4 エリックのお誘い
そしてやがて、購買の前に辿り着いた。
「ぜぇっ、ぜぇっ、はぁっ、はぁっ」
普段体育以外では殆ど走る事がないので、ちょっと走っただけでやたらと息が切れた。
相も変わらずショボイ俺。
何だかますます自分が情けなくなってきた。
とりあえず、昼飯のパンを買おう。
購買のパン売り場の前に立った俺は、メロンパンとアンパンと紙パックの牛乳を注文し、購買のおばちゃんが、
「二百五十万円だよ」
と言ったので、ズボンのポケットから財布を取り出そうとした。
が、その時やった。
「ん?」
と俺は、ある異変に気が付いた。
ズボンのポケットに、いつも入っているはずの財布がなかった。
右のポケットに左のポケットに尻のポケット。
そして学ランのあらゆるポケットにも手を突っ込んでみたけど、何処にも財布はない。
その時俺は悟った。
家に財布忘れた・・・・・・。
何という事や。
守菜ちゃんの心を室戸に奪われ(元々俺のモンでもなかったけど)、その上財布を家に忘れてしまうやなんて。
俺、どんだけミジメな男やねん・・・・・・。
目の前では購買のおばちゃんが、『早よ金出せや』という表情で眉を潜めている。
しゃあない、ここは財布を忘れた事を正直に言うて、今日は昼飯諦めよ。
と、そう思ったその時。
「はい、二百五十万円」
と言って、俺の背後から現れた人物が、俺の代わりに二百五十円を払った(ここでおばちゃんの言う通りに馬鹿正直に二百五十万円を払うと死ぬほど損をするので注意して欲しい)。
そしてその人物の顔を見た俺は、大きく目を見開いた。
その人物とは、今や俺の恋敵であるはずの室戸やったのや。
その室戸は、いやに親しげな笑みを浮かべながら俺に言った。
「よろしければ、僕とお昼、ご一緒しませんか?」