3 怪しいイケメン転校生
学校に辿り着いて自分の教室に入ると、クラスの女子達が、何やら色めき立った表情で盛り上がっていた。
それを他の男子達は、面白くなさそうに眺めている。
一体どうしたというのやろうか?
自分の席に座り、近くに居た女子グループの会話に、それとなく聞き耳を立ててみた。
すると、こんなやりとりが聞こえてきた。
「何でも、すっごいカッコイイ人らしいで?」
「外国人とのハーフなんやろ?絶対イケメンやわ~」
「隣のクラスの子、もう見た子も居るらしいで?ホンマにメチャクチャイケメンやったって!」
「いや~ん、早く見たい~」
スッゴイカッコイイ?外人とのハーフ?イケメン?早く見たい?
はて?一体何やろう?
このやりとりから察するに、どこぞの超イケメンのハーフの男が、このクラスにやって来るという事らしいけど、転校生か?
とか考えていると、クラスメイトの山沢貴夫君(俺に『ザメ男』のあだ名をつけた人物)が、俺の傍らに歩み寄って来て言った。
「キャーキャーアホみたいに騒ぎおってからに。イケメン男が何やっちゅうねん」
「転校生でも来るの?」
俺がそう訊くと、山沢君は頭をかきながら答えた。
「今日ウチのクラスに転校生が来るんだと。そしてそいつはハーフでイケメンで、おまけに成績優秀で家は大層な金持ちなんやと。ケッ!って感じやでマッタク!」
「な、なるほど・・・・・・」
それで女子達はあんなに浮かれて、男子達はイライラしてるのか。
すると山沢君は俺の肩にポンと手を置き、一転して優しい口調で言った。
「それに引き換え、お前はホンマに親しみの持てる奴やなぁ」
「それって、あんまり誉めてないよね・・・・・・」
などというやりとりをしていると、
「全員席に着けー」
と言いながら、担任の広畑健二先生(三十五歳)が教室に入ってきて、教壇に立った。
それを見た生徒達はそれぞれの席に戻り、全員が着席したところで、広畑先生は再び口を開いた。
「えー、もう知っている者も居ると思うが、今日ウチのクラスに、転校生が来る事になった」
その言葉に女子達がにわかにざわつき、男子達は眉間にシワを寄せた(俺も含めて)。
一方広畑先生はそんな事に構わず、
「じゃあ入ってきなさい」
と、教室の出入り口の方に向かって呼びかけた。
するとその直後に、「はい」という行儀のいい返事とともに、一人の男子生徒が入ってきた。
そしてそれを見た女子生徒達が、口々に声を上げる。
「いや~ん!ホンマにイケメンや~♡」
「メッチャ私のタイプ!」
「素敵っ!こっち向いて!」
大はしゃぎの女子軍団。
確かにその男子生徒は、女子達が大はしゃぎするほどにイケメンやった。
ハーフのせいか髪は銀髪で(白髪にも見えるけど)、目元は涼しげな二重まぶた。
口からのぞく歯は真っ白で並びがよく、背は高くて細身で足が長い。
マッタクもっていかにも女子にモテそうな奴や(そして男子には嫌われそうな奴や)。
そのイケメン転校生が、軽くお辞儀をして口を開いた。
「今日からこのクラスに転入する事になった、室戸エリックです。どうぞよろしく」
すると女子達から、
「キャーッ!」
という黄色い声が上がった。
君らは韓国スターを目の前にした時のおばちゃんか。
ちょっとイケメンの男子が転校してきたからって、そないに大騒ぎせんでもええと思うんやけど。
まあ、ウチのクラスにそれ程のイケメンが居れへんというのも事実やけども。
ちなみに、このクラスにはあの守菜ちゃんも居るんやけど、その守菜ちゃんは、他の女子達みたいにキャーキャーとは言うてなかったのでちょっと安心した。
するとそんな中、広畑先生は事も無げに言った。
「それじゃあ室戸君は、心野の隣の席に座ってくれるかな?」
「え⁉」
先生のその言葉に、思わず俺は声を上げた。
心野って俺の事やないか。
つまりあのイケメン転校生が、俺の隣の席に座るという事かっ!
そんなん絶対嫌や!
あんなイケメン野朗が俺の隣に座ったら、ただでさえダメ男な俺が、ますますダメ男に見えてしまうやないか!
俺はあいつの引き立て役になるのは嫌や!
と、心の中で激しく抗議していると、いつの間にやら俺の近くまでやって来ていたイケメン転校生の室戸が、
「室戸エリックです。よろしく」
と、爽やかな笑みを浮かべながら、俺に握手の手を差し伸べてきた。
「あ、よ、よろしく。えと、心野鏡助です」
ぎこちなく挨拶を返し、握手を交わす俺。
何かもう、この時点で人としてかなり負けている気がする。
と、その時、俺は室戸が違う方向に、一瞬チラッと視線を移した事に気が付いた。
その後室戸はすぐに視線を戻して席に着いたけど、それが気になった俺は、さりげなく彼が見やった方向を見た。
するとそこに、守菜ちゃんの姿があった。
こいつはさっき、守菜ちゃんの事を見たんやろうか?
それともたまたまそっちを見ただけなんか?
まあ、そんな事を深く考えてもしょうがないんやけど。
それよりも、俺はまた違う意味で、嫌な予感がしていた。
この室戸という男は、俺に良からぬ不幸をもたらすんとちゃうか?
根拠はないけど、俺はそう思えてしゃあないのやった。