目覚めた後の話
「ん……」
ゆっくりと目を開ける。まだ頭がぼんやりとしている。もぞりと動こうとすると、誰かに抱きしめられているとこに気が付いた。
誰だろうと思って横を見ると、フィリップの顔があった。どういうことだろう、と考えていると、そういえば彼の寝ているベッド脇で倒れたことを思い出した。自分の服を確認すれば、覚えのない夜着を着せられている。どういうことだろうとプチパニックになっていると、フィリップの目が開いた。
「おはよう、体は何ともない?」
「それはこっちのセリフよ。……あたしが倒れた後、何があったの?」
「それが、僕にもよく分からなくて。気が付いたらベッド脇に君が倒れてたんだ。すぐに侍女を呼んで着替えさせて客間に連れて行こうとしたんだけど、離してくれなくて。結局そのまま一緒に寝た。安心して、手は出してないよ」
「何それ、覚えてない」
「覚えてないの? 寂しい、行かないでって寝巻きの裾を掴まれてさ。すごくかわいかったのに」
全く身に覚えのないことを言われ困惑する。だが、少しだけ思い当たる節があった。
「……ごめん、迷惑かけて。あたし、魔力切れで意識がぼんやりしてるとひどく甘えん坊になっちゃうみたいなの」
魔力切れの時は人恋しくなるからねぇ、と師匠が笑っていたことを思い出す。
「迷惑じゃない。むしろ、役得かな」
「それならいいんだけど」
そんなことを話していると、勢いよくドアが開く。そして、「隊長!」という声とともにあたしを連行した騎士が入ってきた。
「隊長! 体は何ともないっすか!?」
「大丈夫、問題ないよ」
「当たり前じゃない。あたしの解毒剤よ? 後遺症の一つたりとも残させないわ。……あ、そうだ。あとでドアぐらい直してちょうだい」
「魔女さんが早く出てこないのが悪いんっすよ?」
「あたし、あの時すぐ準備するって言ったんだけど?」
語気を強めてそう言う。するとフィリップが「ヴァイス、彼らはドアを壊したっていうことであってる?」と確認を取ってきた。
「ええ。隙間風が入ってくるどころじゃないから、このままだと家に帰れないわ。場合によってはいくつの材料が痛んでいるか……。そういえば、あたしをここに連れてくるのってあんたの命令だったんでしょ? いきなり取り押さえられて怖かったんだけど」
あたしがそう言うと、彼は驚いたように目を見開いた。
「カール、僕はヴァイスを連れて来てって言っただけだ。連行しろとは言っていないし、そもそも現行犯でもなく逮捕状も出ていない相手を無理やり取り押さえたらだめだ」
「……申し訳ありませんっす。でも、怪しいことを生業にしてる魔女さんも悪いと思うっすよ」
「犯罪に手を貸すとか、そう言う師匠に顔向けできなくなるような仕事はしてないわ。……魔女の力自体が怪しいというなら、何も言い返せないけど」
人には使えない異能を用いて、普通の人からしたら理解できないことをやってのける。そんな人たちを見たら、異端視するのは当たり前の感情だろう。
「そんなことない。魔女の力はたくさんの人を救ってるじゃないか。僕だってその一人だよ」
フィリップはそう言って、どれだけあたしの魔法に助けられてきたか、あたしの魔法がどれだけ美しいか熱弁する。あたしは恥ずかしくなって「魔法が美しいだなんて、あんたはもの好きね」と悪態をついてしまった。
「とにかく、使ってる力が怪しいからって逮捕されるのはごめんよ。それなら、あたしたち魔女はこの国を出て行くわ」
「カール、魔女の不当な逮捕はサバトとの関係悪化につながる。そうなった場合、たとえ悪しき魔女が現れても捜査協力が得られなかったり、場合によっては見捨てられたりするぞ。そもそも魔女を逮捕するにはサバトの承認が必要だよ」
彼はそう言ってカールだかタールだか言う騎士に一週間の謹慎を言い渡した。その後あたしの方を向いて、「うちの部下がごめん」と深く頭を下げる。
「別にいいわよ。あんな風に悪意を向けられることなんてよくあることだし。……それよりも、なんでああなったの」
「兄上の護衛をしていた時に、いきなり魔女に襲われたんだ。幸い兄上は守り抜けたんだけど、下手人をとらえようとした時、抵抗されてナイフで刺された。朦朧とした意識の中、魔女の毒っていう言葉が聞こえたから、ヴァイスだったらどうにかする手立てを知ってるかもって思って、すぐにヴァイスを連れて来てって命令したんだ。その後は、ヴァイスの知ってる通り」
「なるほど。で、カールだかタールだかはあたしがその襲い掛かってきた魔女と疑っていたわけね」
「……そうなるっすね」
カールだかトールだかはそう答える。するとフィリップが何か言いたげな目線を彼に向けた。あたしはそんなこともお構いなしに続ける。
「あんたを襲った魔女は、ほぼ確実に西の魔女ね。……いまからサバトに連絡して、彼女の逮捕の承認を取ってくるわ。それでなんだけど、彼女の尋問をあたしに任せてもらえないかしら」
「は!?」
サールだったかカールだったかが目を丸くする。「どうして?」と聞くフィリップに対し、あたしは口を開いた。
「許せないの、あんたをあんな目に合わせたことが」
「でも危険だ」
「それは承知の上。大丈夫、あたしにはとっておきの自白剤があるから。その使用も含めてサバトに許可を取るわ。今からサバトに手紙を送ったら、5日はかかるわよ? その隙に逃げられちゃうかもしれない。でも、あたしだったら一瞬で手紙を向こうに届けられる」
フィリップはあたしの目をじっと見る。そしてため息をついて「分かった」と答えた。
「ヴァイスが一度言い出したら聞かないことぐらい分かってる。ただし一つ条件があるよ。尋問の場に、僕も同席させてほしい」
「あんまりあんたに見て欲しくないんだけど。幻滅させちゃうかもしれないし」
「大丈夫。どんなヴァイスでも愛せる自信があるよ」
「……重い」
真っ直ぐに見つめられ、恥ずかしくなる。ふいと視線をそらしたあたしの口から出た言葉は、あまりかわいくないものだった。
読んでくださりありがとうございました。




