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千文字小説百物騙  作者: 凪司工房
第弐乃段
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砂のビル

 地上三百メートルの社長室からの眺めに、西園寺さいおんじは満足そうに口元に笑みを浮かべる。視界に映るどのビルも、ここより低い。はるか昔から人は巨大なもの、より高いものをこの地上に造ってきた。それは自分の権力の誇示こじの為だと云われるが、実際にそれを目にした時に得られる感情はそんな単純に表現することはできないものだ、と西園寺は感じた。

「社長」

「その呼び方はよしてくれ」

「けれど、あと二十分ほどは社長でございますから」

 髪をきっちりと後ろでまとめた柚木有沙ゆぎありさの姿に、西園寺は「汚職おしょく」「収賄しゅうわい」「賄賂わいろ」と連呼するだけのレポーターが映る卓上テレビを消した。

「私のやり方は間違っていたと思うかね?」

 親から事業開始の為に資金こそ借りたが、それ以外は全て独力で会社を大きくした。通産省にコネクションを作り、まだパソコン通信が一部で使われていた頃からネット関連事業に注目して投資し、アパレルやスポーツ用品のメーカーを買収しながら事業を拡大していった。今では銀行に保険、不動産、更にはスポーツビジネスまでを手掛け、新時代の総合商社のプロトタイプモデルとまで云われている。

「私にその評価を求めるのはあまり良いこととは思いません。ただ一つ言えるなら、社長と同じ立場なら九十九パーセントの人が、同じやり方をしただろうということです」

 そうか、と小さく頷くと、残しておいた葉巻を取り出す。

「社長室は禁煙にされたのでは?」

「うまく行く方にがんけていたんだが、もうその必要はなくなったんでね」

 葉巻を口にくわえると、すっと彼の目の前に炎が灯った。秘書の柚木の仕業だ。

「ところで一つ宜しいでしょうか。何故私が東大寺派とうだいじはの人間と分かっていて採用されたのですか?」

「私は有能であれば誰であろうと使う。君が自分の親の抗争相手の側の人間だろうと、私をおとしいれる為に送り込まれたスパイだろうと、もしくはただの悪魔だったとしてもね」

 久しぶりの煙草にのどがじんわりと痛くなる。あと十分も立たない内に自分の社長解任が決議されるのかと考えると、不意に小さな頃に砂場で遊んでいた時のことを思い起こした。

 他の子どもたちが砂をかき集めて山を作っている中、西園寺ただ一人だけが、箱に砂を詰め、ブロックとして固めてそれでしっかりとした土台を作っていた。その上に更にブロックを組み上げ、堅牢けんろうな塔を作ろうとしたのだ。しかし急な雨はその努力を無残にも押し流し、彼が作った砂の塔はもろくも崩れてしまった。


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