10,好きな気持ちを伝えるのって難しい②
秋田さんに言えた。
恋愛経験のない自分にとって、この感情は取扱いに困った。
認めたくはないけど、一番参考になったのは、たっくんの配信で見た「言えばいーじゃん。よければ上手くいくし、じゃなければダメなものはダメなんだから」だった。
経験値というのは、経験しなければ磨かれない。
秋田さんは困ってたように見えたけど、あれでよかったのだろうか。
「福岡、会議始まるぞ?」
「あ、そうですね」
「どうしたんだ?具合でも悪いのか?」
「はい、少し」
告白しようと決めてから、参考文献を読んだり、動画を見たりしたけど、まとめることが難しくて動画のコンテンツにならなかった。
毎日更新記録が止まり、同時にルーティンもやったり、やらなくなったり……もう、ルーティンとは呼べないかもな。
「帰っていいぞ」
「え?」
「有休、余ってんだろ?」
「はい」
「家帰って、休め」
「では、お言葉に甘えて」
病気でもないのに仕事を休むなんて気が引けたが、まるっきりの仮病と言うわけでもない。
集中しないで業務をこなせば、ミスも出るだろうから、合理的で積極的な休養ということにしよう。
家に帰って、パソコンを開くと、DMが来ていた。
たっくんから、コラボの件で話したい、という内容だった。
僕が秋田さんにばらしたことを、怒っているのだろうか。
とりあえず、土曜の午前中に会うことになった。
△△△
プライベートでファミレスに来たのは始めてだ。
店内に入ったら声をかけますって言われたけど、そもそも僕の顔は知らないはずだ。どうやって?
「いらっしゃいませ、一名様でよろしいですか?」
「いえ、待ち合わせを……」
「匠先生!こっちっす」
知らない人が手招きしている。
「あの、たっくんは?」
「あ、チャンネル運用してるの基本、俺なんで」
「はあ」
「たっくんは茜っちにフラレてべこべこに凹んでるんで」
「……」
付き合ってたのか?考えもしなかった。
「で、実は、今日、コラボの話じゃなくて、茜っちのこと聞きに来ました」
「はあ?」
「怒んないで、まじで、深刻なんだよ。おごるから、話聞かせてくださいっ」
テーブルに手を付いて頭を下げている。
「あなたは?」
「俺は、勇太って申します」
「はあ」
「ドリンクバーでいいっすか?」
「まあ」
とりあえず、カフェラテを入れてきた。
「秋田さんのお話って?」
「あの、匠先生は茜っちのインターン先にいたって本当っすか?」
「はい」
「茜っちは匠先生のファンなんだけど、ホントに好きなのはたっくんなんだよ」
「そうですか」
「だから匠先生からも、たっくんのこと押してやってくんない?」
何言ってんの?この人。
「お断りします」
「なんで?茜っちと匠、じゃなくて、たっくんの幸せがかかってんだよ?」
僕の幸せもかかってます。
「職場に私情を持ち込みたくありません」
「おかたっ!いじわる言わないで、協力してくれよ」
両手を合わせて拝まれた。
「秋田さんが決めることだと思います」
「そりゃ、そーなんだけど。モテチャンの匠は本当の姿じゃないんだよ。俺がプロデュースしてるっていうかさ……素はもっとフツーにいい奴なんだよ」
「そうですか」
こんな大学生が、就職した先で、大卒ってだけで俺より高い給料を貰うのかと思ったら、腹立たしかった。
「失礼していいですか?」
「え、まっ……」
「ごちそうさまでした」
無駄な時間を過ごしたな、と思ったが、無性に動画を撮りたくなってきた。
あんな、頭が空っぽのような人が作った台本を、芸能人みたいに見た目のいい人に読ませるだけで、10万人登録を成している。僕の方が時間をかけた内容を発信しても1万人、これが事実だ。秋田さんは100万人登録いてもおかしくないって言ってくれた。あんなチャンネルに負けてたまるか。
△△△
月曜の朝。
秋田さんとどんな顔をして会えばいいのだろう。
狂ってしまったルーティンのリズムを必死で取り戻した。
始業の50分前に出社。
「福岡さん、おはようございます」
「秋田さん、おはようございます」
何も変わらない。普通だ。
「今、少しいいですか?」
秋田さんが緊張気味に話している。
「はい」
「お付き合いの話、すみません。今は、ちょっと誰とも……」
たっくんと寄りを戻したのかな。
「もしかして秋田さん、彼氏とかいたりします?」
「え、いません、けど」
やっぱり別れたのかな。
「そうですか。ちゃんと断ってくれてありがとうございました。仕事で気まずいのは嫌なので、これまで通り接していただけますか?勝手なお願いで、すみませんが」
「分かりました」
こういう時、忙しいと言うのは有難い。
右から左に処理した書類を流していく。
秋田さんも「一心不乱」って感じだな。
「福岡、体調はよくなったのか?」
「はい。お陰様で」
課長は苦手だが、悪い人ではない。
「福岡さん、体調崩されてたんですか?」
「はい。ちょっと」
「だから、先週、更新が止まってたんですね」
「はい」
心配そうな秋田さん、優しいんだな。
「これからも匠先生として、頑張っていくので、見ていてくださいね」
「はい!」
嬉しそうな顔をしてる。
今は、たっくんには敵わないかもしれないけど、きっと僕を選んでくれるように努力しよう。
僕のチャンネルのスローガンは「たゆまぬ努力」だ。
自分の配信に恥ずかしくない人生を歩まなくては。




