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千文字小説百物騙  作者: 凪司工房
第十乃段
99/100

エッセィ千文字小説百物語

 今、私は百作目となる締め括りのエッセィを書いている。

 百物語という言葉を、みなさんも一度は耳にしたことがあるだろう。今回はそれになぞらえてショートストーリーを百話集め、一冊の本にしようという企画だった。

 当初は最後まで書き切れるかどうか自信はなく、それでも自分の売れていない境遇から企画を拒否するという選択肢はなかった。

 怪談ではないものの、ちょっと不思議な話や人情もの、ミステリ、時にはSFといった様々なジャンルの物語を書いていくと、周辺で奇妙なことが起こり始めた。それは今思えば私にとっての小さな怪異だったのかも知れない。

 作品を書き進める内に徐々に精神的に追い詰められ、何度も自分が死ぬ夢を見た。原稿と締切に追われ、いつの間にか作品の人物と自分がリンクしてしまったような錯覚に陥ることもあった。

 けれどそれも今日で終わる。

 百作を書くことは同じ一つの話で一冊を書くことと同等、いやそれ以上の労力が必要だった。辛くもあったし、体を病んだりもした。けれどそれもまた、作家としての成長に繋がったと考えれば、素晴らしい機会を与えてもらったと感謝すべきなのかも知れない。

 本物の百物語とは異なり、百話を終えたからといって怪異は現れたりしない。

 それでも何かしら、この作品に触れた人たちに、些細な気持ちの変化があれば嬉しい、と思う。何故ならそれこそが私が小説を書き続ける原動力なのだから。


    ※


 私は原稿を書き終えると、コーヒーの残りを飲み干した。

 店内にはマスターと自分だけだ。

 改めて見ると、窓際に、あるいは棚、あるいはテーブルの上に、ロウソクが置かれていた。種類はバラバラで、色も付いている。いつも置かれていたのだろうか。どれも一度使われたものらしく、長さがまちまちになっている。

 ドアベルが鳴り、慌てた様子で編集の仲邑絵美が入ってきた。

「今、ちょうど書き終えたところです」

「見せて下さい」

 私が息が弾んでいる彼女に原稿を渡すと、彼女は立ったまま、コートも脱がずに確認する。

「これでやっと……」

 その時彼女が見せた表情は、これまでに一度も見たことのない類の笑みだった。

「これで、いいですね?」

 その質問は並木に対してではなく、背後に立っていたマスターに対してのものだ。彼は原稿を受け取ると一旦カウンターまで下がる。そこには一つの年代物の燭台しょくだいがあり、原稿を置くと、マスターによって灯されていた火がふっと消された。

 刹那、店内が闇に染まる。


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