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天使にアニメソングを!〜才女とクズ男の89秒〜  作者: 師走乃 スピカ
才女とクズ男
6/13

第6話「大マジよ」

「ここなら誰も入ってこないわ」


 音々(ねね)さんは俺に向かってそう告げると、練習室の鍵を閉める。


 ──さて、俺はなぜFカップ美女と狭いピアノ練習室の中、二人きりになっているのか、というと。かくいう俺にもどういう状況か、全然よくわかっていないのだった。


「ちょっと待っていなさい」


 音々さんは、小型のノートPCを鞄から取り出して、ゴソゴソと何かを準備している。


 ……うーむ。詞を書きなさい、とか言われたけど、何のこっちゃ。

 しかし、ほんと俺好みのイイ女であることだけは違いない。無防備にこちらに向けているデカい尻、そこからスラリと伸びた太もも、もしや誘われているのか……? こんな狭い密室に二人きり、据え膳食わぬは男の恥というやつなんだろうか。このまま後ろからガオーと襲いかかって……! 

 いや、いかんいかん。俺はいま弱味を握られているのだ。ここで更に変なことしようもんなら……


 先程のやりとりの続きを想像しただけで、ゾッとする。


「──OKね。じゃ、これ付けて」


 音々さんは、今度はヘッドフォンを取り出して、俺にぽいと投げる。俺は先程の煩悩を一旦頭から無理くり消して、言われた通りヘッドフォンを装着する。


「……よしっ。じゃあ、流すわよ」


 そして、何か覚悟を決めたように音々さんは言う。なんだ、音楽でも聴かせられるのか?


「うっす」


 俺は適当な返事をし、まあなるようになれ、と背もたれのあるピアノ椅子へと体重を預ける。


 そして、一寸の静寂の後、俺の耳は音の大洪水へと飲まれていった。


 

 それは賑やかに、穏やかに、艶やかに、そして華やかに、俺の意識を次々に塗り替えていく。



 ──。

 ────。

 ────────あ。



 っという間に、その曲は目まぐるしく、通り過ぎていった。


「………ど、どうかしら?」


 もじもじと、顔をほんのりと紅潮させながら、音々さんは俺に問いかけている。


「……あー……? よく、わかんないすけど、なんか、普通の曲より面白かったっす」


「ふふ、わかんないのに、面白いってどういうことよ」


 音々さんは上品に笑う。

 俺にはいま聴いた音楽に相応しい、適切な言葉が見つからず、思ったことをそのまま伝えることにした。


「──いや、俺音楽とかあんま聴かないんすけど、グッときて、パッとして、うるっときて、さっと終わった感じで、なんか多分、変わってんじゃねえかな」


「そう? ありがとう」


 ──いや、実際そんな感じだった。歌もねえし、リズムも曲調も一貫してない。そんですげー短い。なのに、なんでか俺は少しワクワクしたり、ほっこりしたり、しんみりしたり。良いかはよくわかんねえが、いろんな感情を引き出された曲であることには違いない。


「……あの、こういうのって、なんて言うんすか? インスト?」


「これはカラオケトラックね。仮歌のガイドラインがあったでしょ」


「え、歌なんすか? これ」


 そう言われると、ボキュートで『ららら』と歌われた、メロディのようなもんが入っていたような。ボキュートくらいは誰でも知っているくらい普及していたので、その声を耳にしたことは俺でもある。


「……ふうん、なんか変わった曲調なんすね。歌になると、より想像つかねえや」


 しかし、特にそれについて関心もなかったので、俺は他人事のような返事をした。


「……どうやら、まだピンときてないようね」


「え?」


 俺が間の抜けた返事をすると、音々さんは強い口調でこう続けた。


「あなたがこの曲の歌詞を考えるのよ」


「…………え、まじすか?」


「大マジよ」


 そうして、真剣な眼差しを俺に向ける。


 この人本当に俺に頼む気でいるらしい。音大生でも何でもない、ただの清掃員の俺に。ただちょっと変態な俺に。作詞を。


 やっぱどうかしてるんだって、この女。



 *



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