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千文字小説百物騙  作者: 凪司工房
第弐乃段
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ひまなツリー

 そこは光のほとんど差し込まない狭い部屋だった。彼らは閉じ込められている、いや、監禁かんきんされているといってもいい。扉一枚をへだてて、彼らをここに押し込んだ主たちは何やら相談をしているようだ。

「そろそろひな祭りになるけど、今年はどうするの?」

「先に出して飾っておいちゃ駄目?」

「でも育子あれでしょ。どうするの?」

「早く片付けないとお嫁に行けないっていうの迷信だったんでしょ。だったら飾ったままでもいいじゃない」

 二人の足音が遠ざかったことに一旦胸をで下ろしつつも、今月頭に役目を終えた、角が折れてしまった鬼の面は涙を浮かべて「来年はオレだめかも」と言っている。

「何言ってんだよ。気持ちが折れたら終わりだぞ。また来年がある。いつもそう思ってなけりゃ、わしら何の為にいるんだ。なあ?」

 端に倒れているクリスマスツリーは門松に声を掛けられ、電飾を力なく光らせて頷く。しかしいつも力強く立っている門松も、今年は突風で転んでしまい、竹の一本が大破していた。

「それで雛人形ひなにんぎょうさん。何か黙り込んでますけど、大丈夫ですか?」

 ツリーはやっと出番が回ってくるというのに毎年のように浮かれた様子を見せない彼女を見て、思わず声を掛けてしまう。

「さっきの話、聞いてました? 今年はどうするの、ですって。もう駄目なんですよ、きっと。あたしに未来はないの」


 その三日後のことだ。雛人形が収められたダンボール箱が謎の青い制服姿の男たちによって押入れから引き出され、外に運び出されていった。明らかに外部の人間の仕業に、物置の誰もが彼女が捨てられたのだと理解した。

 雛人形はこの鈴木家の娘が生まれた時、もう三十年も前に購入された物で、彼女がとても大切にしていた。それが捨てられたというのは物置の住人たちにとってはサプライズどころの話ではない。誰もが次は自分の番だと覚悟を決めなければならなかった。

 その二週間後、ついにツリーにもその時が訪れた。

 ――ま、まだやれる。やれるのに!

 だが無情にも青い制服の男たちによって運び出されたツリーはトラックのコンテナに押し込まれる。扉が閉められると暗闇がおおい、続く振動でどこかに移送されていくのが分かった。

 何時間揺られていただろう。気づくと再び制服姿の男たちに運び出され、見知らぬマンションの中へと持ち込まれた。

「これよ、これ。ツリーは今年もこれを使いたいわ」

 そこにはお腹を大きくした娘と知らない男性が、笑顔で彼を待っていた。


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