第4話「クズの思考」
──やっべえ。
まーじで、どこにも無い。今すっげえ焦ってる。俺の『カリジョ妄想❤︎マル秘手帳』どーこ行っちゃったんだろ。普通にまずいよねえ、まずいねえ。だってこの音大の女子生徒のイラストやフルネームだけじゃなくて、スカート丈の長さとか、多分ほぼ正確なスリーサイズとか、勝手に俺とデートしてる時の妄想ラブストーリーみたいなやつバンバン書いちゃってるし。やばいねえ、これは。
ま、まあでも別に自分の名前とかご丁寧に書いてないし、誰かが拾ってたとしても俺のだってわかんなければ問題なくね? ギリセーフ、みたいな。
──や、待てよ。妄想ラブストーリーの中で確か『邪念場さま〜ん❤︎』とか『詩朗キュ〜ん❤︎』みたいなセリフ何度も書いたような。大体、『邪念場』なんて邪悪そうな名字、世界中探しても俺かドラゴ●ボールにしかいないんよな。どうして俺の名前は田中一郎じゃなかったんだ。安易に苗字でインパクト持たせようとしやがって。そんなとこで爪痕残してんじゃないよ、俺のご先祖様は。おかげで爪痕どころか一生消えない傷が残っちまうだろうがよ、『前科』ってデカい傷跡がなあああっ!(涙)
……あー、落ち着け。どう考えても終わったっぽい俺。全てがバレる前にバイトだけ辞めるか。……ってか、今ならまだバイト辞めちゃえば、ワンチャン助かるんじゃないか? あ、そうだよ、そうしよう。それでほとぼりが冷めるまで引き篭もってればいいんだ。こんなこと辞めて、またアイドルの追っかけでもしよう。金も少しは貯まったし。リリにゃ、待っててね、浮気なんかしてごめんね。うんうん、そんで一ヶ月も篭ってりゃ人の噂もなんとやらってな。よーし、今から職員室行ってバイト辞めますって言おう。まだ詰んでない。まだ俺は詰んでいないぞ、なんか人生前向きになってきたかも、そんでリリにゃのライブ見にいこっと──
「あの〜……」
「ひゃいっ!!」
──わっびっくりしたあああ、けどなんかめっちゃいい女キター! こんな女抱けたら最高だったろうな俺の人生──って、この女確か記念すべき100人目の──ヤバイヨ、ヤバイヨ。100人目で俺のカリジョ記録が途切れてるってことは、そこで手帳落としたってことじゃん。絶対、この人俺の手帳持ってますやん、俺みたいな冴えないやつにこんな美女が声かけてくる理由なんて一つしかないじゃん、いやほんとそれしかないやん、そうですやん──
「すいませんでした──。俺は秒で土下座した。だってもう土下座するしかないんだもん。もう土下座で許してもらうしかないんだもん。お金か。お金かな。俺いくら持ってたっけ。850円くらいしか手持ち無かった気がするけどそれで許してくれるかな。とりあえず出すだけ出してみよう、相手も鬼じゃない人間だもの。それでだめなら俺の着てる服ぜんb」
「すっごい考えてるとこ悪いけど、全部声に出てるわよ……。あといらないわ、そんなはした金も、汚い服も」
「…………すいませんでした」
あー。これは本当に詰んだかもしれないにゃあ。
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