今年一番さらっとしてた
ジメジメしてた。
ムシムシしてた。
日差しが強かった。
そんな日に走った。
自転車で激走した。
車を持ってないから。
車を持ってないのに、行きたかった。
超有名ディスカウントストアに。
車を持っていた頃から、趣味だった。
ディスカウントストアなどに、行くことが。
でも電車は、乗り継ぎや駅からの交通手段などが、面倒だ。
だから、自転車片道二時間を選択した。
車を買えるお金が貯まるのは、まだまだ。
でも、レンタルするのも、なんか違う。
だから、片道二時間の自転車の旅をした。
自転車は、アイデアが浮かぶ。
歌詞や俳句、小説のアイデアなどが、たくさん降ってくる。
行き二時間、帰り二時間。
計四時間あれば、打たせ湯のように、アイデアが降ってくるんだ。
電車だと、往復約2500円かかる。
そんな場所だ。
しかも、家から最寄り駅までも、少し距離がある。
そして、駅からディスカウントストアまでも、少し歩く。
それを入れると、ほぼ二時間だ。
電車&徒歩と、掛かる時間が同じ。
時間が同じなら、自転車を選ぶ。
2500円で、その日行ったディスカウントストアの、オリジナルどら焼きがいくつ買えるか。
だいたい35個だ。
職場のみんなに、一個ずつ配れるくらいだ。
配らないが、配れるくらいだ。
フードファイターなら、二桁の分数は、もたせられるくらいだ。
某ネコ型ロボットも、満足するくらいだろう。
真夏の自転車で、暑さはあった。
でも、スポドリや麦茶などを飲み、ワンコイン以下で済ませられた。
500mlペットボトルを、4本飲んだ。
この場合の、ワンコインは500円玉とする。
かなり、ペットボトル飲料を買った気がする。
でも、車のガソリンと比べると、安いもんだ。
約50kmを、約400円で走ったのだから。
どら焼き1個で50km、自分の足で走れる。
そんな、カラダになりたい。
ガソリンは現在、高騰している。
だから、一般的な車なら勝っている。
まあ、燃費のいい車には負けるが。
ガソリン1Lで、35km走れるとかヤバイ。
缶コーヒーひとつで、一生のお願いを聞き入れるのと、おんなじことだ。
こっちも、水道水や自分で作る麦茶なら、燃費は良かった。
でも、水道水や麦茶で、車は走らないように。
僕も、パフォーマンスやペースは落ちる。
そういうことだ。
どういうことだ?
とにかく、質のいいものが、走るためには必要だったということだ。
冷たさとか、冷たさとか、冷たさとか。
コスパとタイパ、両方欲しい。
そんな人間なのだ。
だから、自転車で爆走が一番なのだ。
※交通ルールは、しっかり守って走りました。
※ヘルメットを着用し、休憩も挟みながら、走りました。
※コスパは、小スパゲティの略ではありません。コストパフォーマンスの略です。
※タイパは、たい焼きパーティーの略ではありません。タイムパフォーマンスの略です。
自転車の上では、色んな出来事があった。
自転車で、草木が多い道を走っている時。
何かの植物の、ツルのようなものにやられた。
ラリアットされた。
首に思いっきり入った。
痛かった。
自転車で渡った、橋の下にあった川。
そこには、逆さに出ている足のような枝があった。
スケキヨ風太枝があった。
映画のシーンを、思い出してしまった。
歩道が無い道の、怖さが半端なかった。
歩道が無いことほど、怖いものはない。
『歩道が無いことホドウ』というダジャレについては、スルーしてほしい。
道を間違えかけたけど、間違えなかった。
ちなみに、人生で道を間違えかけたことは、一回も無かったと思う。
休憩で寄ったお店では、カラスが弾丸のように飛んできた。
僕の左斜め上の、かなり近い場所を通った。
とっさに、背中を反っていた。
カラスマトリックスしてた。
マトリッカラスしてた。
それらを乗り越えて、ついに着いた。
片道二時間で、ディスカウントストアに着いた。
長いようで、長かった。
短かったようには、思わなかった。
汗は、ダラダラかいていた。
顔と腕は、綺麗に焼けていた。
こんがり、きつね色に焼けていた。
タヌキ色までは、いかなかった。
美味しそうに、焼けていた。
誰が、フィリピンの伝統料理のレチョンバボイだよ。
※レチョンバボイとは、豚の丸焼きのことである。
ディスカウントストアは、かなり広かった。
そのディスカウントストアは、きっと東京ドーム一個分くらいあった。
まあ、東京ドームの大きさの想像はつかないのだが。
調べたとしても、よく分からないと思うのだが。
ふと考えてしまった。
東京ドームは、どら焼き何個分だろうと。
一生分のどら焼きを敷き詰めても、スカスカなのではないか。
そう思う。
店内は、見たこともない商品ばかりだった。
安いオリジナルどら焼きは、もちろん。
北海道から沖縄まで、地方物産品もあった。
輸入菓子も、たくさん揃っていた。
野菜や果物、お肉や魚も扱っていた。
自転車で来たので、冷蔵系や冷凍系は買えなかった。
野菜系は、さつま芋しか買わなかった。
駄菓子も凄かった。
知ってる駄菓子の、知らないフレーバーがあった。
えっ、あれの抹茶味があるのか。
そう思っているときに、誰かが近づいてきた。
暑さが抜けて。いい感じに涼しさを、取り戻し始めた頃だった。
「すみません。ちょっといいですか?」
的なことを言われた。
手には、その店の商品券的なものを持っていた。
「これは、今日使える商品券なんですよ」
的なことを言ってきた。
それから、こちらに話させることはなかった。
相槌の隙を与えられることも、なかった。
延々と、カード会員にならないか?的なことを、喋ってきた。
ディスカウントストアの会員勧誘だ。
ディスカウントストア側も了承の上の、商品券1000円分だからね、的な説明も受けた。
「もう二度と来なくても、お得ですよ」
的なことも言われた。
10分弱くらい、話していたかな。そう思うくらい、長かった。
体感は10分だった。
でも、3分くらいだったかもしれない。
その可能性は、否定できない。
10分だとしたら、大変なことだ。
話し掛けられる直前に、カップ麺にお湯を注いだと仮定したら。
確実に、麺がのびていた。
しかし、あれだ。
カップうどんを、10分待って食べる方法がバズった。
5分のところ、倍待つやつだ。
カップうどん側も知らなかった。そんなやつだ。
だから、10分だとしても、特に大変ではない。
話し掛けられる直前に、カップうどんに湯を注いだとしたら、ジャストだ。
10分うどんなら、ジャストだ。
「どうですか?」
体感10分が経過したあと、ようやく話を振られた。
ここで、会員になるかならないかの、選択をしなければならない。
自転車で二時間掛かるから、近日は来ないだろう。
車をこれからの一年で、買う可能性は低い。
色々考えて、わりとすぐに返答した。
「もう来ないと思うので」
すると、その人はスッと、どこかに消えていった。
「ああした」
と言っていたと思う。
ありがとうございましたの、あっさりバージョンだ。
しかも、声がかなり小さかった。
それまでの声は、それなりに出ていたのに。
テンションも、急に下がった感じだった。
会釈は、少しはしていたと思う。
でも、ニワトリの首振りにも、及ばないほどだった。
本当に、さらっとしてた。
今年一番、さらっとしてたと思う。
もう来ないと思うので、と言ってから、もう少し粘られると思った。
一方的に話されたあとの、僕の本格的な第一声だったから。
もう少し、会話のキャッチボールすると思っていた。
「でもですよ」みたいに、粘られると思っていた。
予想外すぎた。
そこで、終わるのは、まあよしとする。
だが、終わるときに、二言三言言ってから、終わってほしかった。
「時間を取らせてすみませんでした」とか。
「ごゆっくりお買い物を続けてください」とか。
付け加えてほしかった。
本当に公式なのか。疑う気持ちはそのあとも、ずっと続いていた。
お菓子などなど、たくさん買って、ディスカウントストアを出た。
あの人のさらっと感が、脳に染み込んでしまった。
それで、迷いに迷った『オリジナルのフライパン』を買わずに帰ってしまった。
軽くて安いやつで、気に入ったのだが。
1000円以下で、すごい使いやすそうだったのだが。
フライパンを見ているとき、あの人と商品券が頭に浮かんだ。
あの人が商品券を、こちらに見せている姿が、頭に浮かんだ。
会員になればもらえる商品券は、1000円分。
あのフライパンが買える。
ただ、会員になってももう来ない。
自転車では、フライパンは持ち帰れない。
それもあって、断念した。
スタッフさんが大量の説明をして、さらっと去る事件がなければ、買わなくはなかったかもしれない。
帰りの自転車では、あの去り方を頭から消した。
そして、他のことを考えることにした。
UFOは見ていない。
見ていないけど、見ている想像をした。
想像をして、あの事件を消そうとした。
想像したUFOに、あのオリジナルどら焼きが、魂を込めようとしてきたりした。
どら焼きがUFOのように、空を飛んでいる。
そんな想像を、している自分がいた。
途中、ゲームセンターに寄っていた。
本当に、なんとなくだった。
UFOキャッチャーをやった。
クレーンゲームをやった。
そしたら、一発で取れてしまった。
100円で、景品が取れてしまった。
瓶サイダーが、6本取れた。
金網みたいなやつに、瓶サイダー6本が寝かされている。
その金網に、輪っかの取っ手みたいなのがつけられている。
そして、動かすクレーンにはアームではなく。
長い鎖とフックがつけられている。
ゆらゆら揺れるそのフックを、金網にある輪っかに引っかけて、持ち上げる。
すると、金網が持ち上げられて斜めになり。瓶サイダーが取り出し口に、落ちてくる。そんな仕組みだ。
すごい音だった。
取り出し口に、クッションは敷いてあった。
でも、瓶6本だ。
そりゃ、ドーンと音が鳴るよ。
会員勧誘員の『ああした』は、確実に掻き消されるくらいの音だった。
白桃サイダー3本と、メロンサイダー3本だった。
持参したエコバッグに、その瓶サイダーを入れた。
屈んで、サイダーを一本ずつ慎重に入れた。
その姿は、かなり虚しかったと思う。
あの、さらっと去る事件が重荷になのに、そこにサイダーという新たな荷物が追加された。
もう色んな意味で、重たくなっていた。
自転車だったから、慎重に漕いだ。
割れないように、割れないように。
神経びんびんにして、帰った。
神経びんびんにして、帰った。
神経びんびんにして、帰った。
瓶サイダーだけに。