これからも、いっしょに
この話だけ未来に飛びます。
王都の貴族街に立つ邸にて、一人の魔女の格好をした女の子が大釜の中身をかき混ぜている。その後ろから、ヴァイスが様子を見守っていた。
「ししょー、まだ?」
「ええ、もう少ししたら中身がどろっとなるはずよ」
「ほんと? じゃあもう少しかき混ぜてみる!」
少女はそう言って窯の中身をかき混ぜる。しばらくそうしていると、少女の手が止まる。ヘラが重くて動かせないようだ。
「ししょー? いまー?」
「ええ、魔法をかけなさい」
「はーい!」
少女は杖を取り出すと、薬に魔法をかけた。どろっとした液体は見る見るうちに固形となり、丸薬となる。
「ししょー! できた、できたよ!」
「上手ね、リリー」
彼女はそう言って少女リリーの頭をなでる。しばらくそうしていると、調薬室の扉が開いて、一人の少年が飛び込んできた。
「お母様、リリー! ただいま戻りました!」
「マティ、おかえりなさい。今日の訓練はどうだった?」
「まてぃー、おかえり!」
マティと呼ばれた少年、マティアスはリリーに「ただいま」とあいさつすると、「これ、摘んできたんだ!」と一本の花を差し出した。
「あ、これって、リーベの花?」
「うん、リリーに似合うと思って」
「ありがとう! ししょー、リーベの花って、女性のためのお薬になるんですよね?」
「ええ、正確には、女性のための痛み止めね。よくできました」
ヴァイスとリリーがそんな話をしていると、フィリップが部屋の中に入ってきた。
「フィル、おかえりなさい」
「ただいま。……マティ、どうした? そんなに不機嫌になって……」
「リリーに似合うって花をあげたのに……薬の材料と思われた……。喜んでくれたからいいけど……」
「マティ、薬づくりの魔女は割とそんな感じだよ」
フィリップは不機嫌そうなマティアスの頭をなでる。その様子を見たリリーは「マティ、ありがとう。大好きよ!」と彼に抱き着いた。
子ども同士のやり取りがほほえましくて、フィリップとヴァイスは笑みをこぼす。窓から入ってきた日の光が、家族を温かく照らした。
その晩、子供たちが寝静まった後のこと。フィリップとヴァイスは二人の寝室で横になって話していた。
「マティはリリーのことが大好きみたいだ」
「そうね。安心したわ。フィル、リリーのことを受け入れてくれてありがとう」
「当たり前だろ? 師匠に一杯もらった愛を、この子にもあげたいって言われたら、断れないよ」
リリーは二人の子供ではない。ヴァイスが七年前に、材料採集に向かった森で捨てられているところを発見した。リリーが魔女であると気づいたヴァイスは、彼女を弟子として育てたいとフィリップに相談した。それが魔女の技術の継承方法だと知った彼は、快くリリーを受け入れた。
「それで……、マティも手がかからなくなってきたしそろそろ三人目を……」
「そうね。リリーに任せられる工程が増えてきたし。多分一年くらい魔女業をお休みしても大丈夫かしら」
ヴァイスは笑ってフィリップに身を任せる。そっと口づけをした彼に対し、彼女は恥ずかしそうに「……愛してる」とささやいた。
◇
フロイツハイム子爵家は、子爵ながら、王族の血を引く由緒正しい家系である。初代フロイツハイム子爵は国を救った救国の魔女を生涯の伴侶とし、魔女を良き隣人として保護した。その伝統は代々続き、フロイツハイム領は魔女と人々が力を合わせることで豊かになっていった。
これで完結です。
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