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闘え!ひょっとこ仮面!  作者: 椎家 友妻
第一話 情けない主人公と、イケメンの転校生。
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6 現れた黒タイツ

 放課後。日はすっかり傾き、空は夕方から夜へと移ろうとしていた。

 部活をやっている生徒達も帰り支度をして、パラパラと帰宅の途についている。

そんな中俺も、げんなりした顔で校門を出た。

しかし俺は帰宅部なので、部活のせいで学校を出るのが遅くなった訳やない。

この前の中間テストでたっぷり赤点を取ってしまったので、その補習の為に居残りをさせられていたのや。

 はぁ・・・・・・今日は色んな意味で疲れた。さっさと家に帰って寝よ。

 そう思いながら校門を出た時、二十メートルほど離れた前方に、守菜ちゃんが一人で歩いているのを見つけた。

ちなみに守菜ちゃんがこんな時間に学校から帰るのは、補習のせいやなくて、部活の為や。

それも空手部。

守菜ちゃんは中学の時から空手を始め、その時は府の大会で結構いい所までいったらしい。

今や(というか元々)俺なんかよりはるかに強い女の子に成長した訳や。

ああ、それに引き換え俺は、どんどん守菜ちゃんに置いていかれてるなあ・・・・・・・・。

そう考えたら、前を歩く守菜ちゃんに声を掛ける事が出来へんくなった。

声を掛けたら、また怒られそうやし。

でもそういえば、中学に上がった辺りから、俺から守菜ちゃんに声を掛ける事は殆どなくなった気がする。まあそういう訳で、俺は守菜ちゃんから少し距離をおいて歩く事にした。

薄暗い道で女の子の後をつけるなんて、まるでストーカーみたいやけど、帰る方向が一緒なんやから仕方がない。

それに、近寄って声をかける勇気もないしな。うん。

 などと自分に言い訳しながら歩いていると、やがて大きい川の堤防に差し掛かった。

この先にある橋を渡って少し行くと、俺や守菜ちゃんが住んでいる住宅街があるので、学校への通学では毎日ここを通る。

夕方ごろは、河川敷で遊ぶ子供や堤防を散歩するお年寄りなんかが居るんやけど、殆ど日が落ちた今は、その人達もすっかり居なくなっている。

今この堤防を歩いているのは、俺と守菜ちゃんの二人だけ。

まるで、夜の堤防で二人でデートしてるみたいや。

・・・・・・まあ、俺なんかとは絶対してくれへんやろうけど。

 そう思って頭をかいた、その時やった。

前を歩いていた守菜ちゃんが、やにわに立ち止まって言った。

 「何ですか?あなたは」

 それを見て俺もその場に立ち止まる。

どうやら守菜ちゃんの前に、何者かが立ちはだかったみたいや。

一体誰や?と思って目をこらすと、暗くてかなり見えにくいけど、その人物は守菜ちゃんよりも少し背の高い、中年男のようやった。

そしてどういう訳かは全く分からんけど、そのオッサンは黒の全身タイツを身に着けていた。

頭のてっぺんから足のつま先まで、全身黒タイツ。

テレビのお笑い番組ではたまに見るけど、堤防の上であの格好をしてる人は初めて見る。

その黒タイツのオッサンは、ニタァッといやらしい笑みを浮かべ、守菜ちゃんにこう言った。

 「君に用があるんだよ」

 「私はありません。だからそこをどいてください」

 キッパリと守菜ちゃんは言った。

しかしそんな事で素直に従うオッサンではなかった。

 「そういう訳にはいかないよ。君はこの私と一緒に来てもらわないといけないからね」

 あのオッサン、守菜ちゃんを誘拐する気か⁉

そして連れて行った先で、イカガワシイ事をするつもりとちゃうやろうな⁉

うおお!興奮してきた!

じゃなくて、怒りがこみ上げてきた!

このままやと守菜ちゃんが、あの変態オヤジにさらわれてしまう!

と、思ったその時!

 「あいにくウチは、あんたみたいにヤバそうな人について行く趣味はないねん」

 と言うと同時に、守菜ちゃんはオッサンのアゴを右足で思いっきり蹴り上げた!

 「ぐはぁっ⁉」

 守菜ちゃんの蹴りが見事に決まり、首が抜けるんやないかと思う程、オッサンの顔が真上に跳ね上がった!すると守菜ちゃんは更に、

 「うぉりゃあっ!」

 という凄まじい気合とともに、ほぼ真上まで振り上げた右足のかかとを、天を仰いだオッサンの顔面に炸裂させた!

 「ぶべはぁっ⁉」

 必殺のかかと落としをまともに顔面に喰らったオッサンは、そのまま崩れ落ちるように地面に倒れ込んだ!

その間わずか二秒足らず。

 「す、すげぇ・・・・・・」

 俺は思わず呟いた。

まさか守菜ちゃんがあそこまで強くなっていたとは。

これやと俺の出る幕がないやないか。

出たところで全く役には立たへんかったやろうけど。

そんな俺をよそに、守菜ちゃんは「ふぅっ」と深く息をつき、倒れたオッサンを尻目に、そのまま立ち去ろうとした。

ところが、その時やった。

 「なぁんちゃって♪」

 至って陽気な声を上げて、オッサンは立ち上がった。

しかも、何処にもダメージはないかのように、体はピンピンしている!

 「なっ⁉」

 これには守菜ちゃんも驚いたようで、慌てて後ろに飛びのいた。

一体どういう事やろうか?

守菜ちゃんのさっきの蹴りは、完全にオッサンの顔面に炸裂していて、そのダメージは相当なものやったはず。

それやのにあのオッサンは、ヤセ我慢をしているとかではなく、ホンマに何事もなかったかのようにケロッとしている。

あのオッサンには神経が通ってないんやろうか?

それとも、人並み外れた打たれ強い体をしているんやろうか?

 そんな事を考えていると、守菜ちゃんは、

 「このっ!」

 と声をあげ、今度は右の拳を振り上げてオッサンに突進し、そのみぞおち(・・・・)に、強烈なストレートパンチをお見舞いした!

ドフゥッ!と、ここまで音が聞こえるほどに、守菜ちゃんのパンチがオッサンのみぞおちにめりこんだ!

が、しかし!

 「効かないねぇ♪」

 オッサンは余裕の笑みを浮かべてそう言った。

これはもはや、守菜ちゃんが非力やからとかいう話ではなく、オッサンが異常なまでに打たれ強いとしか考えられへん。

あのオッサン、ホンマに人間か?

するとオッサンは、自分のみぞおちにめりこんだ守菜ちゃんの右腕を掴み、それを後ろ手にしてひねり上げた!

 「きゃぁっ⁉」

 かなり強い力でひねり上げられたらしく、守菜ちゃんは苦痛に顔を歪めた!

そんな守菜ちゃんの耳元で、オッサンはささやくように言った。

 「残念だけど、人間である君に、この私は倒せないよ。だから諦めて、この私と一緒に来るんだ♪」

 あかん!このままではホンマに、守菜ちゃんはあのオッサンにさらわれる!

そう思った俺は、思わず声を上げた!

 「ま、待てぇっ!」

 そして守菜ちゃんとオッサンの元に走り出した。

 「鏡助⁉」

 「んん?何だ君は?」

 俺の姿を見た守菜ちゃんが驚きの声を上げ、オッサンは目を丸くして言った。

そのオッサンに対し、俺は腹の底から叫んだ。

 「その子を、放せ!」

 「嫌だね♪」

 オッサンはニタァッと笑って即答し、こう続けた。

 「私の目的はこの子をさらう事だけど、それを邪魔するというなら、容赦はしないよ♪」

 口振りは至って陽気やけど、その言葉からは確かな殺気が感じ取れた。

そして不覚にも俺は、その言葉にビビッてしまった。

 「逃げろ鏡助!あんたではこのオッサンに勝たれへん!」

 守菜ちゃんは俺に叫んだ。

確かに、守菜ちゃんですら歯が立たへんかったこのオッサンを、俺がどうこうするなんて不可能や。

でもここで俺が逃げてしもうたら、十年前に野良犬に襲われたあの時の、二の舞になってしまうやないか。

あの時の俺は、野良犬に怯える守菜ちゃんを置いて、一人で一目散に逃げてしもうた。

もしこの場で俺が同じ様に逃げてしもうたら、俺はこれから守菜ちゃんとまともに顔を合わされへん。

しかもこのオッサンは守菜ちゃんを何処かに連れ去ろうとしている。

例え俺がこのオッサンに全く歯が立たんとしても、それだけは阻止せんとあかんのや!

 そう考えた、その時やった。

 「そこまでです!」

 という声が背後から聞こえたかと思うと、一人の人物が俺を追い抜き、オッサンに飛び掛った。

そしてよく見ると、その人物とは今日ウチのクラスに転校してきた、あの室戸エリックやった。

どうしてあいつがここに?

と考える間もなく、室戸はオッサンの目をめがけて、握っていた右拳をバッと開いた。

するとそこから粉のような物が舞い散り、オッサンの目にそれがしこたま入った。

 「うがぁっ⁉」

 余程それが痛かったのか、オッサンは守菜ちゃんの手を放し、両手で目元を覆った。

そんな悶え苦しむオッサンに対し、室戸は静かな口調で言った。

 「いくら肉体が強靭(きょうじん)でも、やはり眼球までは鍛えられなかったようですね」

 「き、貴様ぁっ!こんな事をして、ただで済むと思うなよっ!」

 オッサンは全く余裕のなくなった口調でそう叫ぶと、(きびす)を返してそそくさと走り去っていった。

何か、予想外にあっけなかったけど、まあとにかく、危険は去ったみたいや。

ていうか俺、結局何もしてないんやけど。

すると、ホッとして気が抜けたのか、守菜ちゃんはその場にペタンと座り込んだ。

そんな守菜ちゃんの傍らに室戸の奴が歩み寄り、手を差し伸べて言った。

 「お怪我はありませんか?」

 「あ、うん、ありがとう・・・・・・」

 守菜ちゃんはそう言って室戸の差し出した右手を握り、ゆっくりと立ち上がった。

気のせいか、その頬がほのかに赤らんでいる様な気がする。

そして室戸の顔をジッと見詰める守菜ちゃん。

今、守菜ちゃんの胸の内はどうなっているんやろうか?

まさか、危ないところを助けてくれた室戸に、胸をときめかせてるんとちゃうやろうな?

おいおいちょっと待ってぇな。

そもそも最初に守菜ちゃんを助けようとしたのは俺の方やで?

それを室戸が横からしゃしゃり出てきてやな、俺の見せ場を持って行ったんとちゃうんか?

そりゃまあ、あの状況を俺がどうにか出来たんかと聞かれると、それはまあ、無理なんやけど・・・・・・。

 とか考えている間に、守菜ちゃんと室戸は、何やらええ雰囲気で見詰め合っていた。

何なのこの雰囲気?

もしかして今の俺、ごっついお邪魔虫?

さっさとこの場から退散した方がええの?

一応主人公やのに?

と、果てしなく悲しい気持ちになってきた、その時やった。

 「あーっ⁉」

 と、守菜ちゃんが室戸を指差し、とてつもなくでっかい声を上げた。

そのあまりの声のでかさに驚いた俺やったけど、守菜ちゃんの方はもっと驚いた顔をしていた。

一方の室戸は相変わらず爽やかな笑みを浮かべている。

そんな室戸に守菜ちゃんは、

 「思い出した・・・・・・」

 と呟き、再び声を大にしてこう続けた。

 「室戸君って、あの時ウチを野良犬から助けてくれた、あの人やったんやね⁉」

 あの時?野良犬?助けた?

 守菜ちゃんの言わんとする事がすぐにピンとこなかった俺は、頭上に『?』マークを浮かべたが、室戸が、

 「はい、その通りです」

 と頷いた瞬間、その『?』マークが消え去り、俺も、

 「あーっ⁉」

と、とてつもなくでっけぇ声を上げた。

 そう、この室戸エリックという男は、十年前に野良犬に襲われた守菜ちゃんを助けた、あの人物やったのや。

俺はその人物の顔を(先に逃げた為に)知らんかったんやけど、守菜ちゃんの記憶の片隅にはちゃんと残っていた。

そしてさっき、十年前と同じ様に室戸に助けられた事により、その時の記憶が鮮明に(よみがえ)ったんや。

つまりこれは、運命の再会という事になるのやろうか?

マジですか?

この先この二人は、どうなるの?



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