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闘え!ひょっとこ仮面!  作者: 椎家 友妻
第五話 闘え!ひょっとこ仮面!
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6 ワルダーの過去

全く何もなかった一階とは違い、二階にはビッシリと怪しい機材が置かれていた。

様々な色のランプが点滅を繰り返す巨大なコンピューターに、よく分からないメーターが沢山付いた箱型の機械。

天井や床にはおびただしい数の電線やパイプがはいずり回り、まさに悪の科学者のアジトというような空間やった。

そしてその部屋の中央に、物々しい機械に囲まれたカプセルがあり、その傍らに、白髪で白衣を着たオッサンが立っていた。

恐らくあのオッサンが、今回の騒動(そうどう)の黒幕の、プロフェッサーワルダー!

そう確信した俺は、こっちに背を向けているオッサンに向かって怒鳴った。

 「うぉおらぁあっ!お前かぁっ!プロフェッサーワルダーっちゅうのは!」

 「んん?」

 俺の声を聞き、こちらに振り向くワルダー。

その顔つきは陰険(いんけん)で悪どく、ザ・悪の科学者にピッタリな人相やった。

そのワルダーは俺の顔を見て、いささか驚いた表情で言った。

 「何と?侵入者は貴様(きさま)だったのか?馬鹿な、貴様はレラがしとめたはず」

 「確かに殺されかけたけど、また復活したんや!ちなみにそのレラはさっき一階でやっつけて来た!」

 「何だと⁉おのれひょっとこ仮面!貴様一体どれだけこの私の邪魔をすれば気が済むのだ⁉」 

そう言ってワルダーは俺の隣に立つエリックに視線を移し、こう続けた。

 「それもこれも全てお前のせいだエリック!お前が十年前に私を裏切らなければ、こんな事にはならなかったのだ!もっと早くに地球を滅ぼす事も出来たのだ!」

 するとエリックも、声を荒げて言い返す。

 「僕があなたを裏切ったのは、あなたが明らかに間違った事をしようとしていたからです!どうしてあなたはこの地球を滅ぼそうとするのですか⁉その理由を教えてください!」

 「そうか教えて欲しいか!どうして私がこの地球を滅ぼそうとするのか!ならば教えてやろう!」

 ワルダーは声高らかにそう言ったが、すかさず俺が口を挟んだ。

 「そんなんどーでもえーから、さっさと守菜ちゃんを返せ!」

 「なぁっ⁉き、貴様!私が今から悲劇に満ちた過去の話を話してやろうとしているのに、何だその態度は⁉最近の若者は年上の人間の話を全然聞こうとしない!マッタクけしからん!」

 「そんなモンはいつの時代も一緒やろ!とにかくお前の昔話なんぞ聞きたくもないから、さっさと守菜ちゃんを返せ!」

 「貴様!私の過去の話を聞きたくないのか⁉」

 「聞きたくない!」

 「ならば聞かせてやろう!」

 「何でやねん⁉ワシ今ハッキリと聞きたくないって言うたやろ⁉」

 「頼むから聞いてくれ!お願いします!」

「どんだけ聞いて欲しいねん⁉」

 俺がそう言って呆れていると、エリックが神妙な顔つきで俺に言った。

 「ひょっとこ仮面、ここはどうか、ワルダー博士の話を聞いてあげてください。僕も、自分を生み出してくれた人がどうして地球を滅ぼそうとするのか、ちゃんと理由を聞いておきたいんです」

 「そ、そうかぁ?どうせ大した理由はないと思うけど・・・・・・」

そう言って俺は首をかしげたが、エリックが珍しく真剣に言うので、(うなず)いてからワルダーにこう言った。

 「まあ、エリックがそこまで言うなら聞いたるわ。お前が何でそんなに地球を滅ぼしたいのかを」

 するとワルダー。

 「そこまで聞きたいと言うのなら聞かせてやろう!ありがたく思うんだな!」

 こいつホンマにうっとうしいわぁ。

そんな中ワルダーは語り出した。

 「あれは今から二十年前。私が(ぼう)大学の研究室で教授をしていた頃。私は、ある女性と交際していた」

 「あんたみたいな人間でも、交際してくれる女性が()ったんやな」

 「彼女の名前は『マナミ』。赤や紫のボディコン姿が良く似合う、清楚(せいそ)な女性だった」

 「赤や紫のボディコンを着る女性を、清楚と表現してええのんか?」

 「彼女はいつも忙しい人でな。私が彼女と会う時は、いつも彼女の仕事場でだった」

 「彼女が勤める会社とか?」

 「キャバクラだ」

 「キャバクラかい⁉じゃあその人はキャバクラ(じょう)やろ!」

 「私とマナミは愛し合っていたのだ」

 「ホンマかオイ⁉たちまち(うそ)くさくなってきたぞ⁉」

 「私は毎日マナミに会う為、そのキャバクラに通った」

 「客としてやろ!」

 「違う!恋人としてだ!」

 「ホンマか⁉全然信用出来んのやけど⁉」

 「私はマナミに会う為なら、一日辺り二万円以上の出費もいとわなかった」

 「やっぱり客やないかい!しかも結構なカモや!」

 「馬鹿な事を言うな!私がマナミに会いに行くと、マナミはいつも喜んでくれたぞ!」

 「それは仕事やからや!」

 「私と楽しくお(しゃべ)りしてくれたし、事あるごとに『室戸さんてステキね♡』『室戸さんてカッコイイ♡』とも言ってくれた!」

 「それも仕事や!」

 「私の様なダンディーな男には高級なお酒が似合うと、その店で一番高い酒まで注文してくれたんだ!」

 「どんだけカモにされれば気が済むねん⁉」

 「これを愛と呼ばずして何と呼ぶ⁉」

 「仕事じゃあっ!完全に仕事やろ!」

 「ところがそんなある日、悲劇は起こった」

 「そこに行くまでが(すで)に悲劇やと思うんやけど」

 「マナミとの愛がいよいよ深まってきたと実感した私は、思い切って彼女にプロポーズする事を決めた」

 「それは確かに悲劇やな」

 「これ自体は悲劇ではない!悲劇はもっと先だ!マナミにプロポーズする事を決心した私は、宝石店で彼女の薬指に合う六十万円の指輪を買った」

 「そんなに高いモンを()うたんか⁉それは悲劇や!」

 「話を最後まで聞け!悲劇はこの後だ!」

 「何やねんな?」

 「私は六十万円の指輪を買い、彼女にプロポーズする為、いつものように店に向かった。ところが店に行くと、非番(ひばん)でもないのに彼女は店に居なかった。嫌な予感がした私は、他の女の子に『マナミちゃんはどうしたの?』と訊ねた。すると何とマナミは、男をつくって店を辞めたと言うではないか」

 「まあ、よくある話やわな」

 「それを聞いた私は愕然(がくぜん)とした。『マナミは私と愛し合っていたはずなのに何故?』と、頭の中で何度も繰り返した」

 「結論を言うと、マナミさんはあんたと愛し合ってなかったんやろ?」

 「違う!マナミはその男に(だま)されたのだ!きっとその男は毎日足しげく店に通い、マナミの気を引こうと金やプレゼントを散々(みつ)いだのだ!」

 「そりゃあんたやろ!」

 「結果的にマナミは私の前から姿を消した」

 「まあでも、その方があんたにとっては良かったんとちゃうの?」

 「だから私はその時、固く心に誓ったのだ」

 「もうキャバクラ遊びは控えようって?」

 「いや、地球を滅ぼそうと」

 「うぉおおいっ⁉そこで決心したんかい⁉何でやねん⁉どう考えてもおかしいやろ⁉」

 「マナミと結ばれないくらいなら、地球など滅びた方がマシだ」

 「そんな事ないやろ⁉失恋して自殺したくなるならまだ分かるけど、何で地球を滅ぼそうとか思うねん⁉」

 「こんな星で生きていてもしょうがないではないか」

 「じゃあお前一人で死ねや!俺らを巻き込むなバカタレ!」

 「勝手な事を言うな!」

 「こっちのセリフやろ!」

 「『和を(もっ)(とおと)しと()す』という(ことわざ)があるだろう!あれは『和の心を持って皆仲良くしなさい。そして一人が死にたいと思った時は、皆で仲良く死になさい』という意味だ!」

 「全然違うわボケ!だあああっ!やっぱり聞くんやなかった!おいエリック!お前もそう思うやろ⁉」

 俺は頭をかきむしりながら、(かたわ)らのエリックに言った。

それに対するエリックのコメントはこうやった。

 「ワルダー博士が地球を滅ぼしたくなった気持ち、よく分かりました」

 「何で分かるねん⁉まさかこの()に及んでワルダーに寝返るとか言うんか⁉」

 「いえ、そうではないです。いくら博士に悲しい過去があったとはいえ、地球を滅ぼす事はよくないと思います」

 「そうやろ!そういう事ならチャッチャとあのオッサンを倒して、早く守菜ちゃんを助けるぞ!」

 そう叫んだ俺はワルダーを指差し、改めてこう言った。

 「やいワルダー!お前のアホ話はもう沢山や!さっさとお前を倒して、守菜ちゃんを返してもらうからな!」

 するとワルダーはやにわに腹を抱え、

 「クァーックァックァ!」

 と高笑いを始めた。

 「何や?何がそんなにおかしいねん⁉」

 問いかける俺に、ワルダーは愉快でしょうがないという様子で答えた。

 「クァーッ!この娘を助ける事は不可能だ。何故ならたった今、完成した(・・・・)からな!」

 ワルダーはそう言って、カプセルを囲む機械についていたボタンをポチッと押した。

するとカプセルの上半分がウィ~ンと音を立てて開き、中から一人の人物が身を起こした。

 ちなみにその人物とは、守菜ちゃんやった。



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