第3話 2次試験①
それから数日後、試験の結果通知が届いた。結果は『合格』。
ひとまず合格したことに胸をなでおろすものの、ここからが本番といっても過言ではない。合格通知と一緒に入っていた書類に目を通すと、座学と訓練についての詳細が記載されていた。
2週間後の月曜日から1週間都内にある自衛隊基地の敷地内で寝泊まりしながら午前に講習・午後に訓練、その他に入浴や食事についてもある程度取り決めがあり緻密なスケジュールが組まれていた。
試験に受かっても訓練に耐えきれず途中で辞退するケースもよくある話だと聞いている。
1週間みっちりと絞られた後は、1日休息日を挟んですぐにダンジョン内での実践演習が3日間始まる。
探索者になりたての頃は野宿をしてまでの探索はあまり推奨されないが、それでもダンジョンは広い。1層1層の広大さ故に深く潜ろうとするとどうしても野宿は必要になるし、そうでなくとも罠などによる不測の事態の時にダンジョン内で一夜を明かすことも珍しくないとか。
(とにかく、集合は2週間後。それまでに出来ることをしておくしかないか)
最早日課となったトレーニングをこなしたり、ダンジョン関連の書籍を探したりと慌ただしく日々を送っていると、時間はあっという間に過ぎていった。
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2週間後
「みはるのこと、よろしくお願いします楓さん。みはるも良い子で留守番してるんだぞ」
荷物の最終確認を終えた紫苑はみはると楓に出発前のあいさつをしていた。
「留守は任せてちょうだい。あんまり無理しちゃだめよ?」
「お兄ちゃん...早く帰ってきてね?」
心配そうな表情の二人を安心させるように微笑むと、みはるの頭をゆっくりと撫でた。
「スケジュールが決まってるから早く帰って来れるかは分からないけど、寄り道しないで出来る限り急いで戻ってくるよ。それじゃあ、行ってきます」
二人に見送られながら、紫苑はバスに乗り込んだ。
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公共交通機関を乗り継ぎ自衛隊の駐屯基地に着くと、入り口で書類を見せて簡単な地図を貰いそれに沿って進んでいく。
書類を見せたときの自衛隊員のギョッとした表情を思い出し、これから毎度ああいった表情を向けられるのかと思うと若干うんざりするが...
会場へと足を踏み入れると、既に何人かは集まっており各々自由に過ごしていた。見るからに年若い紫苑の登場に少しばかり騒然としたものの、声をかけられることは無く手ごろな椅子に腰かけると読書をして時間を潰し始めた。
数十分後、集合時間ぴったりに自衛隊の制服に身を包んだ上官らしき人物が複数名の部下を連れてやってきた。
「探索者試験の一次試験合格者は集合してくれ。付き添いの方々は退出してください。これより簡単な挨拶と今後の日程について確認する」
2,3人が退室し、残ったのは25名ほどだろうか。年齢も性別もバラバラで一番年齢が高そうな人だと30代後半くらいだろうか、最年少はもちろん紫苑である。
「えー、ではこれより第31回探索者試験の二次試験を開始する。主任試験官の笠松大我だ、よろしく。今回の1次試験合格者は24名。ふむ、いつもより少し少ないな」
笠松主任は肩幅が広く、服の上からでも筋肉質な引き締まった体をしていることが分かる30代の男性であった。
「2次試験が本格的に始まるのは明日からだ。午前中のダンジョンに関する講習は俺が担当する。会場は2号館の1階にある大ホールだ。場所は入場時にもらった地図に書いてある。集合時間厳守で頼む。次に午後の訓練に関してだが、訓練は1人の自衛官が3人の受験者を受け持つ。午後の訓練はそれぞれの自衛官に一任してあるのでそのつもりで。それではグループ分けを発表する。まずは...」
簡潔な説明の後は粛々とグループ分けされていった。紫苑は最高齢らしき男性と細身の大学生ぐらいの男と同じ班になった。担当の自衛官は若々しい20代前半の男だ。
「この後は各自の担当官の指示に従ってくれ」
そういうと、笠松主任は自分が担当する班のもとへ向かった。
「えーと、それじゃまずは簡単に自己紹介でもしましょうか。自分の名前は宗任雅吉っす、よろしくお願いします」
好青年な見た目とは裏腹に親しみやすい口調で自衛官の宗任が話の舵を取った。
同じグループの二人はあからさまにホッとしたような表情を浮かべて体の力を抜いた。
「では次は自分が。勝山彰浩です。今回の受験者の中では自分が一番のおっさんかな。短い間だけどよろしく」
続くように大学生の男が話し出した。
「僕は田本竜也。埼玉の大学に通ってます。えっと、体力にはあまり自信が無いですけどよろしくお願いします」
自己紹介が終わった3人は揃って紫苑に目を向ける。
「大神紫苑です。今回の受験者では最年少なのでご迷惑をかけるかもしれませんが、よろしくお願いします」
無難な挨拶を済ませたところで話が先に進む。
「じゃあ明日からの日程について説明するっす。午前の講習の後、1時間の昼休憩があって13時から訓練を始めるっす。うちの班は第3演習場に集合なんで遅れないようにしてください。訓練内容は明日説明するっす。皆さんが泊まるのは、この棟の4階より上っすね。他の施設は原則立ち入り禁止でこの棟の1階が食堂、2階がトレーニングルームになってるっすよ。何も質問が無ければ今日は解散して明日からの訓練に備えてください。明日から頑張りましょう!」
何か質問はという問いに誰も答えなかったので、宗任さんは笑って会話を切り上げた。解散しようと席を立つと、
「あ、そうそう。お昼ごはんなんすけど出来るだけ早めに、少量にしておくことをオススメするっす。あんまり食べ過ぎると受験生の中には戻しちゃう方もたまにいらっしゃるんで」
それを聞いて田本さんがどんな訓練をするのかと、戦々恐々としているのが視界の端に映った。
その後は解散して立ち入り可能な範囲で散策をしたり、トレーニングルームを借りて日課の基礎トレーニングをしたり自室で読書をして夕食の時間まで暇をつぶした。
食事の時間は決められた時間内であれば、各々で好きにしていいとのこと。早めに夕食を切り上げて共同のシャワー室で汗を流すと、明日に備えて早めに寝ることにした。
明日の訓練について考えを巡らせたり、同じグループの二人との接し方について考えているうちに瞼が重くなり、その感覚に身をゆだねて紫苑は眠りについた。
どもども作者です。早速、週1投稿のノルマをさぼってしまった。( ̄m ̄)
まぁ創作活動は自分のペースでやるのが1番やと思います。
こういう現代に突如ダンジョンが現れる系のお話って「なろう」でもそれなりに数があるジャンルだし、作者もよくほかの作品を拝見させていただいてるのですが、他の方の作品の中では閑話(あるいは幕間)として国の動きだったり、政府の動きだったりを丁寧に書いているんですね。
いや、凄くないですか。Σ(っ °Д °;)っ
作者はそこまで難しいお話は書けへんので閑話(あるいは幕間)としてそういうお話を書くつもりは今のところないです。書いても本編の中で数行とかだと思います。
次話を楽しみに待っていただけると幸いです。
ではでは、さいなら