11,好きな気持ちを伝えるのって難しい③
カフェテリアで勇太君に捕まった。
学校で会いたくないから声かけないでって頼んであったのに……
「茜っち、まじで、匠のこと救ってやってくんない?」
匠くんが落ち込んでいたことは、香織から聞いて知っていた。
「すげぇ、凹んじゃってさ。もうさ、廃人だよ。茜っちいないと、匠、助かんない」
「勇太、茜だって傷ついてるからその辺で」
香織が制してくれて、勇太君がやっと黙った。
「やっぱ匠先生が好きなの?」
ズキンッてなった。
「匠が茜っちのこと本気なの、伝わってたよね?」
ズキンッズキンッズキンッ
「勇太ってば!茜、ちょっとごめん、こいつ捨ててくる」
香織が勇太君の首根っこ掴んで行った。
伝わってたよ。匠くんの気持ち。私だって、好きって思って……あ、やば。また泣きそ……匠くんと話している時に違和感はあったんだ。匠先生ならしなさそうな事をしてたし、しそうな事をしてなかった。そして、本物の匠先生と知り合って、私の勘は当たってたって言える。
じゃ、どうして匠先生とは違うって思いながら会っていたのか。
たぶん、私も匠くんが好きだったからだと思う。
匠先生は尊敬する人だけど、匠くんは好きな人。
「デリカシーの欠片もない奴って、あーゆーの言うんだよね。茜、ごめんね」
香織が冷たいブラック無糖を買ってきてくれた。
「ありがと」
「でもさ、匠くんが廃人のように落ち込んでるっていうのは、大袈裟じゃないんだよ。茜が会いたくないって言うなら、無理にとは言わないけど、少しだけ話してみない?」
「うん」
△△△
家に帰って、溜まったレポートを片付けて、インターン先で取ったメモを見返した。
福岡さんの指導は分かりやすく、仕事は見ていて清々しいことを思い出していた。
ふと、動画の新着欄に目が行く。
「あ、匠先生!」
久々の更新に胸が高鳴った。
『今日は、人間の恋愛と脳の仕組みについて深堀りしてみたいと思います。参考文献はこちらの15冊……』
じゅう、ご?!
これまでに無い熱の入り方が伝わってきて、思わず吹き出してしまった。
こういう、飾らないところ好きだな。
それから男性の脳と、女性の脳の違いについて、その歴史は古代から続いてきた生活習慣によって形成されているらしいとか、それが恋愛にどう影響するのかとか、いつもながらに「へぇ~」「ふぅ~ん」を連呼した。
「やっぱ違うなぁ」
『最後に、今回この題材を取り上げた理由は、私自身のプライベートな理由からになりますが、初恋を経験して思うところがありまして……』
私の事だよね。
初恋という言葉に胸が潰れる。
福岡さんの無駄のないデスクやスケジューリングを思い出す。
とてもストイックな生活を送られているに違いない。
恋愛にうつつを抜かしている場合では無かっただろう。
ピンポーン、ピンポーン
チャイム音にビクッてなった。
そっと覗き穴を見る。
いつまでも逃げ続けるわけには行かない。
鍵を開けて、匠くんを招き入れる。
少し、痩せたのかな。髪、ぼさぼさ。
「開けてくれてありがと」
「どうしたの?」
ここから先には入って欲しくなくて、玄関に立ちはだかる。
「匠先生の見た?」
「うん」
「茜のことだろ?」
「うん」
玄関の分、いつもより少し背が高い。匠くんの顔が近い。
目が赤いよ?イケメンが台無しだよ?
「振ったのか?」
「……」
いつもこうだ。匠くんはじっと私の目を見て話す。
「何しに来たの?」
やり直そうって言いに来てくれたの?
「ちゃんと別れに来た」
私の事が好きだったんじゃないの?
「始まってないんだから、別れる必要なんてないんじゃない?」
最初から、嘘とか無しで、付き合おうって言ってよ。
「そうだったな」
今、もう一度、好きだって抱きしめてくれたら「私も」って言えるのに。
「匠先生と付き合うのか?」
なんて答えてほしいの?それ、ほんとに聞きたいの?
「行っていいの?」
ぎゅっと腕を捕まれた。痛いよ……
「行けよ……行ったらいいだろ……」
止めてくれないの?そこは「行くな」って言うところじゃないの?
「じゃ、放してよ」
だめ。離さないで。
「あ……」
手、放し、ちゃうんだ、ね。
これから、一から始めようって言って欲しかった。
立っていられなくて、しゃがんだ。
匠くんが出て行った玄関に座り込んで、私は泣いた。
行くなって言って欲しかった。
△△△
インターンシップの最終週。
お世話になった課長や、部署の皆さんにお礼と挨拶を言って回る。
今日の今まで、福岡さんはクールで、いつも通りを貫いてくれた。
仕事は教わることができたし、本物の匠先生を間近で見ることが出来てよかった。
「お世話になりました」
「こちらこそ。真面目に取り組んでいただけて、大変助かりました」
私が置かせてもらっていた、私物のマグカップとペン類を回収する。
「秋田さん、あの……もし、よければなんですけど、あの、この後、少し食事でも……」
「あー!!福岡が、秋田さんを誘ってる!」
急に、どやどやと人がやって来た。
「何度誘っても、一度も乗ってこなかったくせに~!」
綺麗なのに、ちょっとお化粧が濃過ぎる先輩が福岡さんの肩に腕を絡めた。
「やめてくださいっ!」
福岡さんはさっと身をかわし、そんな言い方しなくても……というくらいの剣幕で怒った。
「すみません。今日は予定があって」
「そうですよね。急にお声がけしてすみませんでした」
「じゃあさ、私と行こうよ!」
さっきの先輩が福岡さんの腕をつかんだ。
「すみません。僕も急に予定が!」
「なにそれ~ひどすぎな~い?!」
福岡さんは腕を振りほどいて、私に一礼して行ってしまった。
皆さんに見送っていただき、会社を出て、駅に向かう途中。
ここは福岡さんが通る道。
定時に上がる。寄り道はしない。
だから、もう来る。
「福岡さん」
「え?秋田さん?忘れものですか?」
「いいえ。待ってました」
「今日は予定があるって言ってませんでしたか?」
「先輩に聞かれちゃったから、邪魔されたくなくて……」
恥ずかしくなって、笑うしかなかった。
「やっぱり、秋田さん、ハート強いですね」
「そうですか?始めて言われました」
「「あははは」」
匠先生はどんなところで食事するんだろうって気になった。
「秋田さんは、いつもどんなところに行くんですか?」
「居酒屋とか、ファミレスとか」
「お酒飲みますか?」
「いいえ」
一人で外食する時は「ここに来る」と言って、定食屋に連れて来てもらった。
「誰かと来たことが無いので、緊張します」
「私も、初めて来たので、緊張してます」
福岡さんはサバのみそ煮定食、私は白身魚の黒酢あんかけを頼んだ。
「秋田さん、インターンお疲れさまでした」
「ありがとうございました」
「あの、やっぱり、諦めきれなくて、改めて……しつこいかも知れませんが……僕と付き合っていただけませんか?」
嬉しかった。
面と向かって、このフレーズを言ってくれる人を求めていた。
お読みいただきありがとうございました。
明日から、この登場人物たちの10年後を書いた『三十路な私たちの複雑な関係について』を全21話で連載いたします。「引き続き呼んでもいいよ」と思っていただけましたら、ブクマや☆☆☆☆☆で、応援していただけますと大変励みになります。
今後ともよろしくお願いいたします。
あおあん




