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闘え!ひょっとこ仮面!  作者: 椎家 友妻
第二話 課せられた使命
15/40

8 対決!黒タイツ!

 そんなこんなで俺とエリックは、昨日と同じ川の堤防へとやって来た。

勿論俺は元の制服姿に戻っている。

変身したままここまで来たら、途中でおまわりさんに捕まるやろうからな(エリックのアホは、変身したまま行きましょうって言いおったけど)。

 空は夕日で紅く染まり、夜が来るのを静かに待っている。

河川敷で遊んでいた子供達もポツポツと帰って行き、やがて周りにすっかり人気(ひとけ)がなくなった。

黒タイツのオッサンも、まだここには居ない。

そんな中俺は、隣に立つエリックに訊ねた。

 「おい、今日もあのオッサンは、ここに現れるんか?」

 「恐らくそうでしょう。この道は小中さんが毎日通る道ですし、今は殆ど人気(ひとけ)がない。誰にも気づかれずに彼女をさらうには、絶好の場所なんです」

 「出来る事なら守菜ちゃんがここに通りかかる前に、あのオッサンを片付けたいな」

 「何故です?小中さんに鏡助君の勇士を見てもらえばいいじゃないですか」

 「絶対嫌や!あんなひょっとこ姿、守菜ちゃんには絶対見られたくない!」

 「よく似合ってるのに」

 「やかましいわ!」

 などというやりとりをしていた、その時やった。

 「おや?昨日見た顔がふたつあるねぇ♪」

 という声とともに、十メートル程離れた前方に、黒タイツのオッサンが現れた。

そしてエリックを指差し、こう続けた。

 「昨日は油断して不覚を取ったけど、今日はそうはいかないよ♪」

 そう言ったオッサンの目元には、水泳用のゴーグルが装着されていた。

これで七味唐辛子を目に振りかける攻撃は、封じられたという訳か。

まあ、別にええけど。

するとエリックは、余裕の笑みを浮かべてこう返した。

 「それはどうでしょうか?むしろ今日は、あなたの命日になると思いますよ?」

 それに対してオッサンも、余裕の笑みで言い返す。

 「たわけた事を。確かに君は並みの人間よりも動きはいいようだけど、所詮は人間。この私を倒す事は不可能だよ♪」

 「それは百も承知です。だから今日は、こっちの彼があなたのお相手をします」

 俺の肩にポンと手を置き、エリックは言った。

するとそれを聞いたオッサンは、

 「キョーッキョッキョッキョ♪」

 という怪しすぎる笑い声を上げてこう続けた。

 「そっちの彼は、昨日私を恐れて何も出来なかったじゃないか。そんな彼がこの私の相手をするだって?キョーッキョッキョッキョ♪」

 あの笑い方、ウゼェ。

と心の底から思っていると、エリックは俺の肩に置いた手にグッと力を込めて言った。

 「笑っていられるのも今のうちです!さあ鏡助君!今すぐひょっとこ仮面に変身して、あの愚かな人造怪人に、鏡助君の本当の力を思い知らせてやるのです!」

 「はあ・・・・・・」

 エリックの熱い言葉に、気の抜けた返事をする俺。

正直、全く気が進まへん。

だって変身腹巻きはダサイし、変身の時のかけ声もダサイ。

おまけに変身後のカッコウもダサイ上に、これから戦う相手までもがダサイ。

俺の記憶では、ヒーローはもっとカッコよくて、小さい子供に憧れられるような存在やったはずやけど・・・・・。

 でも、まあ、これも守菜ちゃんを守る為や。

地球の危機とかは正直どうでもえけど、守菜ちゃんだけは何としても守らなあかん!

こうなったら、とことんやったるわい!

 覚悟を決めた俺は学ランのボタンを外し、腰に着けた腹巻きをはだけさせた(これを隠したままやと、変身出来へんらしい)。

そして腹の底から、思いっきり叫んだ。


 「ひょっとこ!トランスフォオオオオムッ!」


 「何ぃっ⁉」

 驚きの声を上げるオッサン。

そんな中、俺の変身腹巻きから光が放たれ、それが全身を包み込む。

そして足元が水色のサンダル、下半身が薄茶色のもんぺ、上半身が白のTシャツで、顔にはひょっとこのお面を着けた、ひょっとこ仮面に変身した。

やっぱり、泣きたくなるほどダサイ格好や。

 するとオッサンはそんな俺を見て、驚きを隠せない表情でこう叫んだ。

 「な、何だその姿は⁉」

 それに対し、エリックが自信満々の笑みで答える。

 「彼こそはこの地球を救う正義のヒーロー、ひょっとこ仮面です!」

 「ひょっとこ仮面だってぇっ⁉」

 エリックの言葉にオッサンは更に驚き、俺に向かってこう言った。

 「何てカッコイイコスチュームだ!」

 「何でやねん⁉これの何処がカッコイイねん⁉」

 俺はブチ切れたが、オッサンは熱い口調で続けた。

 「カッコよ過ぎる・・・・・・」

 「やめろ!誉めるな!余計に恥ずかしくなる!」

 「パリコレにでも出るつもりかい⁉」

 「出る訳ないやろ!こんなんで出られる場所いうたら、宴会くらいのモンじゃ!」

 「も、もしよければ、私のこの黒タイツと君のひょとこスーツを、交換してもらえないか?」

 「絶対嫌じゃ!このひょっとこの格好も大概嫌やけど、お前の全身黒タイツはもっと嫌じゃ!」

 「な、何だと⁉君は私のこの姿が、ダサカッコイイとでも言うのか⁉」

 「カッコイイを付けるな!ただひたすらにダサいねん!」

 「ムキョーウィ!」

 「何やねんその奇声は⁉」

 「私の黒タイツを馬鹿にする奴は、皆殺しだ!」

 「どんなキレ方やねん⁉」

 「問答無用!いくぞ!」

 オッサンはそう叫ぶと、右の拳を振り上げ、俺に襲い掛かってきた!

 「わ!わ!どうしよう⁉」

 いくら変身してパワーアップした(ホンマにしたんか?)とはいえ、元々が根性なしの俺は露骨にうろたえた。

すると背後に居たエリックが叫んだ。

 「ひょっとこ仮面!頭で考えてはいけません!心で感じるんです!」

 それは何かのカンフー映画で聞いたようなセリフやったけど、俺はその言葉通り、頭の中を空っぽにした。

すると不思議な事に、俺に殴りかかってくるおっさんの動きを、手にとるように感じる事が出来た。

 俺の目の前まで突進して来たオッサンは、その勢いで俺の顔(正確に言うとお面)目がけてストレートパンチを放った!

しかしその瞬間俺は、そのパンチをかわせると直感で悟った。

そしてそのパンチが俺のお面に当たる寸前で、オッサンのふところに潜り込むようにしてかわした!

すると目の前に、隙だらけのオッサンのみぞおち(・・・・)が見え、俺は考えるより早く、そのみぞおち目がけて右の拳を打ち込んだ!

 ドムゥッ!

 「んぐふぅっ⁉」

 カウンター気味の俺のストレートパンチが、オッサンのみぞおちに炸裂!

それと同時にオッサンは元居た場所まで吹っ飛び、仰向けになって倒れた!

 「す、(すげ)ぇ・・・・・・」

 自分でやっといて何やけど、そのあまりの威力に、俺は思わず呟いた。

すると背後に居たエリックが、得意げな口調で言った。

 「それがひょっとこ仮面の力なんです!」

 確かに、昨日守菜ちゃんが同じ様にオッサンにパンチを喰らわせた時は、全くと言っていいほど通用せんかった。

でも今、ひょっとこ仮面に変身した俺の攻撃は、確実にあのオッサンにダメージを与えた。

しかも、かなり大きなダメージを。

格好はダサいけど、これなら俺でも充分戦える!

格好はダサいけど。

 そう確信していると、向こうに吹っ飛ばされたオッサンが、

 「ゴホッ!ゴッホォッ!」

 と咳き込み、苦痛に顔を歪めながら立ち上がった。それを見ていささか気が大きくなった俺は、オッサンに向かって言った。

 「随分と苦しそうやな?さっきの余裕はどうしたんや?」

 うわぁ~、俺今メッチャ上から物言うてるわぁ~。

今まで上から見下されてばっかりやったから気持ちええわ~。

と、一人悦(えつ)()っていると、それが気に障ったのか、オッサンは殺意に満ちた表情で言った。

 「調子に乗るんじゃないよ!」

 そしておもむろに右手を手刀の形にして、再び叫んだ。

 「ソードチェンジ!」

 するとオッサンの右腕の肘から先が、剣の形に変形したやないか!

俺は咄嗟にエリックに訊ねた!

 「おいエリック!何やアレ⁉何かオッサンの右腕が剣に変形したぞ⁉」

 それに対してエリック。

 「どうやら奴は、両腕を自分のイメージした形に変えられる能力を持っているみたいですね」

 「何やてぇっ⁉それじゃあ断然こっちが不利になるやんけ!アレに対抗出来るような武器はないんか⁉」

 「あります!『ひょっとこブレード』が!」

 「またダサそうなアイテム名が出た!それで、そのひょっとこブレードとやらは何処から出せるんや⁉」

 「腹巻きの内ポケットから」

 「ここに入っとるんかい⁉妙な便利さが却ってイラつく!」

 「早く腹巻きの内ポケットから、ひょっとこブレードを取り出してください!」

 「言われんでも分かってる!」

 そう叫んだ俺は、腹巻きの中に手を入れ、その内ポケットに入っていた物を取り出した!

すると、内ポケットから出てきたそれは──────。


 待ち針やった。


 「くぉるぁああっ!何でこんな所に待ち針が入っとんねん⁉ちょっと危ないやろうが!」

 「それは戦闘中に、ズボンの裾上げをしなければならなくなった時の為に用意しました」

 「どんな状況やねんそれ⁉お前はヒーローが戦ってる時に、ズボンの裾上げをしてるところを見た事があるのんか⁉」

 「全くないです」

 「そうだろうよ!それよりひょっとこブレードはどれやねん⁉」

 「あ、その待ち針がそうですけど」

 「これがかい⁉小っさ!短っ!ショボッ!もっとコマシな武器作れやぁああっ!」

 「そんな事より、前を見てください!」

 エリックのアホがそう叫んだので前を見やると、しびれを切らしたオッサンが、剣に変形した右手を振り上げて斬りかかってきた!

俺は慌てた!

 「ど、ど、どうすんねん⁉こんな待ち針じゃあ、あんなデカイ剣にはとうてい対抗出来へんぞ⁉」

 「大丈夫です!ひょっとこブレードは、この世で最も硬い金属と言われる『カッチカチメタル』で作られた剣なので!」

 「剣やなくて針やろ⁉」

 「とにかくどんな刃物が相手でも絶対に折れたりしません!だから安心して戦ってください!」

 「安心出来るかぁっ!」

 そんな事を言い合ってる間に、オッサンが俺のお面めがけて右手の剣を一気に振り下ろした!

このままでは()られる!

と思った俺は、反射的に右手に持った待ち針を、オッサンの剣に向けて振り上げた!

すると!

 グァキィイン!

 というイカツイ音とともに火花が散り、オッサンの剣と俺の待ち針が激しく交差した!

ていうか、よく折れへんかったなこの待ち針!

エリックの言う通り、頑丈さだけは一級品のようや。

 剣と待ち針でツバ競り合い(と言うてもええのかこれは?)をくりひろげるオッサンと俺。

ギリギリと互いの武器(えもの)がうなりを上げ、両者ともに一歩も引く気配はない!

ここで引けば相手に隙を与える事になる!

ここは何としても押し切らんと!

そう思って待ち針を握る右手に更に力を込めたその時、オッサンはやにわに空いた方の左手を振り上げて叫んだ。

 「ロッドチェーンジ!」

 するとその瞬間、振り上げたオッサンの左腕が、ムチに変形した!

そうか!このオッサンは両腕を武器に変形させる事が出来る(・・・・・・・・・・・・・・・・)んや!

これはヤバイ!

と思ったその時、オッサンが左手のムチを、俺の右足めがけて振り下ろした!

するとそのムチがうまい事俺の右足に巻きつき、オッサンがそれと同時にムチを思いっきり引っ張り上げた!

 「あ痛っ⁉」

 ムチに足を取られ、俺は地面に背中を打ちつけた!

そしてその胴の上に、オッサンが馬乗りになった!

 「どうやら勝負あったようだね♪」

 勝ち誇った笑みを浮かべながらオッサンは言った。

そして右手の剣を振り上げ、ちゅうちょなく俺のお面に振り下ろした!

 「クッ!」

 俺は咄嗟に待ち針でそれを受け、紙一重でオッサンの剣を止めた!

だけどこっちの体勢があまりに不利な為、オッサンの剣を押し返す事が出来ない!

そんな中オッサンは、そのまま剣を俺の喉元に向かって押し付けてきた!

ヤベェ!

俺も何とかそれを押し返そうとするが、オッサンの剣はどんどん俺の喉元に接近してくる!

俺は空いた左手で、オッサンの顔面にパンチをあびせようとした!

しかしその瞬間オッサンは、

 「無駄な抵抗だね!」

 と声を上げ、左手のムチを俺の左腕に絡ませた!

これやと全く身動きが取られへん!

その間にもオッサンの剣が、俺の喉元に迫ってくる!

俺はここで命尽きてしまうのかぁっ⁉

 そう思われた、その時やった!


 エリックがスタスタとオッサンの近くに歩み寄り、

オッサンが目元にかけていたゴーグルをグイッと外し、

そこから露出した眼球にむかって、

大量の七味唐辛子を振りかけた。


 「ぎゃあっ⁉」

 断末魔のような叫び声を上げるオッサン。

それと同時にオッサンの両腕の武器は元の手の形に戻り、その両手でもって、自分の顔全体を押さえた。

そしてそのまま後ろにすっ転び、悶えながら地面の上を転げまわった。

 そのオッサンをビシッと指差し、エリックは俺に向かって叫んだ。

 「今がチャンスですひょっとこ仮面!必殺技でトドメをさしてください!」

 それに対して俺はこう返す。

 「助けてもらっといて何やけど、お前は鬼か?」

 「鬼ではありません!正義の味方です!」

 「しかし正義の味方という割には、やり方が随分エゲツなくないか?」

 「そんな事はありません!『正義は勝つ』という言葉の意味は、『正義が勝つためなら、どんな非人道的な手段を使っても構わない』という事なのです!」

 「それは違うやろ!その言葉の解釈は絶対間違ってるやろ!」

 「とにかく必殺技で奴にトドメを!チャンスは今しかありませんよ⁉」

 「分かった分かった!で、必殺技はどうやったら使えるんや?」

 「まずは僕が今から言うポーズをとってください!」

 「おっしゃ!」

 「まず最初に両足を揃えて立ち、膝を軽く曲げ、その膝を思いっきり外側に開いてください!」

 「何か物凄くガニ股になってしもうたけど⁉」

 「それでいいんです!そして次は、背筋をしっかりのばしたまま上半身を前に倒し、お尻をこれでもかというくらい後ろにつき出して下さい!」

 「何この体勢⁉しんどい!そしてダサい!」

 「もっとお尻を突き出して!SMの女王様にムチでお尻を叩かれるイメージで!」

 「どんなイメージやねん⁉」

 「次に頭を上げてください!そして極限までアゴをしゃくれさせて!」

 「何でやねん⁉しゃくれさす事に何の意味があんねん⁉」

 「クッキン○パパばりにアゴをしゃくれさせて!」

 「絶対無理や!骨格からして無理!」

 「そして両手を前に伸ばして、互いの人差し指と親指で♡(ハート)の形を作って、こう叫ぶのです!『正義の!ひょっとこビィ~ム!』すると♡(ハート)の部分から必殺のビームが発射されます!」

 「せめて必殺技の名前だけでも何とかならんのか⁉『正義のひょっとこビーム』ってアンタ!」

 「『ビーム』じゃないです!『ビィ~ム』です!」

 「どっちゃでもええやろボケ!」

 「ちゃんと『ビィ~ム』と発音しないと、自分の方に発射される設定にしましたので」

 「何でそんな設定にすんねん⁉ちょっと言い間違えただけで大変な事になるやろ!」

 「頑張ってください!」

 「頑張るわアホ!もぉおっ!アホォッ!」

 ヤケクソでそう叫んだ俺は、地面を転がりながら悶え苦しむオッサンに向かい、両足を揃えて膝を軽く曲げてそれを思いっきり外に開き背筋を伸ばしたまま上半身を前に倒してこれでもかというくらいケツを後ろに突き出し頭を上げてアゴを極限までしゃくれさせ両手を前に伸ばし互いの人差し指と親指でハートマークを作った!

 しんどい!

ダサい!

説明長い!

 色々な思いが俺の頭を駆け巡る。

しかしこの必殺技でないと、あのオッサンは倒されへん(らしい)!

オッサンには悪いけど、この技で決めさせてもらうで!

 腹をくくった俺は大きく息を吸い、ありったけの力で、尚且つ発音に気をつけながら目一杯叫んだ!


 「正義の!ひょっとこビィ~ム!」


するとその瞬間俺の両手で作ったハートマークの部分から、まばゆい程のビーム光線が、オッサンに向かって発射された!

そしてそれは見事にオッサンに命中した!

 「ぐ!ガァアアアッ!」

 ビームの光に包まれるオッサン!

そしてその体は、光の中へ消えていった。

 「や、やったんか?」

 ひょっとこビィ~ムを出し終えた俺は、構えをといて目を凝らした。

するとさっきまで地面を転がっていたオッサンの姿はもうそこにはなく、オッサンが身に着けていた黒タイツだけが、地面の上にポツリと残っていた。

これが、ひょっとこビームの威力なんか。

名前とポーズはふざけとるけど、流石は必殺技というだけはある。

ただもうひとつ難を上げるなら、どうせ敵を消滅させるなら、あの黒タイツごと消し去って欲しかった。

 とシミジミ思いながら、俺は傍らに居るエリックに目をやった。

すると、

 「あれ?」

 エリックの姿が見当たらない。

周りをキョロキョロ見回してみても、何処にもその姿はなかった。

 あいつ、何処行ったんや?

先に帰ったんか?

それともまさか、さっきのひょっとこビィ~ムに巻き込まれて消滅してしもうたとか?

もしそうやとしたら・・・・・・まあ、それはそれでええか。

あれだけアホな事ばっかりほざいた罰という事で。

それよりも早く帰らんと、守菜ちゃんが来てしまうで。

そう考えた俺はエリックを探すのを諦め、変身をといて元の姿に戻ろうとした(腹巻きの腹を覆う部分を両手でさすると、元の姿に戻れるらしい)。

と、その時やった。

 「やっぱり、今日も現れたか」

 背後から、俺のよく知った声がした。

その瞬間背筋がピィンと伸び、俺が恐る恐る後ろに振り向くと、そこに彼女が、居た。

そう、守菜ちゃんが。

 「あ、あ、あ・・・・・・」

 一番会ってはならない人物に会ってしまい、俺は言葉を失った。

そやけど下手に喋ると正体がバレてしまうかもしれんので、ここは声を出さん方がええ。

するとそんな俺に、守菜ちゃんは敵意に満ちた声色で言った。

 「昨日は黒タイツで、今日はひょっとこのお面か。随分とバラエティーに富んどるなぁ」

 「え?」

 その言葉に俺は目を丸くした。

まさか守菜ちゃんは、黒タイツのオッサンとひょっとこ仮面の俺を、同一人物やと思ってるんか?

という事は俺は、守菜ちゃんに敵やと思われてるって事⁉

そう悟った俺は、守菜ちゃんの方に向き直り、極力声色と喋り方を変えて弁明した。

 「ち、違うんでございますよ⁉ワ、ワタクシは黒タイツのオッサンとは全くの無関係でアリマ~ス!」

 しかし守菜ちゃんは、警戒を解く素振りを見せずにこう続けた。

 「じゃあ何でそこに、脱ぎ捨てられた黒タイツがあるねん?あれはアンタが着とったモンやろ?」

 「え?あ!それは誤解ですのよ⁉ワタクシはむしろ、あの黒タイツのオッサンを退治したのですぞい⁉そう!ワタクシは、あなたの味方なのどす!」

 「そうやってウチに油断させようという魂胆やねんな」

 「ノーッ!違いマース!ワタクシの言葉を信じてくださーい!」

 必死のパッチで訴える俺。

しかし守菜ちゃんは全く信じてくれる様子もなく、おもむろに、鞄と一緒に持っていた細長い袋から、ある物を取り出した。

ちなみにそのある物とは、木刀やった。

 「ちょっとちょっと⁉そんな物騒な物を取り出して、一体どうするおつもりですかーっ⁉」

 あわてふためく俺に、守菜ちゃんは冷たい口調で言った。

 「素手で殴ってもアンタには通用せぇへんみたいやから、これで対抗させてもらうで」

 「待って待って!ワタクシはあなたをさらいに来たのではありませーん!信じてくださーい!」

 「問答無用!」

 守菜ちゃんはそう叫ぶと、両手で握った木刀を高々と振り上げ、それを俺の額めがけて思いっきり打ち込んだ!

 パカーン!

 「ぎゃああああっ!」



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