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天使にアニメソングを!〜才女とクズ男の89秒〜  作者: 師走乃 スピカ
才女とクズ男
7/13

第7話「色気のねえ文章」

「……こんなんじゃ、ダメっすよね?」


 西園寺 音々(さいおんじ ねね)からいきなりの無茶振りをされた邪念場じゃねんば 詩朗しろうは、殴り書きのメモを自信なさげに渡した。


「…………いえ、いいわ! あんまり意味はわからないけど、自由でとってもいいと思う!!」


「えっ、意味わかんなくていいんすか?」


「私の場合は、それでいいの!」


──やっぱり私の目に狂いはなかったわ


 音々はメモを凝視しながら、良くも悪くも衝撃を受けていた。 

 今回、邪念場にお願いしたのは、『カリジョ妄想❤︎マル秘手帳』の妄想ショートショートの一つから膨らませた歌詞。テーマは『恋愛ラブソング』。


 1P分、びっしりと書かれた邪念場節の妄想をこじらせた歌詞は、まるで意味のわからない擬音と妄想が要所に散りばめられた、痛いポエム全開の羅列であった。しかし、そこには確かに、自分にはない邪念場特有の自由なワードセンスを感じていた。


「……うん、これでいいの。これを私が整えて形にするんだから」


「はあ、そういうもんすか……」


 一つため息をついて、邪念場は立ち上がる。


「……そんじゃま、約束通り書いたんで、俺の手帳返してもらえますか?」


「へ? 何言ってんの? 最低でもあと、50曲は書いてもらうわよ」


『は?』といった顔で、邪念場はぽかんと口を開ける。


「…………ご、じゅう……」


「当たり前でしょ。そんなメモ書き一枚で、あんたの罪が帳消しになるはずないじゃない」


 どうやらスリーサイズのことを根に持っているらしい。やはり変な女に捕まってしまった……いや、まだ警察に駆け込まれなかっただけ運が良かった方か? と、邪念場は思考を巡らせる。


 じきに考えるのをやめ、観念したように口を開いた。


「……はーっ、わかりましたよ! まあこんなんで人生棒に振らなくて済むなら、良しとします」


「分かればよろしい! ちゃんと50曲分書いたら返してあげるから」


 ──まあ、スキャンデータは渡さないけどね!


 と音々は思っていたが、口に出さずニコニコしている。


「でも、曲ができたとして、どうするんすか? アニソンったって肝心の『アニメ』が無いじゃないですか」


 確かに、音々は『アニソン、アニソン』と言ってはいるが、いくら曲ができたところで肝心のアニメーションが無ければ『アニメソング』にはなり得ない。邪念場の指摘はもっともな話だった。


「……ちっちっち。それくらい私にもわかってるわよ」


「と、言うとなんかアテがあるんすか?」


「ふふーん。これに投稿するのよ!」


 じゃじゃーん、と音々はノートPCを広げて、邪念場にディスプレイを見せる。


「これ……Dream Composerってやつすか?」


「そう! Dream Composer、通称ドリコン。超大手楽曲投稿サイトよ!」


 邪念場もドリコンの存在くらいは知っていた。何せここ数年、街を歩けば、ネットを見れば、ボキュートだ、ドリコンだ、どこでもその名前で賑わっていたもので、嫌でも生活に侵食してくるレベルの流行だったからだ。


「なーる……ここに、曲を投稿すると」


「ご名答!」


 音々には自分なりに考えたプランがあった。元よりドリコンの投稿常連者である音々には、ある程度の知名度がある。ここに邪念場の歌詞を組み合わせた自分の曲を投稿すれば、いつもと違うテイストの楽曲にリスナーが反応し、話題にしてくれるのでは、と考えていたのだ。


「あ、音々さんてドリコンやってるんすか?」


「ふふーん、これよ」


 得意げな音々のPCが映し出す画面には、『NENE』と言うネームが表示されたプロフィール画面が写っている。


「……NENE……582位……ってすごいんすか……?」


「すごいわよ! 世界ランキングなのよ!? 世界で582番目に凄い作曲家なのよ!?」


「……ふうん。なんかいまいちピンと来ない数字っすね」


 ぽりぽりと頭を掻きながら、邪念場は自分の鞄を拾い上げて立ち上がる。


「……まあじゃあ、残りは家でちまちま書いてみるんで、今日のところはこれで」


「あ、そうね。次のテーマはあとで送っとくから。あ、アドレス教えてちょうだい!」


「……うす」


 邪念場は、渋々音々とアドレス交換を済ませ、『じゃ』と一言呟き、練習室を出て行った。


「……さ、ここからが私の踏ん張りどころね!」


 音々は一人PCへと向き直ると、ガチャガチャと作曲機材を鞄から取り出し、作業を始めた。



 *


「……はーっ。一体俺は何に巻き込まれたんだ……さっさとノルマをこなして、俺の妄想手帳返してもらいてえなあ……おっと」


 履いているデニムのポケットでスマホが振動する。邪念場はスマホを取り出して、通知表示「1」とだけポップしているメッセージアプリをタップした。



【差出人:音々さん】


『 これからよろしくね。

  次のテーマは『友情』で! 』



「……けっ。女子大生なら、絵文字の一つくらい付けろってんだ。見た目と違って色気のねえ文章……」


 少しだけニヤつきながら、邪念場は家路へと歩く。


 *

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