CASE1…山本大雅
毎日投稿2日目です。今日の夕ご飯は焼きカレーでした。
喫茶「タイムズ」に訪れた1人の男、山本大雅は何故過去に戻りたいのかを話し始めた。
彼の人生を表現するなら灰色の生活とか、味のしなくなったガムを噛んでいるだとか、おそらくその辺りの言葉が1番ピンとくると思う。
「私は今までの人生において熱中したこと、真剣に取り組んだものが何1つなかった。
勉強もスポーツも卒なくこなせて、対人関係で困ることもなかった。彼女だっていた。2人だけだが。」
そう言って男は掛けていたメガネを整えながら続けた。
「けど、どんな時でも、感情が揺れ動くことがなかったんだ。
テストでいい成績を取った時も。サッカーの試合で得点を取った時も。彼女が出来てデートに行った時も。
全く楽しくないわけでもないんだ、ただ必ず何処かで冷静に物事を見てる自分がいるんだ。」
平静を装ったように男は話していたが、カウンターの上に置かれた男の腕が少し震えたのを橘は見逃さなかった。
「そんな生き方でもそこまで困った事は無かったんだけど、つい先日高校の同窓会があってね。
久しぶりに顔を見るのがほとんどだったから少し懐かしい気持ちになってね、けど同級生達が昔話に花を咲かせて盛り上がってるのを傍から見る事しか出来なかったんだ。
その時にふと、思ったんだ。このまま年を重ねていっても何も記憶に残らず、つまらない死に方をするんじゃないかと。」
そう言った男の顔には少し陰りが見えたような気がした。
「そんな折にこのお店の噂を聞いてね。もし本当に過去に戻れるんだったら、そこでもう一度青春時代を過ごしてみたいと思ってね。昔は何も思わなかったけど、今なら何か感じるものがあるかもしれない。」
男の話を聞き終わると橘は、
「分かりました。それでは少しお待ち下さい。」
橘はそう言って裏手に行くと、1分もしないでウィンナーコーヒーを持ってきて男の前に置いた。それから続けて、
「こちらをすべてお飲みになった次の瞬間には過去へのタイムスリップが完了いたします。また体も戻った時代に合わせて若返ります。お客様はいつまでお戻りになりますか。」
「高校の入学式の日までに戻りたいから、今から12年前の4月6日にお願いしたい。」
「かしこまりました。それでは最後に注意事項をいくつか。まず1つ目、過去と大きく異なるような行為をしない事。例えば、昔にできた彼女とは付き合わず別の女性と付き合ったりですね。2つ目に過去に戻ったあとに今の時間から5分後、つまり21時27分丁度にまたこの喫茶店に顔を出して下さい。その時に過去のお話を聞きながらコーヒーでも飲みましょう。」
「分かりました。忘れないようにしますね。」
男はそう言ってウィンナーコーヒーを飲み干した。
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「良かったのでしょうか」
男が過去に戻った後、マスターが橘に訪ねた。
「あのお客様が少し隠していた事があったのは私も気づいていたわ。けど深く考えなくても5分もしたらわかるわ。あのお客様が大変な目にあったとしても、今の私にはどうでもいい話しだからね」
そう言って男を待ったが、再び2人の前に現れることはなかった。
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