第11話「社内コンペの道」
「──という契約内容なんだが、どうかね。君たちにとっても悪い話じゃなかろう」
「是非に、お受け致します」
キリリ、と邪念場 詩朗は即答する。卸したてのネイビー色のスーツに身を包みながら。
「ちょっと、アンタは黙ってて!」
西園寺 音々は邪念場を制止すると、目の前に座っている体格の良い、薄茶のサングラスをかけた白髪のダンディ社長へと向き直り、姿勢を正してから丁寧な口調で話し始める。
「あの……とても有難いお話ではあるんですが、先程からお伝えしている通り、私たちアイドルソングじゃなくて、アニメソングを作りたくて……」
「……ふむ、であれば尚更、悪い話ではあるまい」
音々の言葉を遮って、さながらマフィアの首領かのような風貌の強面社長は、目の前のグラスに口をつける。カラリ──、と氷の溶ける小気味良い音と共にアイスティーを喉で鳴らし、グラスをコースターの上へとも戻す。そして、顎にフサフサと生い茂っている白髭を濡れた手で遊ばせながら、低い声で語り始めた。
「……弊社『パニープロダクション』はアイドルだけでなく、歌手・俳優・声優・その他諸々を、幅広く扱っている大手芸能プロダクションだ……なので、当然大手のアニメ会社や音楽レーベルとの付き合いも多い……」
『アニメ会社』、『音楽レーベル』というワードに音々が反応するのを見て、社長は一瞬、その口角をニタリと吊り上げる。そして、すぐさま表情を押し殺し、またゆっくりと続けた。
「──もし、今回のリリカの話を受けてくれると言うならば、他社の『社内コンペ』に君達の曲を斡旋してやっても構わん」
「……社内コンペ……!」
音々はゴクリと、唾を飲み込んだ。
実は、昨今のアニメソングのほとんどは、『コンペティション形式』で決められているものがほとんどである。そして、そのコンペには大きく分けて2種類存在している。
まず一つ目は、『公募形式のコンペ』である。こちらは、プロアマ問わず、作詞作曲をする一般人でも参加ができ、楽曲のレベルも当然様々である。窓口が広い分、参加自体の敷居は低いが、採用される曲の倍率もその分高い。必然的にかなりの候補者が落とされてしまう。仕方のないことだが、曲を聴かれる以前の問題、書類選考などで篩にかけられる事もしばしば見受けられる。また、公募のコンペは数自体がそこまで多くなく、大手のアニメ会社ではほぼほぼ公募を行っていない。
では、アニメ会社自体、どのようにしてアニメソングの選定をしているのか? 勿論ながら、漫画原作や小説原作がある場合、その原作者の意向により、既に売れているバンドや歌手、お気に入りの作曲家等に、直接依頼をかける場合も多い。
しかし、その場合を除く手段として、アニメ会社が最も多く用いている選定手段がある。それが、アニメ会社から音楽レーベル会社へと依頼をし、その後レーベル内部で秘密裏に行われる『社内コンペ』なのである。
『社内コンペ』は、そのレーベル会社所属のプロ作曲家・作詞家のみが参加できる、限定的なコンペティションであり、基本的に外部からの介入はできない。但し、社長が言うように《《深い付き合いのあるレーベル》》であれば、社長の『推薦作家』として他社コンペに参加することも難しくはないはずである。
勿論ながら、プロのみの参加となる為、競い合う相手のレベルが非常に高くなるが、参加者数自体が公募コンペよりうんと少なく、実力さえ備わっていれば、そのチャンスにありつける可能性もぐっと高くなる、というわけだ。
音々は俯いて深く熟考した後、その顔をあげる。
「……もし、コンペに回していただける、という条件ならば、是非──」
──そう音々が言いかけた瞬間だった。
「ちょおおおーっと待ったああああああああ!!!」
バーン、と勢いよくドアを蹴り開けて入ってきたのは、銀髪の猫耳ゴスロリ少女、もとい──
「えええええええ、リリにゃあああああああああああ!!!!?」
今叫んでいる邪念場がかつて追っかけていた大人気ネットアイドル、天童リリカ本人だった。
「そんなの、リリカが絶対に認めないわ!! いくらお爺ちゃんでもよ!!」
「──って、おじいちゃんなのっ!?」
リリカは、さながらマフィアの首領のような、全く似ても似つかない強面白髭ダンディ社長に向かって、強い口調でそう言い捨てた。
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