4,匠先生、好きです!私と付き合ってください!①
勇太からチャットが送られてきた。
『これから、あかねえと会うけど来る?』
は?行くに決まってんだろ。
授業がない日なのに、キャンパスまで、わざわざ行った。
『嘘だったら、もう動画出てやらないからな』
『はーい。ホントだったら、ビールおごって』
『当たり前だ』
スマホをピコン、ピコン言わせながら向かう。
校舎の入り口で勇太と落ち合う。
「あかねえとどこで会うの?」
校舎に入ろうとする勇太の肩を掴んだ。
「カフェテリア」
「ここにいんの?」
「そう」
騙された。あかねえみたいな可愛い子がいたら、俺だって気付くわ。
もうどんなドッキリ仕掛けられてるのか分からないし、別で撮影されてるかもしれない。
諦めモードで、付き合ってやるよ、の、てい。
「ごめんね、待った?」
と、勇太が声を掛けた先に……
「待ってない」
まさか、だろ……
「これね、一緒に動画配信やって……」
「あかねえ、じゃん!」
大きな声が出た。
うっわ。かわいっ。ドタイプ。
画面で見るより、数十倍は可愛いいな。
かおちっさ。黒目でっか。思ってたよりほっそ。
「握手してください!」
ダメもとで言ったら、手を握ってくれた。
やわらけぇ。ほんと、かわいい。ふわふわじゃねーか。
勇太が何言おうと、本人にドン引きされようと、俺の「あかねえ愛」を証明したかった。
そしたら急に、俺たちの中身のない動画を言うのが恥ずかしくなってきた。
「勇太、ちょっとこっち来い!」
腕を引っ張る。
「あのさ、俺らのコンテンツ、匠先生のって事にしない?」
「は?なんでだよ」
「あかねえは俺らのとか好きじゃないよ。俺のこと見ても分かってねーし」
「だからなんだよ」
「頼む。お前の企画をダメだって言ってるわけじゃないけどさ、会って早々、嫌われたくねぇんだよ」
勇太に失礼なお願いをしてる自覚はあったけど、分かって欲しかった。
「いいよ」
「サンキュー!!!!!」
匠先生の動画も、勇太と二人で見てた。
この前、コラボの依頼を送ったら、返信があって盛り上がったばかりだ。
具体的なことはこれからだけど、コラボも実現させたい。
勇太が、匠先生のサイトを茜に見せた。
名前が一緒だからな。信憑性はあると思った。
だけど、まさか……
「私、大好きです!毎日見てます!匠先生なんですか?」
と、いう、返事は、期待、して、なくて……
ここで、いやぁ、ごめん。うそ、うそ、じょーだん、って言えればよかったんだけど。
ぴょんぴょん、口押さえて嬉しそうに跳ねてる茜がさ……なに?うさぎなの?っていうくらい可愛らしくて、俺の脳みそショートした。たぶん。そう。焼き切れたんだな。
匠先生を褒めちぎる茜。
ちょっと嫉妬しながら、話を合わせる俺。
俺だって、匠先生のことリスペクトしてるし。全部見てるし。
勇太は気を利かせたのか、バイトが入ってたのか、気が付いたらいなくなってた。
だから茜のコンテンツで俺が思ってたことを言ってみた。
「テロップがさ、背景色と近いと読みにくくなるからさ……」
「そうだね!」
近くで頷く茜、まじ可愛い。
「サムネの写真はさ、あかねえがもっと大きく映ってた方が、お勧め一覧で分かりやすいかなって……」
「なるほど!」
やべぇ。キスしたい。
バイトの時間が近くなってきた。
「そろそろ行かないと……」
「そうですよね。引き止めてしまってすみません。とても勉強になりました」
あーぁ。手引っ張って、バイト場に連れて行きたい。
「匠先生はこれから、明日の更新準備ですか?」
「ま、そんなとこ」
「勇太君と一緒にやってるって知りませんでした。さすがに、あのペース一人じゃ無理ですよね。ちょっと考えれば分かるのに。私、てっきり一人でやられてるのかと……」
「まーねー」
△△△
ダーツバーに出勤したら、勇太がいた。
「お前、ちょーいい仕事してくれた!あざーす!感謝!感謝!」
「だろ?早くビールおごれ」
「おお。何杯でも飲め!」
茜は想像以上に可愛かった。
また、会う約束を取り付ける時は、少し……いや、ぶっちゃけかなり、緊張した。
誰にでも気安く言ってきた「次いつ会う?」に、断られるなんて選択肢を考えたことなんて無かった。もし断られても、また誘えばいいや、くらいに思ってた。まさか「断られたらどうしよう俺……」的なこと、初めてだったんだ。
「また会うの?」
既にほろ酔いの勇太。
「あ、ん」
俺をじっと見て、顔をグイっと近付ける。
「いつ?」
「なんで?」
「なんで、って。俺も行く」
「来なくていい。俺と茜だけでいい」
目をカッと見開いて、勇太が口を尖らした。
「茜、って呼んでんの?もう、名前で呼んでんの?」
「本人には言わないよ。なんだよ、別にいーだろ」
黙らせたいから、ビールのお代わりを出す。
なのにグビグビ飲んで、すぐしゃべる勇太。黙れって。
「あのさぁ。匠でも、ふられることってあんの?」
「まだない」
「じゃ、初めての失恋かもね」
「なんでだよ」
「嘘つき、だから」
痛いことを言われて、しょげる。
でも、ぜってー落とす。好きにさせてみせる。
△△△
授業があると時間が減るから、会うのは土曜にしてもらった。
行き先は水族館。女子が喜ぶ定番だろ?
「匠せんせーい!」
うわっ!まぶしい!茜、輝いてる!
「先生……は、ちょっと、あれだ、匠でいいよ」
「そうですか?じゃ、私は茜で」
よっしゃ、公認!
「『水族館の癒し効果』の動画見ました!魚の豆知識も満載でしたね!」
あ~、それ、俺も見てる。
「だろ?気分的なものってだけじゃなくて、心拍数とか血圧とかさ、数値で図れるものまで下がることがあるって、意外じゃね?」
「はい!私、今日、匠先生と一緒ってだけで、緊張しちゃって、心拍数下げたいです」
な、な、なん、なんだ。可愛い。
スマホで写真を撮りながら、ちょろちょろ歩く茜。
意外とせっかち?よく動く。
「あの、匠くんの写真も撮っていい?」
「いいけど……俺、一人で?」
「うん。友達に匠先生の正体だよって言いたい」
「あー!俺、ほら顔出ししてないから身バレ厳禁でお願い」
「そうだよね。ダメかぁ……」
がっかりそうな茜、も可愛い。
「匠先生であることは内緒だけど、茜とは俺も写真撮りたい、おいでよ」
茜を隣に立たせて、肩からくるっと手を回す。
顔を近付けて、俺のスマホで自撮り。
「あ、背景、水槽、ばっちり。送るね」
茜にシェアする。
「たくみ……匠先生、好きです!私と付き合ってください!」
「……」
急じゃね?
俺に彼女がいるとか、考えてもみないわけ?
しかも、こんな風に、じっと目を見て告られたの初めてかもな。
「いいよ」
茜ってば、アイアンハート。
そこもいい。
好きだ。
そうなりゃ、手も繋いで歩けるし、髪とか触ってもオッケーだし、バックも持ってやれる。
カップルとして茜と歩ける、うっ!幸せっ!
「今朝のコンテンツも良かったです!」
「ありがと」
「私が一番好きなのは、朝のルーティンお勧め動画で、実際にやってるんです」
「え?結構ハードじゃね?」
匠先生の話ばっかだな。
俺も全部見てるから、話は合わせられるけど……なんかな。
気付いちゃったな。
さっきの告白は俺に言ったんじゃなくて、匠先生に言ったんだよな。
茜は匠先生の中身が好きなんだな。
俺も尊敬してるから分かる。匠先生の熱量に惚れてるんだ。
だから、会って間もないのに、自信持って好きだって、言えたのか。
「登録者数1万人突破もおめでとう。私なんて、1000人越えるのやっとで……」
俺の登録者数は匠先生の10倍だ、と言いたくなった。
「数字なんて追ってもしょうがねーだろ。中身で勝負しろよ」って勇太に言った自分がハズイ。みっともねえな、俺。
騙すのは心苦しいけど、一緒に居れば俺の事を好きになってくれるよな?
俺、匠先生に負けない男になるから。