魔女の尋問
離宮に移って一週間、そろそろドアが直るだろうというころ、西の魔女が捕まったとフィルが教えてくれた。
「……本当に、ヴィーが尋問するの?」
「ええ。あんたをあんな目に合わせたのよ。お灸をすえてやらないと、腹の虫がおさまらないわ」
あたしの言葉に、フィルはじっと考え込む。
「分かった。そこまで言うなら止めないよ」
「ありがとう。尋問に使う薬を作ってくるわね」
「見ててもいい?」
「邪魔しないのなら」
見学したいというフィルを連れて、貸してもらっている炊事場へと行く。使う薬はもう決まっている。あたしの大事なものに手を出したらどうなるか、たっぷりと思い知ればいい。
翌日、西の魔女と対面するため、あたしは城の地下牢へと訪れた。彼女は逃げられないよう杖を取り上げられ拘束されていた。
「ああ、誰かと思ったら、向上心のないぽわぽわ魔女かい。またなじみの商人からの依頼かい? 一つの商人からしか依頼を受けないなんて、挑戦のチャンスを自らどぶに捨てているようなもんだねぇ」
「今回はあたしのわがままよ。それに、あたしは非合法な依頼を受けてサバトから爪はじきにされたくないの。あんたとは違ってね」
「なんとまあ向上心のない。あんたの師匠も草葉の陰で泣いてるよ」
「ウルの依頼も多種多様よ? それに、彼女は質のいい薬は高く買い取ってくれるの。なじみだからって査定は妥協しないから、常に高みを目指せるわ。それで? フィリップ殿下を害すよう貴方に依頼をしたのは誰かしら?」
「依頼人の情報は漏らさないよ。依頼を受ける魔女ならわかるだろう?」
「そう。それなら、こうするしかないわね」
あたしは持ってきた薬の瓶を開けると、彼女にかける。すると、余裕しゃくしゃくと言った表情だった彼女の顔が見る見るうちに歪んでいく。
「いやだ、ひっ、こわい、あっ、たす……けて、くるし、い」
彼女の体はがたがたと震えだす。当たり前だ。認知がゆがみ、正確な状況を把握できない。現実と幻覚や妄想が混じり、彼女はただ恐怖することしかできない。
「こわい、こわいこわいこわい…! ゆが、む、ひっ、きえる、うっ! たすけ、て!」
恐怖から何とか逃れようとしているのか、叫びながら拘束された体をよじる。
「あ、あああああああぁぁぁぁぁぁぁ……」
断末魔のような叫び声をあげた後、彼女は動かなくなった。時折、「ああ……」とか細い声を漏らしているため、まだ生きていることが分かる。
「よし、これで自白してくれるはず。あんたに王族を襲うよう指示したのは誰?」
「……ブルクハウス侯爵家……」
「そう。契約書は?」
「あたしの……家……。三番目の……、金庫の中……」
「金庫の番号は?」
「22……518……」
「ありがと。……これくらい聞き出せれば大丈夫かしら」
あたしはそっとフィルの方を見る。彼はこの惨状に怖気づいたのか、ぴしりと固まっていた。無理もない。……だから、見せたくなかったのに。
「……もっと聞きたいことがあるなら今のうちに聞いておいて。一日たてば元に戻るから」
あたしはそう言って地下牢を後にした。
その日、彼は離宮に帰って来なかった。久しぶりの一人での夕食だ。何でもないことのはずなのに、寂しくて仕方がない。美味しいはずの離宮の食事も、あまり味がしなかった。
(一人で夕食なんて、一週間前まで普通だったのに。すっかり弱くなっちゃって……)
あたしはため息を一つ落とす。結局、いつもより食が進まなくて、食事を残してしまう。……今日は疲れたし、早めに休んでしまおう。
読んでくださりありがとうございました。




