3話『作戦会議~ギリシャの神たちについての確認~』
「そもそもなんでアポロンはそんな予言をお兄様に聞かせたんでしょうか」
カサンドラは疑問に思った。予言と言っても普通は暴発するものではない。彼女の双子の弟も予言の力を持っているが、そっちは実に堅実に予言をしている。しかもカサンドラと違って発言が信用されないこともない。比べられてカサンドラの評価は相対的にだだ下がりであった。
それにしても具体的すぎる、未来の情報である。あまりに具体的な運命を予言すると神々の怒りを買うというのは神託者の間ではよく知られていた。中には人間の未来を予言したが故に神々に罰を与えられ盲目になった予言者もいる。
この場合は、カサンドラに憑依したアポロンが喋ったことなので大丈夫だろうとは思われたが。
オイノーネが「うーん」と腕を組んで考える。彼女も女神の一種であるが、言ってみればローカルな土地神。山に流れる小さな沢を守る神とかそのレベルである。アポロンのような一流の神の思考を完全に理解することもできないのだが……
「多分……単に占いで見た未来が気に入らなかったから変えさせようと思ったんじゃないかな。他の神々にバレないようにこっそり」
「気に入らなかったで未来変えていいのか!? 神が」
「アポロンだしなあ……割と後悔することが多い神だから、占いで結果を見て変えようって考えてもおかしくないし」
占いの神アポロンは能力も高いし見た目も秀麗なのだが、とにかく後味が悪い結果を引き起こすことで知られている。
ダブネーという妖精に迫った際には相手があまりの拒否反応で月桂樹に変わってしまったり。
ヒュアキントスという少年と仲良く円盤投げをしていたら円盤を直撃させてしまって死なせて嘆いたり。
アカンサスという妖精に迫ったら顔を引っかかれてつい相手を花に変化させたり。
コローニスという恋人が浮気しているというデマに騙されてその街に住む人間全員連帯責任でアルテミスに射殺して貰ったり。(コローニスの妊娠していたアスクレピオスだけは生き残った)
カサンドラに迫っても拒否されたのでモテないのかもしれない。
実際のところ、アポロンはトロイア戦争の結末が気に入らなかった。
何が嫌かっていうと、別段どちらの勢力が勝っても神々的には良かったのだが、大神ゼウスの贔屓一つでギリシャ側に有利な展開が続いたからだ。
アポロンも頑張ってトロイアを支えたのだが、結局負けてしまった。
それだけなら我慢もできたが、同じくトロイア側を支えていた姉のアルテミスが悔しくて泣いてしまい、おまけに「負け犬!」と笑いながらヘラが泣いているアルテミスを張り倒していた。
この展開を占ったアポロンはかなりイラっときたようだ。
現段階で神側から露骨に介入することは難しいが、パリスの選択一つで運命は大きく変化すると見て、彼に予言で入れ知恵をしたのであった。
「と、とりあえず、対策会議だ!」
パリスが話を一旦戻して、二人を前に頷く。
「まずトロイア戦争をどう起こさないようにするか……」
「あ、それ多分ムリ」
「頓挫!」
オイノーネからバッサリと否定されてパリスはがくりと頭を垂れた。
戦争になればどうあっても大きな犠牲が生まれるので、パリス的には戦争を起こさないのが一番だと考えたのだが。
「予言には神々の裏事情も含まれてたでしょ? やたらゼウスがノリノリで戦争を煽ってる感じで。これは計画的に戦争を起こさせてるんじゃないかな、ゼウスが」
「な、なんで? あんなに大勢が死にまくる戦争を……」
「特に理由が無くてもゼウスならやると思う……人間はこのこと知らないけれど、ゼウスこれまでに自分が作った人類を二~三回ぐらい絶滅させてるからね。なんか気に入らなかったって理由で」
「マジか……こう、比較的神を怒らせない表現で言うと、ヤバいなゼウス」
ギリシャ神話の世界ではまず最初の人類は黄金を材料に作られたとされている。これはゼウスが父神であるクロノスと争った際に全滅させてしまった。或いは異説だと、作ったはいいもののあまりに完璧で退屈な人類だったのでゼウスが滅ぼしたという。
次にゼウスは銀を材料に人間を作り世界に広めた。しかし碌に働かず堕落したことにゼウスは怒りこれを絶滅。
更に青銅を材料に人間を作ったが、これは争いを始める性質があったのでまたリセット。
そして今の時代、材料は石を使って人間が生まれた。この人間というものは堕落はするし神々を侮り戦争も起こすハッピーセットのような邪悪な生き物なのでゼウスがまたリセットしようとしても不思議ではない。ただ時折生まれる英雄や美女が神々の目を引くので今のところは許されている。
ゲームマスターみたいなゼウスが戦争を起こそうと決めたのなら、その運命を逃れる術は人間には無い。
今回のトロイア戦争でも、ゼウスは増えすぎた人口が大地を荒らしているので大地の女神ガイアのために半分ぐらい減らしてしまおうという目的があったのだ。
「だからまあ、何かしらの理由で大勢が死ぬ大戦争は起こるんだと思うよ。そしてどこに逃げてもキミのところにヘルメスがやってきて、エリスのリンゴを手に取る女神を選べって言ってくるはず」
「うわあ~……やりたくないなああ~……あの三女神に睨まれただけで正直生きた心地がしなかったんだけど」
「……っていうかパリスお兄様、アフロディーテを選んだんですね。その選択で」
ジト目でカサンドラが聞いてくるが、パリスは頭を掻きながら答えた。
「いやだって、アテナは戦いの勝利って言うけどオレ戦う予定とかなかったし。ヘラはアシアの王だっけ? どうすればオレがそうなるのかさっぱりわからなくてピンと来ないからさあ。その点ヘレネーは超有名な美女で」
「キミ!」
「はわわ」
睨まれてパリスは口を噤んだ。
溜息混じりにカサンドラが頭痛をこらえるように額に指を当てながら言う。
「パリスお兄様……そもそもトロイアで大きく崇めている神はなんだか知っていますか?」
トロイアほどの大きな都市ならば、幾つもの小神殿が都市内に存在して有名所の神々は網羅している。
だがどこの都市だってその都市に由来の深いいずれかの神を祀る大神殿が作られているものだ。なお、ゼウスはどこの都市でも大抵大きな神殿が作られている。
「んなこと言われても、オレ最近まで牛飼いだったからトロイアの街もあんまり見て回ってないしな……」
「トロイアで一番有名な神殿はアテナのものですよ。神から授けられたパラディウムが祀られている、非常に霊験あらたかな神殿なのです。それこそアテナイの次ぐらいに」
「そ、そうなんだ……知らんかった」
他にもトロイアだとアポロン信仰が盛んで大神殿と幾つも小神殿が存在し、予言者の数も多い。これはアポロンが元々ギリシャではなくトロイアやイーデ山で信仰されていたからだ。
だがとにかく、アテナの神殿はトロイアの誇りでもあった。その御神体であるパラディウムとはアテナがかつて幼馴染だった娘を喧嘩で殺してしまった際に、悲しんでその娘を模した木像を作ったものである。ガチの女神手製の神像だ。それが祀られている大神殿は、ギリシャ中からも「事故や間違いで親しいものを殺してしまった」という罪を負った者が巡礼に訪れるほどだ。
だというのに、
「アテナからすれば自分の大神殿がある都市の王子が、差し出された助平な餌に釣られて自分を裏切ってアフロディーテを選んだんですよ!? そりゃあアテナも怒りますよ! 普通怖くて出来ませんそんな裏切り!」
「ううう……でも地元補正で選ぶのもなんかヤラセっぽい気がするし……」
まだ幼いカサンドラに叱られてパリスは俯いてボヤいた。呆れた様子でオイノーネが言う。
「アテナは意地っ張りでプライド高いし、ヘラは嫉妬の塊だからねー……うわあ怖い怖い」
「はっ! そうだ。リンゴを渡されたときに『オレが最高に美しいと思う女神は──妻のオイノーネたんです!』ってオイノーネに渡せば……!」
提案した瞬間にオイノーネが仰け反って叫んだ。
「死ぬうううう! 絶ッッッ対ろくでもないことが起こる! 飢えた熊と獅子と鷲の前で生肉を持って『これはうちのネズミちゃんの餌だからね☆』とか言うようなもんだよ!? 確実に呪われる! よくていい匂いのする花に変えられて、悪くてゴルゴン姉妹の仲間入りだ! 蛇頭になりたくないいいいい!」
「こんなに必死なオイノーネたん初めて見た……」
オイノーネは全力で拒否した。彼女からすれば三女神は雲の上の存在。王侯貴族と平民。気分次第で動物とか植物に変化させても特にお咎めが無いぐらいの軽い命だ。
仮にもあの三女神だから、誰が選ばれてもその場では暴れ出さない拮抗が保たれているのである。これが仮にアポロンの姉アルテミスであっても交ざることはできない。そういう恐ろしい女神三人衆なのだ。
神々の女王ヘラは言うまでもなく女神の中でも最高権力を持つ。
だがアテナは大神ゼウスから直接生まれたので、母親でもないヘラは頭ごなしに命令できない。
そしてアフロディーテはゼウスの祖父であるウラノス、或いは海に落ちた真珠の泡から生まれたという女神なのでこれもまたヘラ相手に上下関係は薄い。
それ故にお互い譲らないのであった。
「それにしても……ヘラを選んだ際のアシアの王ってどうするんだろうな? アフロディーテがヘレネーを嫁にくれるって言ったときも、ヘレネーを攫ってくるのはオレ任せだったんだけど」
魔法のようにポンと世界が変化して、いきなり美人の嫁が手に入ったりするわけではない。となればヘラだって、アシアの王にするプロセスというものがあるはずだが。
「うーん、ヘラって結婚の神だけど……王にするってどうやるんだろ?」
「例えばパリスお兄様に良縁を用意して地位を上げていくとか……」
「そりゃアシア中の王族の姫が全員パリスの嫁になれば別だけど、ヘラは一夫一妻制しか認めないし……他になにか能力が……怪物を操る力とか。あっ、わかった」
「どうするつもりなんだ?」
オイノーネが思いついた様子なので聞くと、彼女は微妙そうな顔をして苦々しく言う。
「キミをトロイアの王にするには他の王族が邪魔だろ?」
「親父がトチ狂ったとしても次の王はヘクトール兄だろうしなあ」
パリスの兄であり数多いる王子の長男、ヘクトールは言ってみれば完璧超人だった。武力・統率・知力・魅力・人柄・性格の良さ・神々への敬虔さなどすべてが高水準だ。例えばヘクトールよりも武力の高い英雄はアキレウスを始めとして存在するだろうが、すべての能力がこれほど高い者はそう居ない。
そのことは家族一同が共通して納得しており、満場一致でヘクトールが次のトロイア王になるだろう。
「そこで解決法! まずヘラが命令を出せる最強の怪物……ヘラクレスをトロイアに呼び寄せて攻め落とさせます。ヘラクレスに命じてキミ以外の王族を皆殺し。はいめでたく残ったキミはトロイア王になれました」
「最悪すぎる!」
「しかも若干『あっ、そういうことやりそう』って感じがしますわ……」
カサンドラが顔を曇らせた。
まるで酷すぎる解決方法だが、トロイア人にとっては笑い話ではない。
実際にヘラクレスがトロイアに攻めてきて王族を一人残して皆殺しにしたことが過去にあったのだ。その時生き延びて王になったのがパリスの父である現トロイア王プリアモスである。
一度あったことは二度あるかもしれない。
トロイア戦争でギリシャ軍相手に十年粘ったトロイアの城壁だがヘラクレスが来れば一年も持たないことは歴史が証明していた。
「とにかくヘラは無しだ! アフロディーテも……ヘレネーは心残りだけど……これを選ぶと最悪な形でギリシャ連合軍が攻めてくるから止めよう!」
「どんだけヘレネーが惜しいんだよ……」
「となるとアテナ一択ですね、パリスお兄様。ゼウスが大きな戦いを計画しているとなると、アテナの加護はあって困るものではないですから」
しかし問題が残っている。
「ただ選ばないとなると……他の女神の恨みを買うのは確定なんだよなあ……」
実際にトロイア戦争ではアテナの恨みを買っていたため、ギリシャ軍側の英雄にはアテナの加護が多く与えられ戦場ではいつも以上の能力を発揮していたぐらいだ。
一流どころの英雄にアテナの加護が加われば神々にすら傷を負わせる程の力を持つ。
「オイノーネさん、アフロディーテとヘラが敵に回るとなると、どういうことをしてきそうですか?」
「ヘラが敵になると……ゼウスの贔屓がつきやすくなると思うけど、その点ではアテナもゼウスが可愛がってる娘だからイーブンってところかな」
「アテナとヘラを両方敵に回したときが、やけにゼウス向こうを贔屓するなって思ったはずだよ!」
パリスが予言の記憶を思い出して嘆いた。
しかもその時に味方についていたアフロディーテに関してゼウスは「アフロディーテが負けるの見てて笑える」とコメントしたほどゼウスがこっちの味方してくれない。
ただ戦争を長引かせて犠牲を増やそう、という目的をゼウスは持っていたので、ギリシャ軍が勢いに乗り過ぎると加護を打ち切って逆にトロイア軍を支援した。
「アフロディーテが敵になるのは……恋人で戦いの神アレスが敵に回ることかな? アシアだとアレス信仰してる都市や蛮族が結構多いからそれが攻めてくるかもね。アマゾーンの女戦士とか、コルキスとかトラキア方面の」
「そいつら全然味方になってくれなかったのに敵にはなるのか……いやアマゾーンは来たんだけど。女王のペンテシレイアが凄い美女でなあ。もうなんかヘク兄死んでお通夜ムードなトロイアがペンテシレイアで一瞬盛り上がったぐらい。まあアキレウスに殺されて一瞬の命だったけど……」
「随分美女のことだけははっきり覚えてるんだねェ~キミ」
「オイノーネさんが一番です!」
ジト目で睨まれて背筋を正すパリス。
オイノーネとてそこまで束縛の強い女ではなかったと自分でも思っているのだが、目の前ではっきりと可能性の高い未来として、自分を捨てて他の女を浚いに行く予言を聞かされれば少々釘をさしたくもなる。
「とにかく、アテナを選んだ場合予言の未来も含めてざっと有名な神々がどっちの陣営につくのか纏めてみようか。ギリシャが攻めてくるかはわからないけど、一応ね」
オイノーネが板に炭で簡単な図を書き示した。
トロイア側:アテナ・アポロン・アルテミス・スカマンドロス・レト
ギリシャ側:アフロディーテ・ヘラ・テティス・ヘパイストス・アレス・ポセイドン
状況次第:ゼウス
「アポロンはどうやら味方してくれてるみたいだから、姉のアルテミスも味方だろうね。アルテミスって友達がほぼ居ないからアポロン側につくしか無いし」
「そうなのか……」
「性格が潔癖で怒りっぽいからなあ。好色な男神は嫌いだしふしだらな女神も嫌いだしで。割と仲いいのは叔父のハデスぐらいじゃない? アルテミスは死神だから業務上の繋がりがあって」
「それと、トロイアの近くを流れる川の神であるスカマンドロスと、アポロンとアルテミスの母親である大地の神レトですね」
「ギリシャ側は……なんでヘパイストスが暴れてたんだ? 割と大人しい神じゃなかったか?」
予言によると、アキレウスが川に死体を流しまくったことに怒ったスカマンドロスが洪水でアキレウスごとギリシャ軍を壊滅させようとした。そこで出てきたのは鍛冶と火の神ヘパイストスだ。
ヘパイストスは洪水に灼熱の火を流し込んで瞬時に蒸発させ、凄まじい熱は逃げ遅れた両軍を焼き尽くした。まさに神VS神のバトルである。人間の居ないところでやって欲しい。
「ヘパイストスは生まれてすぐさま捨てられたんだけど、それから暫くの間養い親をしてくれたのが海の女神テティスなんだ。だからテティスに頼まれれば断りきれないだろうね」
そのためにアキレウスの鎧を作らされているヘパイストスである。しかもアキレウスが鎧を一領失ったら「納期明日までで新しい鎧仕上げて」という仕事をやらされた。
またポセイドンも海の神であり、向こうが航海をしてトロイアに攻め込むのならば生贄や供物を捧げて絶対味方に付けているだろう。
「ゼウスは状況次第でどっちにも味方するというか、被害が大きくなればそれでいいって感じだからなあ……」
「一番厄介なやつ!」
「しっ! パリスお兄様! 聞かれたらアウトですわ!」
「とりあえず機嫌を損なったらダメだから、日頃からちゃんと崇めていくようにね。あと変な願いはしないように」
予言の未来でもあまりにギリシャ軍に攻められ続けて疲弊したトロイア王が「ギリシャ軍を退けてくだされ、そうでなければ一思いに滅ぼしてくだされ」とゼウスに願ったところ、「前者はダメだけど後者の願いなら叶えてやろう」と言われて更にギリシャ軍の攻撃が苛烈になったことがあった。
ゼウス的には人が死にまくれば計画達成なので、最終的にトロイアが勝とうがギリシャが勝とうがどちらでも構わない。そうした中で、アフロディーテとアレスを泣かせたいとか、大事な娘アテナと嫁ヘラがギリシャ陣営だとか、様々な好感度判定でギリシャ側に有利な展開が多かった。ギリシャの圧倒的勝利でもつまらないのでトロイアに加担もしたのだが。
「味方になってくれる神も無礼があると怒って呪われるし、敵の神も敬虔だったら手心加えてくれるかもしれないから、とにかくキミはあちこちの神殿で祈っておくんだよ」
「あのー……わたし、既にアポロンから呪われてるんですけど、どうにかならないでしょうか」
カサンドラが女神であるオイノーネにおずおずと聞いた。自分の、他人に言葉が信用されなくなるという呪いも非常に厄介なものなのだが。
だがオイノーネは目を見開いて言う。
「えっアポロンに呪われたの? じゃあムリじゃん」
「あっさり諦められた!」
「他の神々からの怒りだったらアポロンに予言で解決法を聞けば教えてくれるんだけどねえ。アポロン自身からだとムリ」
例えばヘラクレスが子供を狂気の中で殺害したときなども、ヘラの呪いによるものだったがアポロンが10の試練をすべてこなせばヘラも認めるだろうと哀れに思った彼に予言を与えた。
ゼウスに攫われたエウロペを探すために旅に出たカドモスに予言を与えたり、ポセイドンの怒りを止めるための生贄を指定したりとアポロンは割と他の神々の尻拭いというか、フォローを頑張っているのだ。
これは彼が物語を語る詩人を司る神であることも理由の一つだろう。神の怒りを買ってはいおしまい、ではなくドラマチックな物語を展開させるため、予言でイベントを起こすのである。
「素直に抱かれておけば良かったのにねえ。どうせすぐに飽きるんだからアポロン」
「こちとらまだ子供なんですけど!」
涙目で抗議するカサンドラだったが、パリスは突然硬直したようになりながら聞いた。
「……いや待てオイノーネ。オイノーネさん。待って。なんか……その経験者は語るみたいな口ぶりだと……オイノーネさんも占いとか薬草とか教えてもらうために……アポロンに抱かれ……?」
「そ──そんなこと、ないよー?」
愛する妻の思わせぶりな態度にパリスは泣きながら頭を抱えて仰け反り、叫んだ。
「NTRやんけエエエエエ!!」
「だー! 違うって寝てないって! ボクはアポロンの母親のレト経由で習ったからそういう邪なことはされてないんだって!」
「そういえばアポロンは下級女神好きの逸話が……」
※ニュンペーに二回ぐらいこっぴどくフラレている。
「やっぱりNTRやんけえええええ!! あああオレのオイノーネがあああああ!!」
「カサンドラもややこしいこと言うなー! ボクはアポロンと何も無いんだって! キミが好きなんだから──ってなに言わせるの!?」
やいのやいのと小屋の中で騒ぐ三人であった。
こうして予言の内容を吟味して、異なる未来へと向けてパリスたちは歩み始める。
『アポロンは多才で美男子な私によく似た優秀な息子だ。女にモテないのは似なかったがな。私はモテモテだ』────関係者Z
『今回まで解説回なので毎日投稿しました。次回は来週予定。ブクマ・評価お願いします!』────詩神ムーサ