フィリップのプロポーズ
(ん……、ここは……?)
目を覚まして最初に見えたのは、白い天井。自身のあばら家ではないし、ここはどこだろうとぼんやり考えていると「気が付いた?」という声が聞こえてきた。
「……ふぃる……?」
「うん、僕だよ」
のぞき込んできた彼の顔をぼんやり見つめながら、何があったんだろうと考える。口の中はカラカラで、ずいぶんと長いこと眠っていたことは分かった。
そうだ。お貴族さまに誘拐されて、フィルに助け出されて、その後グライフが暴走して……。その後、どうなったんだっけ?
「ヴィーはあの塔で倒れたんだ。覚えてない?」
「そういえば、そうだった気がする……」
小さく「水……」と言うと、彼は水差しを渡してくれる。水を飲むために体を起こそうとするが、うまく力が入らない。見かねた彼が背中を支えて起こしてくれた。
「魔女専門の医者に診てもらったところ、無理やり魔力を奪われた副作用に近いものだって。助けられた時もかなり限界だったのに、精霊界への門を開いたのは無茶だって言ってたよ。……まだぼんやりしてる?」
「うん……」
水を飲んでいると、頭がはっきりしてきた。周囲を見渡してみれば、ここが前泊めてもらった離宮だと気づく。
「あ、目が覚めてきた?」
「ええ。もしかしてここまで運んでくれたの?」
「うん、と言いたいところだけどさ、あの時僕も限界で。急いで応援を呼ぶのが精いっぱいだった。あの場には元侯爵たちもいたしね」
「ふうん。……それでも助かったわ、ありがとう」
「それはこっちのセリフ。あの時ヴィーがいてくれなきゃ、グライフによる被害が出ていたから」
「そう」
彼はその後、侯爵様とやら国家反逆罪で捕まったこと、今回の働きに応じて、あたしにくんしょう? をくれることなどを教えてくれた。
「くんしょうって何?」
「めちゃくちゃ簡単に言うと、あなたはすごい功績を残したから、王家として讃えますよ、ってこと」
「ふうん」
どれだけすごいものなのか分からないので、生返事になってしまう。彼は「興味なさそうだね」と笑った。
「うん。あの時グライフを止めたのだって、あんたの頼みだったからだし。あたし一人だったらさっさと逃げて、あとで精霊使いの魔女にでも任せるわ」
「たとえそうでも、たくさんの人が救われたのは事実だ。礼を言わせてほしい」
「何よ改まって。まあ、お礼くらいは受け取っておくわ」
フィルは「ありがとう」と笑う。そして申し訳なさそうに「それでなんだけど……」と口を開いた。
「勲章の授与のため、夜会に出て欲しいんだ、……って、そんなめんどくさそうな顔をしないでよ」
「夜会って、あれでしょ? お貴族さまが着飾ってお酒とか飲んでキャッキャうふふする会」
「あー……、あながち間違ってないけど……」
ほらやっぱり。着飾るのもキャッキャうふふするのもめんどくさいし、お酒にもあんまり興味がない。そもそもあたしは貴族じゃないし。
「ああ、えっと! 軽い挨拶とダンスさえ終わったら壁の花でいいから! って、もっとめんどくさそうな顔してる!」
「当たり前よ。人前に出るなんてめんどくさいし、ダンスなんて踊れるわけないじゃない」
「簡単な奴一曲でいいから! 練習も付き合うから!」
「なんでそんなに必死なのよ」
呆れたような声を出すと、彼は「それは……」と言い淀んだ。
「僕が、ヴィーと結婚したいから」
「はい?」
予想もしなかったような言葉が出て、あたしはぽかんとした声を出す。
フィル曰く、王子である彼と結婚するには、ただの平民のままではまずいらしい。だから国を守ったという功績を元に、あたしに勲章を授ける必要がある、と言うことのようだ。
「正直言って今回の勲章をもらうだけでは弱いかもしれないけど……、でも僕は将来祖父上の子爵位を継ぐから、多分何とかなる。文句は言わせないよう根回しもしてきたし……」
「あんた、結婚まで考えていたのね」
「ちょっと、僕をそんな甲斐性なしみたいに言わないでよ」
「気分を悪くしたのなら謝るわ。……結婚しても、魔女をやめろなんて言わないわよね?」
「もちろん。結婚したらここじゃなくて新しく邸をもらうことになってるんだけど、そこに薬草畑を作ってもいいよ」
「助かるわ。あんたはあたしにしてほしい事とかないの?」
「しいて言うなら必要最低限の夜会に出て欲しいってくらいかな。僕は貴族と言うより騎士だから、数はそんなにないんだけど」
「そう。分かったわ」
あたしがそう答えると、彼は「いいの!?」と驚いた声を出した。
「当たり前よ。あんたと一緒にいるためだもの。その代わり、マナーとかはさっぱりだから練習付き合ってよね」
「もちろん」
彼が深く頷いてくれた。そしてあたしの手を取ってひざまずく。
「ヴァイス、やめる時も健やかなるときも、生涯君を守り、愛すると誓う。だから、結婚してほしい」
「……あたしは守られるだけの女じゃないわ。だからあたしもあんたを守るし、どんな時でも愛すると誓うわ。……これってマナー違反じゃない?」
「ヴィーらしくていいんじゃないかな」
彼は笑って、あたしの手の甲に口づける。あたしは恥ずかしくなって「何してるのよ」と目をそらして悪態をついてしまった。
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