身勝手なお貴族さま
少し痛そうな描写があります
「うぅ……、頭が痛い……」
目が覚めたあたしは、石造りの部屋に閉じ込められていた。手足は固く拘束されている。手元に杖はもちろんなく、魔法を使うことなんてとてもじゃないができない。懐にしまっていたしびれ薬も、荒くれ男から逃げる時に使ってしまった。万事休すだ。あたしは自分を落ち着かせるように、大きく深呼吸をした。落ち着いて考えたからと言って脱出方法が見つかるとは限らないが、パニックになっていては脱出できるものもできなくなる。
「外は真っ暗だから……、ずいぶんと長い間寝てたみたいね」
とにかく今できることをしようと辺りを見回す。窓の外から見えた景色から察するに、ここは郊外の高い建物の中のようだ。
「拘束は……さすがに外せないわね」
ごぞ語ぞと動いて見ても、拘束は緩む気配はない。どうにか外れないかと試行錯誤していると、外から足音が聞こえてきた。続いて、部屋の扉が開けられる。
「おやおや、お目覚めでございましたか」
入ってきたのは、小太りの中年男性とフィルの使者だった。毛が抜けているのか、まだらに残った髪の毛が頭皮にくっついていて、どこかみっともなく感じる。どうして使者がここにいるのか聞くと、「私はブルグハウスの執事です」と言う答えが返ってきた。
「わざわざ魔女をさらって何の用?」
「魔女と話す口は持ち合わせていませんが、冥途の土産です。話して差し上げましょう」
男はにやにやと気持ち悪い笑みを浮かべると、朗々と語り始めた。
「我がブルクハウス侯爵家は魔女狩りで名をあげた一族なのです。その昔、我らは社会にはびこる魔女を摘発する任を、国王直々に任されておりました。我らは魔女を摘発することで、侯爵家まで上り詰めたのです。そしてその功績から、我が家に一匹の聖獣が下賜されたのです。そう、我が家の家紋にもなっているグライフです。我らの領はグライフの恩恵によって豊かになりました」
なるほど。グライフは黄金の巣を作り、玻璃の卵を産むと言われている豊穣の精霊だ。精霊と言うものは森羅万象が具現化したもので、魔力を与えれば契約を結べる。実際、精霊使いの魔女と呼ばれる魔女は精霊と契約し、高度な魔法を使用している。でも、なぜ魔女ではないこの人たちが、グライフを使役することができているのだろう。
「ですが、その栄光も長く続きません。グライフは魔力を食らう生き物。昔は魔女を食べさせることで魔力を捧げていました」
なるほど、契約に使う魔力を、魔女を食べさせることで代替していたと。……どれほどの魔女が彼らの私利私欲のために犠牲になったのだろうか。
「ですが、やがて魔女狩りが禁止され、グライフに魔力を捧げることができなくなりました。そこで我らは魔女を捕え、魔力生成器にすることにしたのです。計画はうまくいき、我らの領は最盛期ほどではありませんが、豊かさを取り戻しました」
まるで道具のような扱いだ。あまりの嫌悪感に、思わず顔をしかめる。
「ですが魔女も生き物。いつかは死んでしまいます。魔力生成器の稼働年数は10年。そして今年は前の魔女を捕えてから10年目。また新たに魔女を捕えなければなりません。我らは急いで手ごろな魔女を探しました。そして、ついに非合法なことをしている魔女を見つけたのです。ちょうどいいので王族の暗殺も依頼したのですが……」
彼はいったん言葉を切る。そしてあたしを恨めしそうな顔で睨んで言った。
「その魔女はこちらの依頼に失敗。ならせめて魔力生成器として役に立ってもらおうと思っても、騎士団に捕まったため計画はとん挫。なぜだか分かりますか? あなたのせいですよ」
曰く、あたしがフィルの解毒剤を作り、西の魔女を捕まえようとした騎士団に情報を流したかららしい。要するに、逆恨みだ。
「このままでは魔力生成器が止まってしまう。そこであなたに代わりをしていただこうと思ってまして。なので、こうして連れてきた次第です」
そこまで語り終えた彼は、「何か質問は?」と問う。あたしは「なんでフィル……フィリップ殿下たちを殺そうとしたの?」と聞いた。
「ああ、そのことですか。我らが国を牛耳るという計画において、王族は邪魔なんです」
何て身勝手な。あまりの理由に反吐が出る。思わずにらみつけていると、奴はおかしそうに嗤った。
「にらみつけたところで、貴女に何ができるというのですか? 得意の魔法も使えず、もうすぐ死ぬまで魔力を作るだけの存在になる貴女に。そもそもあなた、王子に捨てられたのでしょう?」
そうだ。フィルはもう二度と会いたくないと言った。あたしは言葉に詰まる。
奴はあたしが何も言い返さないのを見ると、執事とやらに命令した。すると執事が屈強な男を呼んでくる。屈強な男はあたしを担ぎ上げてどこかに運ぶ。
逃れようと身をよじるが、男はびくともしない。やがて、彼は一つの扉の前で止まった。
◇
扉を開けた先にあったのは、豪華な装飾がされた棺だった。部屋にいた少年が執事の命令で棺の扉を開ける。棺の中には、何とか形を保っていた魔女がいた。少年が魔女を棺から出した瞬間、彼女は灰となって空中に溶ける。あまりの恐怖に、声すら上げられなかった。
あたしは手足を拘束されたまま、乱暴に棺に寝かされる。
「枷を取ってやりなさい」
お貴族さまの命令で、手足の拘束が外される。逃げだすチャンスだと体を起こそうとするも、体がうまく動かない。
「その棺に入れられた魔女は自分の意思で体を動かせなくなるんです。さあ、その扉が閉じれば、あなたは魔力生成器となります。何も感じず、ただ魔力を作り続ければいい」
奴がそう言うと、棺の扉が閉められた。次の瞬間、体中がかき回されるような激痛と不快感が駆け巡る。
「いやっ、いたい、ひぎっ、いたい! たすけ、てっ、あっ、だして!」
内臓がぐちゃぐちゃにされているような、体中があらぬ方向に引っ張られ、引き裂かれるような痛みを感じる。
「いた、いっ、やめっ、て、くるし……い、し……ぬ……」
果てしない苦しみに、魔力が無理やり奪われていく感覚。きっと、死んでしまった方がはるかに楽だ。
「もう……、だ……め……」
意識がどんどん遠くなる。脳裏に浮かんだのは、フィルの笑顔。未練たらたらだな、と小さく笑って、あたしは意識を手放した。
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