表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/23

離宮にて

 フィルに連れられて離宮へと入る。すると、ひとりの女性が頭を下げて迎えてくれた。


「彼女がヴィー付きにした侍女の、アグネス・シュミットだよ」

「よろしくお願いします」


 彼女は頭を下げる。ぽかんとしていると、フィルは「どうしたの?」と心配そうに顔を覗き込んでくる。


「……無知で悪いんだけど、侍女って何かしら?」

「身の回りの世話をしてくれる女性のこと。貴族とか、裕福な商人とかは雇っていることが多いかな」

「へえ。……あんたにもいるの?」

「僕の場合は男性かな。……嫉妬?」

「だとしたら悪い?」

「全然。むしろ嬉しいかもな」

「変な奴」


 あたしが吐き捨てるように言うと、彼は楽しそうに笑う。そのあとフィルは部屋へと案内してくれた。普通の庶民だったら一家族暮らせる広さの部屋へと通される。部屋には大きなベッドと皮張りのソファ、ダイニングテーブルに大きなクロゼットも備え付けられていた。


「で、この部屋は何人で使うの?」

「ここはヴァイスが使う部屋だよ」

「は?」


 お貴族さまってすごいのね……と呟くと、「まあ確かに、相当広いよね」と彼は笑う。


「この部屋は好きに使って。あとごめん、連れて来ておいてなんだけど、多分明日から僕はあんまり帰って来れないかも。なるべく夜には帰ってくるつもりだけど。西の魔女とやらの行方を探さないといけないから」

「そう。分かったわ。確か、西の魔女ってデイヴィス商会とエバンズ・ファミリーって呼ばれる闇商会と仲が良かったはず。他の魔女からの又聞きだけど」

「ほんと? 情報ありがと」


 気を付けて、というあたしに対し、彼は「もちろん。もうあんなヘマはしないよ」と笑った。



 こうして、離宮での生活が始まった。期間はドアが直るまでの一週間。最初は世話してくれる人がいるのに慣れなかった。アグネスさんは着替えも手伝おうとしてきたけど、さすがに抵抗があるから遠慮してもらった。

 フィルはあんまり帰って来れないと言っていたが、夜には帰って来て一緒に夕食を取ってくれた。離宮での食事はとても質がいい。スープに付けなくても柔らかいパンなんて初めて食べた、と言うと、フィルは「僕のも食べる?」とパンを差し出す。


「別にいいわ。騎士は体が資本なんでしょ? それに、そんなに食べられないわ」

「それならいいんだけど……。ヴィーは食が細いから、ちょっと心配だな」

「そう? 普通だと思うけど。あんまり外に出ないしね」


 何気ない話をしながらの夕食なんて、何年ぶりだろう。師匠が亡くなってから、こんな時間なんて取れなかった。


「それで、西の魔女の捜索はどうなの?」

「あ、それ聞いちゃう? 今はヴィーが教えてくれた二つの闇商会を当たってる。状況は……あまり芳しくないかな。普通に法令違反の商会だから、そっちの沙汰も出さないといけないし」

「そう。手伝えることがあったら言ってね。あんたからの依頼だったら、ウルを通さなくても受けるわ」

「……そういえば、魔女ってどんな風に依頼を選別してるの? 非合法な依頼もあるだろうし」

「それは人それぞれね。あたしはウルに丸投げしてる。紹介料とられるけど、安心でしょ」

「……本当にブラウンさんを信用しているんだね」


 彼は少しむっとした表情になった。


「師匠のころからお世話になってる商人だから。あたしは勝手に姉みたいに思ってる。彼女がいなければ、師匠を失ったあたしは野垂れ死んでたわ」

「そう、大事な人なんだね」

「うん。ウルは命の恩人よ。……どうしたのよ、変な顔して」


 あたしがそう聞くと、彼は恥ずかしそうに黙り込む。彼の言葉をじっと待っていると、ややあって、フィルは口を開いた。


「そんなに信用されてるブラウンさんがうらやましいなって……。僕、何言ってるんだろう」


 彼は悲しそうな、切なそうな表情で頭をかく。本当に何言ってんだろう。ウルへの好きと、フィルへの好きは種類が違うのに。

 あたしは椅子から身を乗り出して、フィルの顔を強引につかむ。そしてそのまま、彼に口づけた。


「あんたへの好きはこういう好き。ウルへの家族に対する好きとは違うわ」


 そう言って離れた瞬間、ここが使用人たちの目がある食堂と言うことに気が付く。あたしは茹でダコのように真っ赤になってしまった。


「随分と大胆だね?」

「……からかうんだったらもうしないわよ?」

「それは大変だ」


 さっきまでの表情はどこへやら。フィルは楽しそうにあたしをからかう。照れ隠しで視線をそらしていると、いとおしそうな手つきで頭をなでられた。

読んでくださりありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ