5 エリックの依頼
と、いう訳で、俺と室戸は一緒に昼飯を食う為、校舎の屋上へとやって来た。
今日は少し風が強いせいか、俺らの他に屋上に来ている生徒は居らへんかった。
ホンマはこの男と一緒に飯を食うのは気が進まんのやけど、昼飯代をおごってもらった手前、こいつの誘いを断る訳にもいかへん。
とりあえず俺は室戸と、屋上の金網フェンスの手前にあるベンチに腰掛けた。
「これのお金は、また明日返すから」
俺は隣に座った室戸にそう言ったが、室戸は右手を横に振りながら、
「いえ、これは僕のおごりですから」
といって爽やかな笑みを見せた。
この野朗、一体どんだけ人間が出来とんねん。
俺はお前みたいなイケメンにおごってもらいたくなんかないんや!
・・・・・・でもまあ、せっかくおごってくれたのに今更返すのも悪いので、
「ありがとう・・・・・・」
と言って素直に礼を言った。
それにしても何でこの男は、俺なんかと一緒に昼飯を食おうなんて言い出したんやろう?
俺が室戸の立場なら、ここは当然守菜ちゃんをお昼に誘って、二人の仲を更に縮めようとするんやけど。
それともこいつ、俺が守菜ちゃんに片思いしてるのを既に見抜いていて、その俺に対してこの場で、
『小中さん(守菜ちゃんの苗字)は僕のモノだ。だから君は、潔く小中さんから手を引く事だな』
とか言い出すんとちゃうやろうな。
俺に昼飯をおごってくれたのも、その為ってか?
ぬぉおっ!そう考えたら腹立ってきた!イケメンのくせして、何てこすい(・・・)事考えるんや!
と、俺が一人で怒りの炎を燃やしていると、室戸は一転して真面目な顔になり、こう切り出してきた。
「ところで昨日の事なんですけど、アレ(・・)、どう思いました?」
昨日の事とは、守菜ちゃんが黒タイツのオッサンに襲われた事やわな?
しかしどう思ったとはどういう事やろう?
室戸がカッコよかったとでも言うて欲しいんやろうか?
そやけどそんな事は口が避けても言いたくないので、俺は代わりにこう言ってやった。
「あの黒タイツのオッサン、ムチャクチャ頑丈そうな体やなぁと思った」
ウッヒッヒ。こいつが期待してんのと全然違う事を言うたったで。
と、心の中で腹黒い笑みを浮かべた俺やったけど(それでも俺が主人公です)、それに対する室戸の言葉はこうやった。
「ズバリ、その通りなんです」
あれ?それが聞きたかったの?何か拍子抜けやなぁ。
と思っていると、室戸は真面目な顔で続けた。
「実を言うと、昨日小中さんをさらおうとしたあの男は、人間ではない(・・・・・・)んです」
「はぁ?」
室戸の思わぬ言葉に、俺は露骨に眉を潜めた。
何を言い出すんやこの男は?
確かに昨日のオッサンは、人間離れした打たれ強さやったけど、人間ではないっちゅうのはどういう事やねん?
なので俺は訊ねた。
「昨日のあのオッサンが人間やないやって?じゃあ、一体何なの?」
それに対し室戸は、ハッキリとした口調で答えた。
「人造怪人です」
「人造、怪人?」
生まれて初めて耳にする言葉に、俺は再び眉を潜めた。
そして続けて訊いた。
「人造怪人って、何?」
「簡単に説明しますと、人造の、怪人です」
「ホンマに簡単やな。もうちょっとちゃんと説明してくれへん?」
「分かりました。人造怪人とは、最先端の遺伝子科学を以て創り出された人工生命体。いわゆる人造人間というやつですが、昨日現れたあの男は、その中でも戦闘能力を特に強化して作られたタイプ。それが人造怪人という訳です」
「要するにあのオッサンは、戦闘能力が凄く高い人造人間って事?」
「そうです。それでですね、この人造怪人が──────」
「いや、ちょっと待ってぇや。そんな事いきなり急に言われても、ハイそうですかって信じられる訳ないやん?何やねん人造怪人って?ド○ゴンボールのパクリか?」
「違います。全く独創的なアイディアです」
「嘘を言うな嘘を」
「それはともかく、これを信じてもらえなければ、話が前に進まないんですよ」
「そんなん言われても、君が今言うてる事は、どうにも信じられへんからなぁ」
「それじゃあさっき僕がおごったパン代、今すぐここで現金で返してくださいよ!ホラ!早く!」
「ヤラシイ奴やなオイ!分かったがな信じるがな!」
「やっと僕の誠意が伝わったんですね」
「誠意ではない」
「それでは話を続けますが、結論から先に言うと、小中さんはある人物に狙われています」
「ある人物って、昨日の黒タイツのオッサンやろ?」
「違います。小中さんを狙っているのは、その人造怪人を創り出した、悪の科学者です」
「あ、悪の科学者?何か、ヒーロー物に出てくる悪者みたいやな」
「正にその通りです。彼の名はプロフェッサーワルダー。世界を滅亡させようとしている、悪の科学者です」
「現実にそんな奴が居るんか?でも世界を滅亡させようとしている科学者が、何で守菜ちゃんをさらおうとするんや?」
「それはですね、小中さんの体内には、この地球を滅ぼす、ある強大な力が眠っているからです」
「・・・・・・絶対嘘や・・・・・・」
「だったら今すぐ二百五十円返してくださいよ!」
「分かったがな信じるがな!二百五十円くらいでメンドくせぇなぁもう!」
「あ!違った!二百五十万円でした!」
「お前あの時二百五十円しか払ってなかったやろうが!ホンマにメンドくさいやっちゃな!」
「それでですね、小中さんがワルダーの手に渡ってしまえば、地球が大変な事になってしまうんです。だから何としても、小中さんをワルダーの魔の手から守らなければならないんです!」
「はあ、まあ、守菜ちゃんをその怪しい男から守らなあかんというのは分かったわ。で?その話を俺なんかにして、どないせぇっちゅうねん?」
俺がそう訊ねると、室戸はひとつ間を置き、一際真剣な口調で言った。
「あなたに小中さんを、いえ、地球を守って欲しいのです!」
「・・・・・・」
室戸のあまりに突飛な申し出に、俺は言葉を失った。
しかし室戸は至って本気らしく、俺に向かって、
「お願いします!」
と言って頭を下げた。
どうしたもんやろうかこの状況。
俺はとりあえず、室戸に言った。
「あの~、とりあえず君の言いたい事は分かったけどやな、何でそんな大事な事を俺に頼むねん?そういう役目は君の方が向いてるんとちゃうか?」
「そんな事はありません!これは鏡助君じゃないと駄目なんです!」
「そんな事ないって!ていうか、これはもう警察に届けた方がええんとちゃうの?」
「人造怪人は、警察がどうこう出来る相手ではありません。何しろピストルで撃たれても大丈夫な体をしていますから」
「そんな相手、尚更俺には無理やんか!昨日君はあのオッサンをうまい事おっぱらっとったやろ?やっぱり君の方が守菜ちゃんを守るのに適任とちゃうの?」
「確かに人造怪人は、目に七味唐辛子を振りかけると、凄く痛がるという弱点があります」
「銃弾に耐える割には、えらいショボイ弱点やなぁ」
「ですが、それだけでは人造怪人を倒す事は出来ません。これからも奴は、何度でも小中さんをさらいに来るでしょう」
「それは確かに困るけど、そやからって何で俺やねん?俺なんか力ないし、頭も悪いし、根性もないし」
「全くその通りですね」
「少しはフォローしてくれや」
「ですが鏡助君は、小中さんの事が好きなんでしょう?」
「なっ⁉何を言い出すんやいきなり⁉」
「隠しても分かりますよ。昨日小中さんが人造怪人にさらわれそうになった時、あなたは人造怪人に歯が立たないと感じながらも、小中さんを助けようとした。その姿を見た僕は確信したんです。『小中さんを守れるのは、この人しか居ない!』と」
「いや、まあ、出来る事なら俺が守菜ちゃんを守ってあげたいよ?でも、俺みたいなダメ男じゃあ、何も出来へんし・・・・・・」
「確かに今の鏡助君では、人造怪人には全く太刀打ち出来ません。ですが、僕が開発した変身アイテム(・・・・・・)で変身すれば、人造怪人を打ち倒す事も可能です」
「ん?変身アイテムで変身して戦う?何か、仮面○イダーとかウル○ラマンみたいやな」
「正にその通りです!鏡助君はこれから変身ヒーローになるんです!そして愛する女性と母なる地球を守る為、命を賭けて戦うんです!」
「・・・・・・もし、嫌やって言うたら?」
「じゃあ今すぐ二百五十億円を返してくださいよ!」
「結局それかい!しかもケタが上がっとるし!」