第10話「直接、引導渡してやるわ」
「はああああああ〜〜〜!!!? なんですけど!!」
とある事務所の一室に甲高い声が響き渡る。
「小泉いぃっ!!」
「──は、はひぃっ!」
小泉 太一は焦っていた。
自身のマネージメントするアイドルグループ『にゃんころバスターズ』のセンターを務める、天童 リリカ、通称『リリにゃ』。ネット上で若者から大人気の、カリスマ銀髪猫耳ゴスロリ美少女アイドル。しかし、その本性は超が付くほどドSの、ワガママなただの小娘である。
今回小泉が焦っているのは、そんな分かりきっている事実ではない。そんな彼女がおふざけ半分で配信した『歌ってみた動画』が、バズりにバズってしまったことにあった。
「な・ん・でっ! リリカがこんな無名のパンピーに、曲書いてもらうことになってんの、よっっ!!!」
「──ギャひんっ!!」
リリカは思い切り小泉の尻を蹴り上げると、ドカァッと事務所のソファに座り、豪快に足を組んだ。
「……り、リリにゃ、落ち着いて……! 社長にも僕から言ったんだけど……」
「ちっ。あんの、クソジジイ……。リリカの良さは可憐なバラードだって、何度も言ってんのに!」
しかし、小泉にはどうすることもできなかった。先日の歌ってみた動画の再生数を見た所属事務所の社長が、
『こいつにリリカの曲を作らせろ』
と鶴の一声。社長が一度言い出したらテコでも動かないことは当事務所『パニープロダクション』の鉄則であるからだ。
「い、いや、お言葉だけど、リリにゃにはこういう、元気いっぱいで勢いのある曲調の方が、音痴なのを誤魔化せて合ってると──ぴぎゃあああっっ!!」
リリカは組んでいた足を振り下ろし、ヒールの先端で小泉の足を踏み潰した。
「確かにリリカが、自分であの動画出したわよ!? 再生数目当ての『ネ・タ』でね!! そ・れ・が・よっ!!」
小泉の胸ぐらをネクタイごと思い切り掴み、リリカはその綺麗な顔を物凄い形相で歪ませたまま詰め寄る。
「まさか、リリカの本チャンソロデビュー曲の方向性に決まるなんて、思ってないに決まってんでしょーがっ!! あああん!??」
「……まっ、まあリリにゃが歌姫志望なのは社長も分かってますけども……」
額に青筋を立てながら、鼻息を荒くしてリリカは続ける。
「10000歩、いや100万歩くらい譲ってよ!? 曲はまだ良いとしても、特に歌詞のセンスっ!! なんっなのよ! この意味わかんない『たわわに実ったハニーのふわふわメロンパいん』って!! こんなのネタだから許されるのよ!? 本気で歌ったらリリカは世界中の笑いもんじゃない!!」
「確かに、リリにゃにこれを歌わせるのは、その貧弱な体型的にはギャグみたいな話──ぎゃぼんっ!!」
小泉の溝落ちへ綺麗に、リリカの美脚が突き刺さった。
「だああああ!! もう小泉じゃ話になんないわ!!!」
「……ぐ……あ、あの、実は近日、その『NENE』が事務所に来ることになってまして……」
「…………!」
社長の言われるがままに小泉は『NENE』とのコンタクトを取っており、近く社長を交えての契約に関する面談が行われる予定なのである。リリカは腕を組みながら、力強く立ち上がり、
「……だったら。そいつにリリカが直接、引導渡してやるわっ……」
仁王立ちで尻餅をついていた小泉を睨みつけた。
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