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薬づくりの魔女

「魔女め! ここを開けろ!」


 日課の薬づくりをしていると、扉がどんどんと叩かれる。「どちらさま?」と聞くと、「中央騎士団、第一部隊だ!」という声が聞こえてきた。


「騎士団が何の用?」

「我らの隊長がお前を連行して来いとご命令された!」

「はいはい、すぐ準備するから……」


 言い終わらないうちに扉が壊され、中に騎士が入ってきた。


「ちょっと、扉壊さな……何するのよ!」


 文句を言い終わらないうちに、あたしは騎士たちに取り押さえられる。そしてそのまま、お城へと連れていかれた。



 お城につくと、そのままとある部屋へ連行される。あたしを連れてきた騎士が「何か変なことをしたら、その首を落とす」と警告してきた。「はいはい」と答えると、騎士は「分かっているのか」とあきれながら部屋の扉を開けた。あたしがその部屋で見たものは、ベッドに横たわり、苦しそうに肩で息をするフィリップの姿だった。騎士は彼に対し、「隊長、連れてきたっす」と告げた。


「ちょっとあんた、大丈夫なの?」


 あたしはベッドのわきに駆け寄る。彼を視ると、何かの毒、それも魔女によるものに蝕まれていることが分かった。


「……だれよ、あんたにこんなことをしたのは」


 フィリップは何も答えない。答える気力すらないのかもしれない。


「毒らしきものってある?」

「こちらになります」


 フィリップの近くにいる男性が何かのナイフを見せてきた。これに毒が塗られていたらしい。あたしはそれを受け取ると、じっと見つめて流れている魔力を視る。この魔力は、西の魔女だ。金の亡者で、金さえあればどんな依頼も受ける、サバトの爪はじきものだ。


「なるほど、蛇龍の雫ね。すぐに解毒剤を調合するわ。ということで、一度家に帰ってもいいかしら?」

「いや、何をするか分かんないっすから、お前はここで見張っているっす」


 近くにいた騎士に聞くと、そんな答えが返ってきた。


「というか、疑いが晴れるまで薬の調合なんてさせないっすよ」

「じゃあこの毒とあたしに流れる魔力を調べてちょうだい。それで疑いが晴れるから」

「仕方ないっすね」


 魔力を調べるのは時間がかかる。見張られている間、あたしは気が気ではなかった。今この瞬間にも、彼の命の灯が消えてしまったら。数年前、師匠が病気になった時、あたしは何もできなかった。もう大切な人が死ぬのを見ていることしかできないのは嫌だ。待っている間、あたしの頭を恐ろしい想像が駆け巡る。どうか、どうか無事でいてとあたしは祈った。夜がすっかり更けたころ、あたしを連れてきた騎士が「お前の疑いは晴れたっす」と教えてくれた。


「フィリップは!?」

「隊長は、まだ生きてます」


 彼の容態を聞くと、騎士は教えてくれた。そのまま彼は続ける。


「で、聞いたんすけど、魔女の毒の解毒剤は、魔女にしか作れないんっすよね?」

「ええ。ここから解放されたら、すぐに作る。絶対と保証はすることはできないけど、間に合わせて見せるわ」

「……魔女さん、お前にこんなことを頼むのは癪っすけど、緊急事態っす。すぐに解毒剤を作ってください」

「……平民街にあるブラウン商店の主人、ウルリケを叩き起こしてきて。コカトリスの爪とアルミラージのツノ、あと魔女の薬草を持ってくるように言って」

「なんでっすか?」

「薬の材料を買うの。それと、いらない鍋と包丁、使ってもいい炊事場はあるかしら。今は時間が惜しいから、ここで調合するわ」


 騎士は部下にウルを起こしてあたしの言った材料を持ってこさせるよう指示した。その後あたしを使用人用の炊事場に案内してくれた。適当な鍋を見繕っていると、ウルが来てくれた。


「ウル、材料は?」

「ここにあるよ。魔女の薬草はアンタが育ててるのと遜色ないものを持ってきたよ」

「ありがと。お金はあとで払うわ」

「分かってる。がんばりなよ」


 あたしはウルに「もちろん」と頷いてから、薬の材料に向き直る。薬草を細かく刻み、アルミラージの角を魔法で補助しながら砕く。沸かした鍋にこれらの材料を入れて溶かし、それにコカトリスの爪を入れる。


(さてと、ここからが重要だわ)


 魔女の薬は、普通の薬のように材料の薬効を利用するのではない。薬の材料に魔法を使い、特定の効果を生み出すのだ。特に解毒剤は入れた毒の効果を反転させる必要があるため、慎重に魔法をかけなければならない。

 まずは材料が魔法を受け入れやすくなる形になるまで煮込む。今回はコカトリスの爪があるから、より慎重に鍋をかき混ぜる。

 鍋はぐつぐつと煮立ち、どす黒い色へと変わっていく。だんだん鍋をかき混ぜる手が重くなる。そうしていると、突然鍋の中の液体がさらりとしたものに変わった。手ごたえが軽くなる。


(よし、今からね)


 ヘラから杖に持ち替えて、魔法をかける。魔力が少なすぎて毒が残らないように、逆に魔力が多すぎて薬効が消えないように慎重に。今回使ったコカトリスの爪はなかなか毒が消えない。しかも、今日はなかなかに魔力要求量の多い薬を作った後だから、体にあまり魔力が残ってない。魔力を吸われる感覚にめまいがする。額に汗を浮かべながら、あたしは必死に魔法をかけた。

 次の瞬間、鍋の中が白く光り輝く。薬が完成した合図だ。できた。あたしはすぐに魔法で薬を瓶に詰める。もう魔力はすっからかんだ。あとはこれをフィリップに届けるだけと、あたしはめまいがする頭を押さえて彼のもとに向かった。

 フィリップに薬を飲ませる。すると彼の呼吸が、表情が穏やかになった。視ると、もう体内に毒は残っていないことが分かる。


(よかった……。もう、限界……)


 彼の無事を確認した瞬間、目の前が真っ暗になる。魔力欠乏の典型的な症状だ。自分の体を支えられなくなったあたしは、彼の眠るベッドに突っ伏した。

読んでくださりありがとうございました。

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