 近くで頷く茜、まじ可愛い。


「サムネの写真はさ、あかねえがもっと大きく映ってた方が、お勧め一覧で分かりやすいかなって……」

「なるほど!」


 やべぇ。キスしたい。


 バイトの時間が近くなってきた。


「そろそろ行かないと……」

「そうですよね。引き止めてしまってすみません。とても勉強になりました」


 あーぁ。手引っ張って、バイト場に連れて行きたい。


「匠先生はこれから、明日の更新準備ですか?」

「ま、そんなとこ」

「勇太君と一緒にやってるって知りませんでした。さすがに、あのペース一人じゃ無理ですよね。ちょっと考えれば分かるのに。私、てっきり一人でやられてるのかと……」

「まーねー」




 △△△




 ダーツバーに出勤したら、勇太がいた。


「お前、ちょーいい仕事してくれた!あざーす!感謝!感謝!」

「だろ?早くビールおごれ」

「おお。何杯でも飲め!」


 茜は想像以上に可愛かった。

 また、会う約束を取り付ける時は、少し……いや、ぶっちゃけかなり、緊張した。

 誰にでも気安く言ってきた「次いつ会う?」に、断られるなんて選択肢を考えたことなんて無かった。もし断られても、また誘えばいいや、くらいに思ってた。まさか「断られたらどうしよう俺……」的なこと、初めてだったんだ。


「また会うの?」


 既にほろ酔いの勇太。


「あ、ん」


 俺をじっと見て、顔をグイっと近付ける。


「いつ?」

「なんで?」

「なんで、って。俺も行く」

「来なくていい。俺と茜だけでいい」


 目をカッと見開いて、勇太が口を尖らした。


「茜、って呼んでんの?もう、名前で呼んでんの?」

「本人には言わないよ。なんだよ、別にいーだろ」


 黙らせたいから、ビールのお代わりを出す。

 なのにグビグビ飲んで、すぐしゃべる勇太。黙れって。


「あのさぁ。匠でも、ふられることってあんの?」

「まだない」

「じゃ、初めての失恋かもね」

「なんでだよ」

「嘘つき、だから」


 痛いことを言われて、しょげる。

 でも、ぜってー落とす。好きにさせてみせる。




 △△△




 授業があると時間が減るから、会うのは土曜にしてもらった。

 行き先は水族館。女子が喜ぶ定番だろ?


「匠せんせーい!」


 うわっ!まぶしい!茜、輝いてる!


「先生……は、ちょっと、あれだ、匠でいいよ」

「そうですか?じゃ、私は茜で」


 よっしゃ、公認!


「『水族館の癒し効果』の動画見ました!魚の豆知識も満載でしたね!」


 あ~、それ、俺も見てる。


「だろ?気分的なものってだけじゃなくて、心拍数とか血圧とかさ、数値で図れるものまで下がることがあるって、意外じゃね?」

「はい!私、今日、匠先生と一緒ってだけで、緊張しちゃって、心拍数下げたいです」


 な、な、なん、なんだ。可愛い。


 スマホで写真を撮りながら、ちょろちょろ歩く茜。

 意外とせっかち?よく動く。


「あの、匠くんの写真も撮っていい?」

「いいけど……俺、一人で?」

「うん。友達に匠先生の正体だよって言いたい」

「あー!俺、ほら顔出ししてないから身バレ厳禁でお願い」

「そうだよね。ダメかぁ……」


 がっかりそうな茜、も可愛い。


「匠先生であることは内緒だけど、茜とは俺も写真撮りたい、おいでよ」


 茜を隣に立たせて、肩からくるっと手を回す。

 顔を近付けて、俺のスマホで自撮り。


「あ、背景、水槽、ばっちり。送るね」


 茜にシェアする。


「たくみ……匠先生、好きです!私と付き合ってください!」

「……」


 急じゃね?

 俺に彼女がいるとか、考えてもみないわけ?

 しかも、こんな風に、じっと目を見て告られたの初めてかもな。


「いいよ」


 茜ってば、アイアンハート。

 そこもいい。

 好きだ。




 そうなりゃ、手も繋いで歩けるし、髪とか触ってもオッケーだし、バックも持ってやれる。

 カップルとして茜と歩ける、うっ!幸せっ!


「今朝のコンテンツも良かったです!」

「ありがと」

「私が一番好きなのは、朝のルーティンお勧め動画で、実際にやってるんです」

「え?結構ハードじゃね?」


 匠先生の話ばっかだな。

 俺も全部見てるから、話は合わせられるけど……なんかな。


 気付いちゃったな。

 さっきの告白は俺に言ったんじゃなくて、匠先生に言ったんだよな。

 茜は匠先生の中身が好きなんだな。

 俺も尊敬してるから分かる。匠先生の熱量に惚れてるんだ。

 だから、会って間もないのに、自信持って好きだって、言えたのか。


「登録者数1万人突破もおめでとう。私なんて、1000人越えるのやっとで……」


 俺の登録者数は匠先生の10倍だ、と言いたくなった。

「数字なんて追ってもしょうがねーだろ。中身で勝負しろよ」って勇太に言った自分がハズイ。みっともねえな、俺。


 騙すのは心苦しいけど、一緒に居れば俺の事を好きになってくれるよな?

 俺、匠先生に負けない男になるから。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ