第2話「100人目の女」
華凛女子音楽大学、通称<カリジョ>。ここが俺の職場……いや、敢えて聖地と呼ばせてもらおうか。
と、言っても俺は音大教授でもなんでもなくただの清掃員のアルバイトなんだけど。全く、こんな金ばかりかかって適当に遊びに来るような場所に、毎日通ってるお嬢様たちの気が知れない。だいたい音大生なんて真面目にやってるのはごく一部、ほとんどの奴らはなんとなく音楽が好きで〜とか、他にやりたいことがなくて〜とか、音大の響きがカッコいいから〜とかそんな下らん理由で通ってるに決まっている。
実際、音大生の音楽関連への就職率はべらぼうに低いんだ。選ばれるのは極々一部の人間だけ。篩にかけられて大抵の奴らは後々になって入学したことを後悔し、卒業する頃にはとっくに音楽の道なんぞ捨てて一般企業に進路変更していく。
もっとも、カリジョは数ある音大の中で最も学費の高い音大だ。コイツらは皆超がつくほどの金持ちばかりで、しかも顔もスタイルも抜群に良いやつがパッと見でもめちゃくちゃ多い。全くもってけしからん! だから音楽の道からあぶれようが、その健康過ぎるくらいのワガママボディーを使って、医者だの、弁護士だの、野球選手だの、スケベそうな金持ちイケメンをさらっと捕まえて、俺なんかとは全く縁遠い超イージーな暮らしを満喫するに違いない。
うむ。俺がアルバイト先をカリジョに決めたのは、そういう理由だ。普通に暮らしてたらまず出逢うことのない美少女音大生を、清掃しながらくまなく凝視できる。清掃帽を深く被って、サングラスとマスクをして。特にどこを凝視するのかと言えば、おっぱいとお尻、どっちもだ! 俺はどっちも好きだし、大きくても小さくても全部好きだ! どっちかを選ぶなんぞ俺にはできーん! しかし、あわよくば、などとは断じて思っていない。俺は身の程をしっかりと弁えている、フェチゾーンも懐も広い男なのだ。
そう、ただ清掃してるフリをしながら、内ポケットに忍ばせてある『カリジョ妄想❤︎マル秘手帳』をこっそりと付けられれば、それでいい。それ以上は望まない。この手帳には誰にも見せられないような企業秘密のエクセレントでムフフな情報が詰まっており、それを家に持ち帰って酒を飲みながらゆっくりと眺めるのが、俺の今のささやかな生き甲斐なのだ。
ちょうどこの手帳も次で100人目に到達する、ってく〜っ! あの黒髪の美人な子、おっぱいおっきいなあ! E、いやFカップはあるぞ!? ありゃあ88、いや89はあるんじゃないか? メモメモ……いや、ほんとけしからん、というかタマランというか、天国というか、なんというかこのバイト、ほんとう最高ですっ! えーっと名札は、西園寺っと……♪
「邪念場さ〜ん、ちょっと良いですか〜?」
「あっ、はいーっ! すぐ行きまうす!」
――ぽろり。
「……あ、あなた手帳落としたわよ……って、行ってしまったわね……。『カリジョ妄想❤︎マル秘手帳』って何かしら……。」
――ぺらり。
「――っ!!/////」
こうして俺は、記念すべき『カリジョ妄想❤︎マル秘手帳』の100人目となる女の手によって、人生最大の窮地に立たされることになるのだが、この時はまだそんなこと、知る由もないわけで。
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