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「もう一人のワタシ、チカラを貸して!」~悪役令嬢のチカラとわたしの知恵で、最強ヒロインが爆誕です。~  作者: サアロフィア
第01章 40,523文字

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第01話 医者に診せるために(サナの解決力)

【お知らせ】

VOICEBOXによるオーディオドラマを公開しました。

文末の広告の下にリンクを貼りました。

ぜひ、お聞きください。



光元国歴(ひかりもとこくれき) 2013年12月1日(日)につながる異世界から、この物語は始まります。


ホワイトウィング公爵家の公爵令嬢の寝室には明かりが灯っていた。

多くのひとたちが眠る深夜なのに、公爵令嬢は深刻そうな表情で起きていた。


公爵令嬢のこころの声が聞こえてきました。


『ワタシは、シャルロットです。 ホワイトウィング公爵家の第一令嬢です。 異世界にいる【もう一人のワタシ、サナ】のおかげで、愛しのダイチゼル王子と婚約できて、皇太子妃として幸せの絶頂にいました。

 だから、浮かれてしまって油断して周囲に対する警戒心が通常よりも少しだけ、そう、ほんの少しだけ弱まってしまったと反省しているところです。』


公爵令嬢はベッドに腰かけながら、下を向いて、考え込んでいた。


『なぜ、反省しているかと言うとですね。

今は深夜2時で、ワタシはワタシの寝所で寝ているはずだったのですが、ワタシの目の前には、長剣を抜いてワタシに剣先を向けている若い男性がいるのです。』


公爵令嬢が顔をあげた先には、背の高い若い男性が公爵令嬢をにらみつけていた。

男性は、力強いが紳士的な口調で、公爵令嬢シャルロットに話しかけた。


「声を出すな。 おとなしくしてくれていれば、危害を加えるつもりはない。」


シャルロットは、ひと息、深呼吸をしてから答えた。


「こんな夜遅くにレディの寝所に入って、剣先を向けておきながら、無理を言いますわね。

 普通の令嬢ならば、大騒ぎですわよ。 怖くて声を出せない令嬢の方が多いでしょうけれど。」


若い男性は少しだけ微笑んだ。

公爵令嬢シャルロットの物わかりの良さを喜んだのだろう。


「じゃあ、俺は幸運という訳だ。不幸中の幸いと喜んでおこう。」


「あなた、なかなか強いですわね。

こんな状況じゃなかったら、お手合わせをお願いしたいところですわ。」


「剣を習っているのか?意外だな。」


「ええ、昔の話です。

6ヵ月くらいの短い間ですが、中路(なかじ)流の師範の娘と御縁がありましたので。」


シャルロットは、約7ヶ月前の光元国歴2013年5月1日(水)からの6カ月間を思い出していた。中学2年生として、光元国の中学校にある剣道部で剣道を習ったことがあった。

『光元国では女性が剣を習うことが出来ることに驚いたけれど、剣を振った半年間は楽しい思い出だった』


若い男性は少し考えたあとで、意外な返事をくれた。


「そうか。では気晴らしになるように相手をしよう。」


若い男性は、腰に差していた予備の剣を鞘に入れたまま、シャルロットに差し出した。


「いいんですの? わたしの剣技はなかなかのものでしてよ。」


「声を出すな。というこちらの要求を聞いてもらっているからな。

これくらいの御礼はしても良いと思っている。」


剣を受け取ったシャルロットは、こう思った。

『これは大チャンスだわ。

この、人が良さそうな若い男性は、公爵令嬢の剣なんて舞いに等しい、つまりは形だけの弱い剣と舐めてかかっている。


1対1の剣の勝負なら、ワタシが勝つわ。


勝った後で、取り押さえてやれば、1件落着よ!』


剣を受け取ったシャルロットは、腰かけていたベッドから立ち上がって言った。


「そうですか? では、遠慮なく。」


わたしは、一礼をしてから、剣を抜こうとした。


「なんだ? その動きは?」


若い男性は、訳が分からない表情をして、シャルロットに聞いてきた。


シャルロットは、真面目な表情で答えた。

刺客とは言え、乱暴なことをしないので、少し好感を持ったからだ。


「これは殺し合いではなく、試合なのでしょう。

 剣の道は礼に始まって礼に終わるものです。」


「そうなのか? では、俺もそうしよう。」


若い男性は、同じように礼を返してくれた。


「お願いします。わたしは強いですわよ。」


わたしは、中路千晴に習ったように、剣を【氣】で包んだ。

『今は【気】と書いているが、気の旧字、米食に由来することを意識することで剣氣の威力が増すのだ』


「ほう? 令嬢にしておくのがもったいないな。」


若い男性は、同じように、剣を氣で包んだ。


「まさか? これができるなんて?」


シャルロットは、驚きを隠せなかった。


「俺も驚いているよ。できるやつに会ったのは初めてだ。

さあ、かかってこい。」


シャルロットは文武両道の才能が有ったので、剣道の腕にも自信があったのだ。


10本勝負をした後で、シャルロットは自信を無くしてしまった。


『ワタシの会心の一撃があっさりと受け止められた。何度も何度も攻撃をしたが簡単に受け止められてしまった。そして、悔しいことにワタシの体力が先に尽きてしまった。相手をしている男性は汗ひとつかいていないのに・・・』


シャルロットは、若い男性を待たせていることに気付いて、声に出すことにした。


「負けたわ。」


「納得してくれたようで何よりだ。

 ダイチゼル王子が、王太子を辞退する気になるための人質だから、あなたの無事は約束する。」


「そんな? 辞退させて、どうするの?」


「さあな、俺は聞いていない。」


若い男性は、その後は沈黙したままだった。


だから、シャルロットは考える時間を持つことが出来た。


『ワタシがダイチゼル王子の足を引っ張るなんて、そんなの許せない。

でも、この男に敵う使い手は屋敷内にはいない。

いいえ、国中探しても見つからないと思う』


考えても、どうして良いか思いつかなかったシャルロットは、ベッドに仰向けに倒れ込んだ。

そして、ぼんやりと天井を眺めるしかなかった。


『こんなとき、サナならどうするのかしら?』


シャルロットは目を閉じて、考え込んでいた。


『サナとは、シャルロットと入れ替わった女の子で、光元国の中学生だ。

約7ヶ月前の光元国歴2013年5月1日(水)からの6カ月間で、シャルロットの窮地を救って、今の幸せを手に入れる知恵を出してくれた恩人で、もうひとりの私とも言える頼りになる相棒だ。』


シャルロットが目を開けて、ふと天井を見上げると四角い窓の中に、サナの姿が見えた。

そして、サナと目が合った。


ワタシは、右手を伸ばした。 

サナも左手を伸ばして応えてくれた。

時空を超えて、ワタシの手のひらがサナの手のひらと重なった。


シャルロットは、サナと入れ替わるためのキーワードを声に出した。


「もう一人のワタシ! チカラを貸して! ソーシャライズ サナ!」


「socialize」(別表記:ソーシャライズ)とは、社会的な交流を持つ、人間関係を築く、または他人と親しくなることを意味する英単語である。(出典:weblio.jp)



一瞬だけ、ふたりの手のひらが光り輝いた。




シャルロットは、目を瞬きさせて驚いている。

先ほどとは、シャルロットの雰囲気が変わっていた。


シャルロットの身体に宿る魂は、サナの魂に入れ替わっていた。


サナのこころの声が聞こえてきた。


『なんということでしょう。


もう二度と入れ替わること無いと思っていたのですが、わたし=石田 紗菜は、シャルロットに呼ばれて、ゲームの中のワタシとふたたび入れ替わってしまったようです。


そして、目の前には2本の剣を腰に差した強そうな男性がワタシを見張っているではありませんか?』


サナは目の前にいる若い男性をひと目見てから、うつむいて下を向きながら、シャルロットへの文句を、こころの中で叫んでいた。


『あのね、シャルロット? 

わたしは貴方と違って、か弱い中学生なのですよ。 

このような場面にワタシと入れ替わって、ワタシがなんの役に立つというのでしょう。 

なにか過度の期待をされていませんか?』


サナは、一通りの文句を思い浮かべたあとで、いつもの冷静さを取り戻した。


『とは言え、入れ替わった瞬間にシャルロットの記憶を引き継いだワタシには入れ替わった理由がよーく分かりましたとも。 


そうですか? 

あなたの剣技を持ってしても、軽くあしらわれて、良い稽古をつけてもらった形で終わったと。 


あとは知力の勝負というか、交渉力や戦略勝負しか残されていないのですか? 


ワタシは有名な物語に出てくる軍師様ではないのですが…

まあ、呼び出された以上、微力を尽くすことにしましょうか。 


だけど、これだけは覚えておいてくださいね。

 

大きな貸しですから、普通の貸し3つ分の貸しですからね』


サナは気を取り直して、目の前にいる若い男性と話をすることにした。


「あなたは、なにを望むのですか?」


「聞いてどうする?」


 目の前にいる若い男性は

『興味本位で聞きたいだけで、なにもしてくれない奴に話す気はない』

という表情をしていた。


それを読み取ったサナは、真面目な顔をして話をつづけた。


「これは、交渉です」


「交渉だと? 貴族様が俺のような平民とか? 

笑えない冗談だな」


「あなたの剣技は見事でした。ほれぼれするぐらいです。

あなたのような立派な剣士とつながりを持ちたいと思う貴族は少なくないはずです。

今までも多くの貴族からの誘いを断ってきたのでしょうが、それでも交渉してみたいと思ったのです」


「それは、買いかぶりだな。

今まで多くの騎士団の入団試験を受けたが、不合格だったからな」


サナは、その答えを聞いて理解に苦しんだ。

しばらく考えてから彼が落とされた理由が分かった。


『その騎士団の責任者である団長たちは、自分の地位が脅かされると感じて、彼を不採用にしたのだ。


なんともったいないことを。


でも、まあ、剣技をたしなむ貴族は少ない。

その中で彼のすごさを理解できる貴族は、現実世界で剣技を習ったシャルロットくらいでしょうね』


若い男が不合格になった理由を推理できたので、サナには余裕が出てきた。


「そうでしたか? ところ変われば品かわると申します。 

他の騎士団では不合格だとしても、ワタシの価値観では貴方は一流の剣士です。 

なんとしても、味方に引き入れたいのですよ」


「変わった令嬢だと思ったが、本当に変わっているな。だが、あきらめろ。」


「では、質問を変えます。 あなたが仕事を終えて得られるものは何ですか?」


「金だ。お貴族様は捨てるほど持っているから理解に苦しむだろうがな」


若い男性の言葉には、貴族に対する嫌悪感が含まれていた。


「では、その金で手に入れようとしているものは何ですか?」


サナは若い男性の嫌悪感を受け流して、冷静に質問を重ねた。


「医者だ。 妹を医者に診せるために金が要るんだ」


「そうですか? それなら、急いだ方が良いのではありませんか?」


「ああ、その通りだ。

夜明けまで、公爵令嬢様が静かにしてくれれば、金をくれると約束してくれたからな。

お金をもらってすぐの朝に妹を医者に診せるつもりだ」


「それまで待つのですか?」


「なにが言いたい? 俺を怒らせるな。 

妹のことで叫びだしたくなる気持ちを抑えつけることが限界にきているのだ」


サナは若い男性の気持ちを理解していることを、目を合わせることで伝えながら、言葉を続けた。


「ワタシがあなたに提供できるもの、つまり、してあげられることが有ります」


「聞くだけ聞いてやる。」


「この屋敷に寝泊まりしている医者、聖女、ワタシの護衛とともにあなたの家に行きます」


「そんなことをして、何の得がある。」


「あなたの妹が治ったあとで構いません。 

あなたの剣技をワタシのために役立ててください。

もちろん、お給料は払います」


「そんな上手い話があるものか?」


「いいですか? 

もらえるか分からない金のために、明日の朝まで待つか?

いますぐ、わたしの屋敷の医者と聖女と共に帰って、あなたの妹を診せるか?

お好きな方を選びなさい」


「そんなことを言って、俺をだますつもりだろう?」


「ワタシがあなたを騙したと判断したときは、その剣で私を斬れば良いでしょう。

 あなたの邪魔をできるような護衛は、ワタシの屋敷にはいませんから」


「信じてもいいのか?」


「ええ、御礼として、あなたの忠誠を売っていただきます」


「妹を治してくれたなら、俺の忠誠を売ってやる」


「交渉成立ですね」


サナは満足そうな笑顔を見せた。

若い男性は、信じても良いのか?という半信半疑の表情だった。


サナは、屋敷に寝泊まりしている医者と聖女、護衛をたたき起して、この男性の家に同行させた。




医者と聖女、護衛を連れたサナと若い男性が、男の家に入ると、妹が苦しんでいた。


「母さん、ミーユキの具合は?」


「イタール、帰ってきたのね。

 ミーユキは、さらに熱が上がって苦しそうなのよ。

 このままでは、朝まで持たないかもしれない」


「ミーユキ、お兄ちゃんだぞ。医者と聖女を連れてきたぞ」


サナは、眠い目をこすっている医者と聖女の肩をつかんで、声を掛けた。


「いまこそ、あなたたちのちからが必要なのです。

起きてください」


医者と聖女が目覚めたことをサナは喜んでいた。


『ワタシの悲痛な叫びで、目を覚ましてくれた。

やはり、魂の叫びは伝わるものね。


 なぜか、ふたりとも肩をさすっているが、治療を始める前の儀式のポーズなのかもしれない』


(作者による注釈)

サナは、苦しんでいるミーユキを見て、『急がねばならない』とあせってしまいました。

だから、シャルロットの腕力で肩をつかめば、か弱い聖女だけでなく医者も痛いはずだと気付けませんでした。



医者は寝ている娘ミーユキを診断して、治療方針を決めた。


「風邪のように見えるが、熱が高すぎる。

いつもより、強めの癒しの力をお願いします」


医者の診断結果を聞いた聖女は、頼りになる返事をしてくれた。


「分かりました。 やってみます。」


聖女は、妹に向かって、両手を広げた。 

昔のシャルロットも知らなかったようだが、左手から患者、患者から右手の方向に黄色い光を流しているのが見えた。 


シャルロットの屋敷では、通常は仲が悪いと言われる医者と聖女が協力している。 

それぞれが単独で治療するよりも効率が良いと理解できる、精神的に余裕がある人格者たちだからだ。


『これで、ひと安心ね。』


とサナは思っていたのだが、10分たってもイタールの妹ミーユキは苦しんだままだ。


「イタールが医者と聖女を連れてきてくれたのに、ダメだなんて」


「かあさん。まだ、あきらめたらダメだ。 きっと治してくれるよ」


サナはなにか見落としたことが無いか、なにかできることはないかと考え込んでいた。


『ワタシは、この世界のことは良く分からないのだが、妹の頭から感じる【黒い靄というか黒い光】が気になっていた。


剣氣を使えるシャルロットの身体の中にいるから見えるのだろうか?

いや、それなら、イタールにも見えたはずだ。


ということは、聖女が治療の黄色い光を流した状態で、使命感から氣が高まった私だけが【黒い靄というか黒い光】を見ることが出来るのかもしれない。


風邪によく似た症状で高熱で苦しむ。

そして、治療すべき部位は頭である。


このことから、病気の原因を推理すると…

もしかして、マンガに出てきた【脳炎】ではないのか?


それだったら、身体全体に治療の光を注いでも意味がないはすだ。 

そうだとしたら、現代医学の薬であるアシなんとかが無いと治せない』


サナは無理だとあきらめた次の瞬間には、次善の策を思いついていた。


『でも、聖女の力が使えるなら、方法がある』


サナは、医者と聖女に声を掛けた。


「お願いが有ります。聞いてくれますか?」


医者は首を縦に振ってから、返事をしてくれた。


「お嬢様の望むように致します。」


医者からの協力を得ることができそうだ。


聖女も首を縦に振ってから、返事をしてくれた。


「ワタシの力も残り少ないです。 

お嬢様の希望通りのことが出来るかどうかは分かりません。

それでも、ご期待には応えたいです。」


聖女の協力も得ることができると分かった。


聖女のチカラが残り少ないという申告を聞いたサナは、聖女エネルギーの不足を補う方法を考えた。 

そして、サナも協力するという姿勢を医者と聖女に対して示すために言った。


「ワタシも協力させてください。 おまじないにしか成らないかもしれませんが。」


「お嬢様のおっしゃる通りに聖女の力を使って欲しい。」


と医者はサナの後押しをした。


「どういたしましょうか?」


と、聖女はサナの意向を確認した。


サナは、両手でリンゴを包み込むようなポーズをした。


「これくらいの大きさに聖女様の力を集めて欲しいのです。」


聖女は黄色い光を集めてくれた。


「こうでしょうか?」


それを見たサナは、確信した。


『これなら行けるわ。』


サナは、聖女の黄色い光をどの場所で使うべきか?を説明していた。


「そのままの状態で、妹さんの頭の中に入れてあげてください。


そうです。

もう少し下です。もう少し右です。 

そう、そこです。


そのまま続けてください。」


サナは、シャルロットの剣氣を聖女を経由することで妹さんへの治癒力に変換した。 

妹の中の【黒い靄というか黒い光】が消えて、妹さんの苦しそうな息づかいが、穏やかな寝息に変わったのだった。


イタールは、あふれる涙を拭こうともせずに、わたしたちの方に向かって御礼を言った。


「ありがとう。 ありがとう。 

俺に出来ることがあれば言ってくれ。」


魂がサナのシャルロットは笑顔で答えた。


「あなたの剣の才能を私のために活かしてくださいね。

お給料の金額は、ひと月28万バーシルから始めましょう。

あなたの活躍次第では、上乗せを考えますわ」


イタールは、意外そうな顔をしていた。


「本当に雇ってくれるのか?」


「もちろんです。逃がしませんよ」


「公爵令嬢とは思えない悪い笑顔だな」


イタールは了解してくれたので、彼の剣の腕は、シャルロットの助けになるだろう。


治療を頑張ってくれた医者と聖女に、労いの言葉を掛けようとして、サナが二人の方を見ると、また、肩をさすっていた。


「そのポーズは治療を終えたあともするのですね。」


医者はなにか言いたそうにしていたが、だまっていた。

聖女の顔を見たら、意を決したように返事をしてくれた。


「剣を力強く振るお嬢様の腕力で肩をつかまれたから、まだ痛いんです」


そう言われて、納得した私は、ふたりに謝った。


「ごめんなさい。

イタールの妹ミーユキさんが苦しむ姿を見て、気があせってしまったの。

ゆるしてね」


医者は謝罪に満足したようで、あっさりとゆるしてくれた。


「次からは、手加減お願いしますね」


「も、もちろんよ」


この会話を聞いていたみんなに笑われてしまったけれど、ミーユキさんが助かったから気楽に笑えるのだと思うと、嫌な気持ちには成らなかった。




イタールの妹ミーユキが眠るベッドの周りに、サナが入ったシャルロット、医者、聖女、イタール、イタールの母が眠っていた。


連れてきた護衛たちは、交代で仮眠を取りながら、周囲を警戒していた。


そして、夜が明けた。 妹さんも目を開けた。


「母さん、兄さん、のどが渇いた。お腹が減った」


家族3人は泣きながら抱き合った。 

しばらくして、妹さんは言った。


「母さん、兄さん、心配かけてごめんね」


この感動の名場面は、すぐに強制終了させられてしまった。


家の扉が、ものすごい勢いで開けられたからだ。

ダイチゼル王子が部下を連れて、息を荒げてやってきた。


「シャルロットは無事か?」


ダイチゼル王子の必死な形相の声を聞いたサナは、首を傾げた。


『あれ? おかしいな? 屋敷を出る前に行き先を言ったんだけどな』


シャルロットの無事な姿を見たダイチゼル王子は、落ち着きを取り戻した。


『あとから聞いた話では、屋敷に着く前に、ワタシがどこかに向かう姿を見たと聞いて、ワタシの屋敷に入らずにワタシのあとを追ったそうだ。


まず、ホワイトウィングの屋敷で話を聞いてからにして欲しかったな。

でも、シャルロットに対する愛情の深さによるものだから、仕方ないかなと納得していた』




サナは、ダイチゼル王子と王子の部下たちから聞いた話を思い出していた。


『ダイチゼル王子は護衛たちと共に刺客を撃退していた。 

人質のワタシがどうなってもいいのか?と刺客が脅したのが悪手だった。 


ひとが良さそうな雰囲気からは想像が出来ないような気迫と素早さで、ダイチゼル王子は護衛が動くよりも早く、刺客を制圧したそうだ。』 


そう言えば、

『国境近くの辺境で修行していたのだったな』

とも思い出した。


サナは、今回の事件について、いろいろと考察をしていた。


『オソラゼル王子とその取り巻きたちは、おとなしく幽閉されていれば良かったのだ。

逆転しようなどと無謀なことをした結果、僻地に追放された。 

そこから逃げ出したと聞いたが、闇から闇へ消されたのだろう。 

二度とワタシを人質に取ろうなどと考えないように』


『ダイチゼル王子の暗黒面を見てしまって怖いと感じたが、ワタシへの愛情深さが現れたものだと思うし、愛するものを害そうとされたときに戦おうとしない男性はダメだと考えるので、良しとした』


『ワタシを人質に取ろうとした悪者の人相について、ダイチゼル王子に聞かれたので、3人組の顔を隠した連中だったと説明した。 


イタールについては、ワタシの評判を聞きつけて、妹を診て欲しいと頼みに来た時に、悪者たちを追い払ってくれたと説明した。 


ダイチゼル王子と部下たちには申し訳ないが、見つかるわけがない悪者たちを探してもらおうと思った。 


その後、無関係な3人組が貴族の屋敷で盗みを働こうとしたから捕まって犯人にされてしまったが、ワタシはなにも悪くない・・・ハズだ』




サナは、イタールとミーユキの今後についても良い結果を得ることができたと満足していた。


『兄のイタールは、ワタシが推薦したこともあって、剣技の熟練度を正しく評価されて、ダイチゼル王子の護衛となった。 妹のミーユキは、ワタシの専属メイドになった』


イタールは、

「俺の忠誠を得るための人質か? 良い手だな?」

と被害妄想を持っていたが、


ミーユキから

「シャルロット様にお仕えできることの喜び」

を毎日聞かされているうちに、


イタールは、

『シャルロット(中身はサナ)のことだけは信じても良いか』

と思ってくれた様子だった。


『これでワタシの役目も終わりそうだ』

と思ったサナは、シャルロットへの手紙を書くことにした。


「医者への税金の一環として、貧乏人でも週1回は医者に診てもらえる体制を作って欲しい。 

お金を払えない人からは、労働で返してもらえ。 

貧乏人に同情する必要は無いが、貧乏人を看る気がない医者が多いことを忘れないで欲しい。」


義理堅く、頭が良いシャルロットのことだから、ワタシへの借りを返すために、なにか良い手を考えて上手くやってくれるだろう。


第01話 終わり


お読みいただき、ありがとうございます。 作者のサアロフィアです。


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