2 目が、覚めた
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「──────ん・・・・・・」
目を開けるとそこに、木造の天井と、丸型の蛍光灯があった。
長い事眠っていたせいか視界がぼやけ、頭の中もぼんやりしている。
そもそもここは何処なのやろう?
今俺の目に映るあの天井は、俺の部屋のそれではない。
というか、俺は何で眠ってたんや?
確か俺はいつものように家を出て、いつものように学校に行って、そんでいつものように学校で授業を受けて昼飯を食って、そんで、えーと・・・・・・。
「あいつに殺されたんや!」
俺は叫び声を上げて上半身を起こした!
思い出した!
俺は昼休みに学校の屋上で、あの黒ドレスのレラとかいう人造怪人に脇腹を刺されたんや!
そんで守菜ちゃんを連れ去られて、俺はそのまま意識を失った!
そして俺は命を落とした・・・・・・。
いや、命を落としたのなら、何で俺はまた目を覚ましたんや?
おもむろに刺された脇腹に目をやる。
俺はいつの間にか白いワイシャツに青いジャージの格好になっていて、そのワイシャツをめくってみると、傷ひとつついていない俺の脇腹が現れた。
おや?これはどういう事や?
俺はあの時確かに、黒ドレスのレラに脇腹をグサッと刺された。
心臓こそ外れたものの、その時の出血はハンパやなくて、放っておいてもすぐに死んでしまう状態やった。
それやのに傷ひとつついていないというのはどういう事なんや?
まさか俺はもうホンマに死んでいて、ここはあの世って事かいな?
キョロキョロと周りを見回してみる。
ここは六畳一間の和室で、勉強机と収納棚が部屋の端に置かれている。
まるで学生が一人暮らしをしてそうな部屋やけど、あの世の入口っちゅうのは、こんなモンなんやろうか?
と、首をかしげていた、その時やった。
「あ、やっと目が覚めましたか」
という声とともに部屋のふすまが開き、そこからエリックが現れた。
何でここにエリックが居るんや?
俺はとりあえず、ぼんやりした口調でエリックに訊ねた。
「お前もあの、黒ドレスのレラに殺されたんか?」
するとエリックは、爽やかな笑みを浮かべながらこう答えた。
「僕はまだ生きてますよ。勿論、鏡助君もね」
「何でや?俺はあの女に脇腹を刺されて、死んだんとちゃうんか?」
「確かに鏡助君はあの時左の脇腹を刺され、大量の血を流しました。にもかかわらず、鏡助君はまだ生きている(・・・・・・・・・・・)んです。そして傷ひとつ残っていない(・・・・・・・・・・)。何故だか分かりますか?」
「全く分かれへん」
「実はですね、コレ(・・)のおかげなんです」
そう言うとエリックは、ある物を俺に差し出した。そしてそれを受け取った俺は、呟く様に言った。
「変身腹巻き(・・・・・)。これのおかげやと言うんか?」
「そうです。実はこの変身腹巻きには傷を治す力が備わっていてですね、身に着けた人が命にかかわるような重症を負ってしまった場合、その傷を凄い早さで治してくれるんです。だから鏡助君のその傷も、その変身腹巻きが治してくれたんですよ。尤も、心臓を刺されていれば即座に死んでいましたけどね」
「そ、そうやったんか。じゃあ俺は、この変身腹巻きに命を救われたという訳やな」
「正確に言うと、この変身腹巻きを開発した僕に助けられたんですけどね」
「恩着せがましいやっちゃな。ていうかお前は俺と守菜ちゃんが襲われた時、何ですぐ助けに来んかったんや?お前もあの場に居ったんやろ?」
「いや~それが、鏡助君があの人造怪人とお弁当を食べ始めた時、小中さんが怒りのあまりに隣に居た僕の首を絞め始めたので、それを振り払って一時的に教室に退散していたんですよ」
「まあ確かにあの時の守菜ちゃんの怒り方は尋常やなかったからな・・・・・・そういえば守菜ちゃん!守菜ちゃんがさらわれてしもうたんや!」
「恐らく今頃ワルダーの研究所で、人体改造をされているでしょね」
「えらいこっちゃ!すぐに助けに行かんと!ああっ!そやけど敵のアジトが何処にあるのか分からん!そもそもここは何処やねん⁉」
「ここは僕が住んでいるアパートです。六畳のこの部屋と台所とトイレがあって、お風呂は近所の銭湯を利用しています」
「んなこたどーでもえーねん!それより敵のアジト!アジトは何処や⁉」
「ミリンやお醤油の棚に一緒に入っています」
「それはアジの○トや!俺が言うてんのはアジト!」
「勝ってアジトの緒を締めよ」
「カブトや!」
「アジトキリギリス」
「んぁリとキリギリスぅっ!」
「アジガトウ、ハマ○ラジュンです」
「アリガトウハマム○ジュンじゃあっ!うぉおいっ!この非常時に何しょうもないボケをかぶせてきとんねん⁉真面目にせんとイテコマすぞホンマに!」
「お、落ち着いてください、確かに小中さんがさらわれてイラつく気持ちはわかります」
「今俺がイラついてんのは全部お前のせいじゃ!」
「とにかく落ち着いて。敵のアジトの場所は、もう分かっていますから」
「分かってんのかい⁉よく分かったな⁉」
「小中さんのセーラー服の襟の裏に、こっそり発信機を仕込んでおいたんですよ」
「それを早く言わんかい!それで、そのアジトは何処にあるんや⁉」
「大阪府の隣、奈良県の山中に」
「奈良県⁉結構遠いな!どうやって行くんや?」
「ひょっとこ号を使えばすぐに着きますよ」
「また変な名前のモンが出た。何やねんそのひょっとこ号ちゅうやつは?」
「ヘッドライトの下にひょっとこのお面が付いた、ひょっとこ仮面専用のスクーターです」
「ひょっとこのお面要らんやん⁉普通のスクーターでええやん⁉」
「ひょっとこのお面がないと、ひょっとこ仮面の乗り物にならないじゃないですか。鏡助君はひょっとこ仮面に変身して、ひょっとこ号に乗って敵のアジトに向かってください」
「変身した状態でひょっとこ号に乗るの⁉それは恥ずかしすぎるやろ!」
「どうしてです?仮面○イダーだって、自分専用のバイクに乗るじゃないですか」
「あれはバイクもカッコイイからええけど、ひょっとこ号はきっとダサいやろ!」
「そう言われても、ひょっとこ仮面の状態でひょっとこ号に乗らないと、大爆発を起こす設定にしましたので・・・・・・」
「だから何でお前はいちいちそんな余計な設定を施すねん⁉」
「とにかく鏡助君はひょっとこ仮面に変身して、ひょっとこ号に乗ってアジトに向かってください!」
「分かったわい!ひょっとこ号に乗るがな!じゃあお前は俺の後ろに乗るんやな⁉」
「いえ、僕はタクシーに乗って行きます」
「どついたろうか⁉それやったら俺もタクシーで行くわいな!」
「そんな事言うならこの前おごった二百五十円を返してくださいよ!」
「いつまでそれをムシ返すねん⁉もうええわ!ひょっとこ号に一人で乗って行くわ!」
「それでは小中さんを助けに行きましょう!」
「ああもうどうにでもなれ!」