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異端者(フィリップ視点)

今回はフィリップ視点です

「隊長!」


 とある日、僕は部下の一人であるカールに話しかけられた。どうしたんだ? と問うと、彼は恐る恐る口を開いた。


「隊長、この前の休みに、魔女と一緒に街を歩いてたって本当ですか?」

「うん、そうだけど」


 その日、ヴァイスは街で用事があって。でも、いつも付き添いを頼んでいる商人は用事があって付き添いが出来なくて。しかも、ヴァイスが向かう地域は女性が一人で訪れるには治安があまりよくない地域だった。だから、僕が護衛を買って出た。帰りにデートする約束も取り付けて。夕陽の中、恋人の聖地と呼ばれる『愛の公園』という場所へ訪れた。花畑を見て、屋台のアイスを食べて。すっごく楽しかったなと思っていると、彼は恐る恐る「あの魔女は、隊長の恋人とかじゃないっすよね」と確認を取ってきた。


「恋人だけど、どうかしたのか?」

「隊長、目を覚ましてください。今の隊長は、正気じゃないっす」


 彼は深刻な表情でそう告げる。どうしてそう思うんだ、と問うと彼は続けた。


「相手は魔女っすよ。惚れ薬みたいなのを使ったのに決まってるっす」

「証拠は?」

「……ないっすけど……」


 カールは口ごもる。僕はまた彼の悪癖が出たか、と内心ため息をついた。


「カール、決めつけで動くなといつも言っているだろう?」

「でも相手は得体のしれない魔女っすよ。裏でどんなことをやっているか、考えただけでも恐ろしいっす」

「すべての魔女が悪しき魔女と決めつけちゃだめだ。カールが使っている上位ポーションだって、その魔女が作ったものだぞ」


 僕がそう言うと、彼は押し黙った。





 カールからそんなことを言われた日の夕方、騎士団本部から城に帰ろうとしていると何やら怒鳴り声が聞こえてきた。喧嘩かな、止めなくちゃ、と考えながら声が聞こえたほうを覗く。そこにいたのは、ヴァイスだった。


「汚らわしい魔女め! お前がこの子に呪いをかけたんだろう!」

「だから、この子は突然倒れたの。あたしは介抱しただけよ」

「嘘をつけ! そう言って私からお金を巻き上げるつもりだろう!」

「お金を請求するつもりなんてないんだけど。それよりさっさとこの子をお医者さんのところに連れて行ってあげたら? あたしはプロじゃないから病気の診断なんてできないし」

「ふん、白々しい。どうせお前がこの子を病気にしたんだろう? その恐ろしい魔法を使って」

「なんでそんなことしないといけないのよ。はあ、あたしを疑うんならこの子をお医者さんに診せたうえで騎士団にでも駆け込めばいいわ。呪いの有無を調べられるから」

「調べるまでもない! さっさとこの子の呪いを解いて!」

「だから、やってないことはどうにもできないって」


 女性はヴァイスの態度に激高したのか、彼女に向かって石を投げつける。助けに入ろうとした僕の行動よりも早く、彼女はどこからともなく杖を取り出して透明な壁を張り、石を防いだ。


「なんて恐ろしい魔法を使うの!」

「いや、あんたの投げつけた石を防いだだけなんだけど」

「お二人とも、何をなさっていらっしゃるのですか?」


 すぐさま二人の間に割って入る。僕の制服を見た女性は、すぐさま叫んだ。


「この魔女があたしの子に呪いをかけたの!」

「だから、やってないって言ってるでしょ」

「ここでやったやってないのを騒ぐのは水掛け論です。続きは詰め所で聞きます。呪いの有無も調べます。言いがかりであれば、分かっていますね?」


 女性は「望むところよ!」と叫ぶ。僕は二人を詰め所へと連れて行った。





 結局、子供はただの風邪で、女性の訴えは事実無根だということが分かった。僕はヴァイスに「石を投げられたことを訴えることができるけど、どうする?」と聞く。


「別にいいわ。どこもケガしていないし、面倒だし」


 ひどく面倒そうな彼女の表情を見て「分かった」と答える。二人を開放するころには、夜の帳が下りていた。僕はヴァイスに「もう遅いし、送っていくよ」と告げた。


「別に大丈夫なんだけど」

「まあまあそう言わずに。せっかくだし買い食いしよう」

「仕方ないわね」


 彼女と連れ立って夜の街を歩く。


「にしてもすごかったな、あの人。こっちが何度説明しても自分の主張が間違ってないって喚いてた。すぐ助けに入れなくてごめん」

「別にいいわよ。助けようとしてくれたんだし、あんたが来なくちゃもっと面倒なことになってたわ。それに、ああいうことはよくあるし。あそこまで頑ななのはそうそういないけど」


 彼女の言葉に「えっ」と足を止める。


「どうしたの?」

「いや、さっき、ああいうことはよくあるって……」

「ん? まあ魔女だし」

「どういうこと?」


 僕が聞き返すと、彼女は「魔女ってだけでいちゃもんを付けられるのよ。呪いをかけただの、薬や魔法を使って悪さしただの。歩いているだけで唾を吐きかけられたり、石を投げられたりしたこともあるわ。ひどいときには騎士に捕まえられて、何時間もやってないことで詰められたこともあるし。ほんと、サバトの了承が無ければ魔女を逮捕できないってルールがあって良かったわ」


 サバトとは魔女たちのコミュニティだ。昔は魔女狩りと言う悪習もあり、魔女は不当に虐げられてきた。そこで同じ地域の魔女が共同し、サバトというコミュニティを作った。サバトの活動が功を奏したのか、今では魔女も一定の市民権を認められている。だが、いまだ魔女に対する差別意識は残っているため、不当な逮捕を防ぐため、サバトの了承がないと逮捕できないし、サバトから求められたらその魔女を釈放しなければならない。


「それは、ごめん」

「なんであんたが謝るのよ。あんたは捕まえた騎士じゃないでしょ」


 何でもないことのように笑う彼女の様子に、胸が苦しくなる。


「なんであんたがそんな顔してるのよ」

「ヴァイスが、何でもないような顔をしてるから。魔女ってだけこんな扱いを受けるなんて、おかしいよ」

「仕方がないわ。異端者だもの。……あんたも、魔女と付き合ってるってだけでいやな気持ちになることがあるかもしれないわ。嫌になったら振ってちょうだい」

「そんな日は一生来ないよ。僕はヴァイスを愛してるから」

「……相変わらずもの好きね」


 彼女は僕から視線をそらしてそう告げる。でも、彼女の耳がほんのり赤くなっていることに気が付き、僕はそっと笑みを浮かべた。

読んでくださりありがとうございました。

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