グライフの暴走
体に響かないよう気を付けているのか、フィルにそっと抱きしめられる。彼の体温が心地よくて、そっと目を閉じた時だった。
突然、塔を揺らすほどの鳥のような咆哮があたりに響いた。次の瞬間、部屋の壁が巨大な詰めによってえぐり取られる。
「危ない!」
フィルはあたしをかばうように抱きしめた。次の瞬間、崩れた塔から放りだされる。あたしは杖を一振りして、落下時の衝撃を弱めた。
「いたた……。ヴィー、大丈夫?」
「あんたにかばわれたから大丈夫よ。あんたこそ、ケガしてないの?」
「大丈夫だよ。今のは?」
彼がそう口にした途端、またあたりに咆哮が響き渡る。思わずそちらの方に目を向けると、鷲のような頭部と羽、獅子の下半身を持つ、あたしの家より一回りも大きい精霊が、塔だった物の上で翼を広げていた。
「あれはグライフね。本来は豊穣の精霊なのだけど……。無理にこの世界のとどめ置かれたからか、暴走してるみたい。ああなったら無差別に人を襲い始めるわ」
「それはまずいな。どうにかして止めないと。ヴィー、どうにかする方法ってある?」
「あたしは精霊の魔女じゃないのだけど。精霊の世界への門くらいなら開けれるから、追い返すことは何とか」
知識としては知ってるけど、やったことはないから期待しないで。あたしはそう言って立ち上がる。
「僕は何をすればいい?」
「今から門を展開するから、あいつがこっちに来ないよう引き付けて。門が出来たら大声で叫ぶから、こっちに誘導して」
「分かった」
彼はそう言って立ち上がると、剣を抜く。「いってくるね」とこちらに声をかけてから、フィルはグライフに向かって駆け出して行った。
(さてと、さっさと済ませなくちゃ)
あたしは杖を地面に突き刺すと、魔法を唱える。すると、杖を突き刺したところに黒い文様が現れた。あたしは杖に魔力を流し込む。すると、文様は円周状に広がっていく。
びゅうびゅうと吹く風の音、ざわざわとざわめく木々の音、ザーザーと流れる川のせせらぎの音、キラキラと瞬く星の輝き、ふわりと甘く漂う花々の香り。精霊会に接続したためか、いつもは感じない森羅万象の情報が入ってくる。
(これが精霊の力……。ウッ、酔いそう……)
グラグラとめまいがする。それでも集中を切らしてはいけないと、歯を食いしばった。
「もう少し……」
そう口にした途端、グライフの咆哮が聞こえてきた。次の瞬間、グライフの巨大なかぎ爪が眼前に迫る。
「ヴィーに手出しはさせない!」
フィルはそう叫ぶと、剣でその巨大なかぎ爪を払ってくれた。だが、無理な体勢になってしまったのだろうか、彼は尻もちをついてしまう。かぎ爪を払われて起こったグライフは、その凶悪なくちばしを彼に向けた。
その瞬間、文様が繋がる。門が完成した。運のいいことに、グライフは門が発動する円の中にいる。あたしはフィルが門の発動範囲から外れていることを確認して門を発動させた。
門が白い輝きを放つ。縁の中にいたグライフは、急に地面がなくなったことで体勢を崩した。それは体勢を立て直そうと必死にもがくが、門の精霊を吸い込もうとする力に負けて、門の中へと落ちていった。グライフが完全に吸い込まれたことを確認して、あたしは門を閉じる。
「フィル、ケガしてない?」
体勢を崩していたフィルの方を振り返る。彼は「問題ないよ」と立ち上がって、服についた土ぼこりを払った。
「どこが問題ない、よ! ケガしてるじゃない!」
「これくらい、上位ポーションを使えばすぐに治る」
彼はそう言うと、懐から薬瓶を取り出した。
「それって、上位ポーションを使わなきゃいけないくらいのケガってことじゃない」
「でもこれを飲めばすぐに治るよ」
「当たり前でしょ。あたしの作った薬なんだから。と言うか、そう言う問題じゃないわ」
素直に心配していると言えばいいはずなのに、あたしの口は悪態をつく。
「心配してくれてるの?」
「別に、そう言うのじゃないから」
恥ずかしくなって顔を背けると、彼は「ありがとう」と笑う。その時、全身に強い痛みが走った。
(しまった、痛み止めが切れた……)
意識がぐっと遠くなる。自重を支えきれず、あたしは地面に倒れこんだ。目の前が真っ暗になるさなか、焦ったような表情でこちらに駆け寄ってくるフィルの姿が見えた。
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