2 疑われる鏡助
「はぁ~・・・・・・」
黒タイツのオッサンを倒した次の日の朝。
俺は魂が抜けそうな程の深い溜息をつきながら、学校へ向かっていた。
昨日はホンマにひどい目に遭った。
ひょっとこ仮面に変身して、守菜ちゃんをさらおうとする黒タイツのオッサンを倒したところまでは良かったんやけど、その後に守菜ちゃんが現れて、しかもその守菜ちゃんに思いっきり誤解されて、俺は彼女に力一杯木刀でシバかれた。
幸いひょっとこ仮面のお面が予想以上に頑丈やったから、頭が割れる事はなかったけど、それでも額には大きなたんこぶが出来てしまい、それが朝になってもズキズキと痛い。
一応俺がひょっとこ仮面という事はバレずにすんだけど、俺は守菜ちゃんに、鏡助としてもひょっとこ仮面としても、嫌われてしもうたのやった。
ああ、俺の人生って一体・・・・・・。
「はぁ~・・・・・・」
と、再び深い溜息をついた、その時やった。
「おっはよっ!」
という声とともに、守菜ちゃんが俺の背中をバシコォン!と叩いた。
「ふぐぅっ⁉す、守菜ちゃん?おはよう・・・・・・」
背中の痛みに顔をひきつらせながらそう返すと、守菜ちゃんは呆れたような表情で言った。
「何か、今日のアンタは一段と情けない顔をしてるなぁ。嫌な事でもあったん?」
「あ、あはは、別に・・・・・・」
昨日あなたに木刀でシバかれましたとは言えんので、俺はとりあえず笑って誤魔化した。
すると守菜ちゃんは、
「あれ?そのオデコ、どうしたんよ?」
と言って、俺の額を指差した。
どうやらそこに出来たコブに気づいたようや。
俺は苦笑いを浮かべながら言った。
「えーと、これは、ちょっと電柱にぶつかって・・・・・・」
「電柱?ホンマに?もしかして、誰かにイジメられたんとちゃうの?」
強いて言うなら、あなたにイジメられました。
と心の中で訴えていると、守菜ちゃんはこう続けた。
「アンタは昔っからようイジメられとったからなぁ。たまにはガツンとやり返したったらええねん」
ちなみに一番俺の事をイジメたのは、守菜ちゃんなんやけどなぁ・・・・・・。
「ん?何か言うた?」
「あ、いや、何でもないです。ハイ」
「そう?あ、そういえばウチ、昨日もあの変なオッチャンにさらわれそうになってん」
「えっ⁉」
守菜ちゃんの言葉に俺はドキッとしたが、何とか平静を保って訊ねた。
「あ、あのオッチャンって、おととい守菜ちゃんをさらおうとした、黒タイツの男の事?」
「うん、ちなみに昨日はひょっとこの格好をしとったけど」
「へ、へぇ~、ひょっとこの格好を・・・・・・」
何か、背筋から嫌な汗が噴き出してきた・・・・・・。
「そ、それで、そのひょっとこ仮──────いや、ひょっとこのオッチャンはどうなったの?」
「素手で攻撃しても歯が立たへんみたいやったから、木刀で思いっきりデコをシバいた」
「あ、あはは、それやと流石にそのオッチャンも、ひとたまりもなかったやろうね・・・・・・」
「うん、一発で失神したわ。これでもうウチを襲う事はないと思う」
というか、最初からその人は、守菜ちゃんを襲うつもりはなかったんやけど・・・・・・。
「ん?何か言うた?」
「あ、いや、何でもないです、ハイ」
そう言って俺が明後日の方向に目を逸らした時、守菜ちゃんが、
「あれ?」
と、何かに気づいたような声を上げた。俺は目を逸らしたまま訊ねた。
「ど、どうしたの?」
すると守菜ちゃんは不思議そうな口調で言った。
「アンタのそのコブの位置、ウチが昨日ひょっとこのオッチャンのデコをシバいた所と、全く同じなような・・・・・・」
「ええぇっ⁉」
ズバリな事を言われ、思わず声を上げる俺。
そんな俺に守菜ちゃんは、ズイッと顔を近づけて続けた。
「それによく考えたら、昨日のひょっとこ男は、おとといの黒タイツのオッチャンとは声が全然違ったんや。どっちかって言うと、アンタに似てたような・・・・・・」
「あああああっ⁉おっふゎああああっ⁉」」
極めて危険な事実を暴かれそうになった俺はヤケクソでそう叫び、口から出任せにこう言った。
「そ、そういえば俺、今日は早く学校に行かんとあかんかってん!だから先に行くね!」
そして一目散に猛ダッシュをし、守菜ちゃんの元から逃げた。
幸い彼女はその後を追っかけては来んかったけど、この後学校でまた追及されるかもしれん。
これからしばらくは、守菜ちゃんを避けるようにしよう。
そう心に誓いながら、俺は学校に走った。