2 エリックフィーバー
守菜ちゃんが謎の黒タイツのオッサンに襲われた、翌朝の教室。
俺のすぐ隣にある室戸の席をクラスの女子達が取り囲み、朝から大騒ぎとなっている。
守菜ちゃんが昨日、危ないところを室戸に助けられた事を、クラスの女子達にポロッと話したのや。
ただでさえ『室戸君カッコイイ~♡』状態やった女子達は、その話を聞いて更にエキサイトし、その辺りの詳しい事情を、室戸本人に直撃インタビューしている。
そしてそんな女子達の質問攻めに答える室戸の傍らには、頬をにわかに赤らめる、守菜ちゃんの姿があった。昨日は室戸の事を、『あんなタイプの人間は好かん』みたいに言っていた守菜ちゃんやけど、今日はすっかり心を許した顔をしている。
しかも室戸は、十年前に守菜ちゃんを野良犬から救った恩人。
その恩人が十年ぶりにひょっこり現れ、昨日再び守菜ちゃんの危機を救った。
これ程までに運命的な再会があってええのやろうか?
守菜ちゃんはすっかり室戸と打ち解けたみたいやけど、他の男子に対しては(勿論俺も含めて)全くそんな事がない彼女なだけに、この事態は俺の嫉妬心を激しくかきたてた。
そんな中隣の席では、守菜ちゃんと室戸を中心に、女子達の騒ぎ声が絶えへんかった。
その様子をげんなりしながら眺めていると、不意に俺と守菜ちゃんの目が合った。
その瞬間俺は咄嗟に席を立ち、考えるより先に教室を出た。
出たというより、逃げたのやけど。