第4話 反省と改善案
帰宅後、夕食を食べながらみはるが学校でのことを楽しそうに話すのを聞いて和やかに過ごしたことで紫苑は完全に調子を取り戻した。
時計を見ると夜も更けてきた頃
「みはる、そろそろ寝な。明日も学校だよ」
「えぇ~もう少し起きてたい」
ムスッとした顔で可愛らしくごねるみはるを優しく諭して寝付くまで傍にいる。
その時に昼にできなかった反省を改めてしてみる。
(5層のゴブリン戦...結果的に怪我無く終われたけど、今後5層を狩場とするなら今日みたいな戦闘だと限界があるな)
紫苑が今回5層にいた時間は全体の探索時間の3分の1ほど。
初見ゆえに様子見を兼ねて慎重に進んだが、それでも5層に着いてからゴブリンの小グループの追跡に時間を取られすぎているように思う。
(1層から4層は小型の獣類種だけで逃げ足に特化したモンスターが多い。地形にもめぼしいものは無かったし、他の探索者も遠めにちらほらと確認出来た。1~4層を周回して小型を狩りまくってもいいんだけど...やっぱりやめておくか、ほかの探索者からの不興を買っても面倒なことになりそうだし。第一今日の査定額を見た感じ小型のモンスターは素材を持ち帰らないと旨みが少ない)
紫苑が討伐しているモンスターのほとんどが10等級の魔石を核としている。
唯一の例外はオーガだが、元々深層にいるオーガの魔石は8等級だった。
講習で教えられたことだがダンジョン探索が活発になり協会の設備がそれなりに整ってきた昨今は各支部に複数個の遺物が常設してある。
遺物名:測り知る者
俗に鑑定器と呼ばれるこの遺物はあらゆる物を鑑定することが出来る。その形は様々で虫眼鏡のような形をしていることもあれば計量器のような形のものもある。
幾つかの形があるが総じて片目のマークが入っている。
測り知る者を使って鑑定することで魔石の値段が決められている。
魔石の等級は全部で10あるとされているが詳細は不明だ。
現在、最も探索の進んでいるダンジョンでさえも魔石の最高等級は5。
4以下の数字の等級を持つ魔石はまだ見つかってすらいない。
どうしようかと考えているとみはるの安らかな寝息が聞こえてきた。
場所を移して自室で今後の方針を練っていると、不意に探索証のことを思い出した。
「各ダンジョンの階層ごとのマップの売買が出来るって言ってたな。ちょっと見てみるか」
探索証の中にはかなりの数のアプリがインストールされていた。
(へぇ...オークションのアプリも入ってるのか。他のアプリの確認は後日するとして...あった。階層ごとのマップに関するアプリ)
分かりやすいシンプルなデザインのマップアプリを開いてみると検索ツールが起動した。
どうやら検索にかけることで日本全国のダンジョンから目当てのダンジョンを絞り込みマップ情報の売買へと進んでいくようだ。
「墨田は...と、マッピングが完全に完了してるのは14階層までか。マップの買取金額は5層までは無償で、その後は深くなるほど値段が上がっていくと...最新のマップになると1層分でかなりの額になるな」
想像以上の出費の予感に頭が痛くなる。
今はまだゴブリンの小グループとの戦闘でも一杯一杯だが、ゴブリンにはじき慣れるだろう。
乱獲できるようになったとして日々探索者が買取に出す魔石の量を鑑みても将来的には買取価格はかなり落ちると予測できる。
そうなるとさらに先の階層に潜る必要が出てくるし、先の階層の情報は喉から手が出るほど欲しい。そしてマップの買取で出費が増える。
(...先のことを考えても仕方ないか。明日はとりあえず最短で5層に入ってとにかく数をこなそう。戦闘回数を増やして経験を積みつつ魔石を確保しないと。後は...)
数日前に食べた祝福の果実のことを思い出す。あの後、魔法に関しては試行錯誤しているがどうにもうまくいかない。手から冷気を出したり、水を凍らせたりすることは出来るようになったがそれだけだ。
「もっと実践でも使えるレベルにしないと意味がないな。せめて出力を上げることが出来れば使いようはあるんだけど」
祝福の果実や魔法、だけに限らず遺物と呼ばれるダンジョン産の道具にはいまだ使用用途がよく分からない物も多い。世界全体でダンジョンの進捗率が低いことの原因の一つでもある。
(魔法については追々考えていくしかないか)
紫苑はそう結論付けると、明日の探索に疲れを残さないようにするためにも眠りについた。
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「いってきまーす!」
翌日も朝から元気いっぱいのみはると共に通学路を行く。
何がそんなに嬉しいのか、鼻歌交じりにつないだ手をブラブラさせながら歩くみはるを見ているとこちらまで元気になってくるように感じた。
「朝からずいぶんとご機嫌だけど何かいいことでもあった?」
元気な妹の姿に微笑みながらいつにもまして元気な理由が気になったので尋ねてみた。
「えへへ、そうかな?」
「あぁ、みはるが元気だと兄ちゃんも嬉しい」
「これからお兄ちゃんと毎日一緒に学校に行けると思うと、嬉しくて」
学校で何か嬉しいことがあったのだと勝手に考えていたため予想外の返答に少し固まってしまった。
「? どうしたの?」
「いやなんでもない。兄ちゃんも嬉しいよ」
優しく頭をなでてやると、その答えに満足したのかみはるはまた鼻歌を歌い出した。
どうやら紫苑が思っていた以上にみはるは紫苑にべったりらしい。
これからはもっと時間を作ってあげられるようにしよう、と先程の返答を嬉しく思いつつもみはるの兄離れは当分先になりそうだと少しばかり心配になった。
「それじゃあ、みはる学校頑張ってな」
「うん!お兄ちゃんも頑張ってね...今日も一緒に帰れるかな?」
上目遣いでお願いされると思わず即決で頷きそうになってしまうが、確か今日はみさきちゃんと遊ぶ約束をしていたはずだ。
「今日はみさきちゃんと遊ぶ約束をしてるって言ってなかったか?」
「あっ、そうだった。じゃあ明日は一緒に帰ろ?」
「分かった。明日は迎えに来るよ」
笑顔でみはると別れると気持ちを切り替えて墨田ダンジョンへと歩を進めた。
どもども矛盾ピエロです。
今回は短めになってしまいましたが、切りのいいところがここぐらいだったので遺物の説明を足すことで読者の皆様の興味を引く作戦に出ました。( •̀ ω •́ )✧(策士)
今回はサクサク小噺に行きましょう!
前話の後書きにて申しました通り、魔石の等級の表し方について本作は遺物による鑑定という形にしました。
作者的にはこの測り知る者にはまぁまぁ自信がある設定をつけることが出来たと思っています。まず、その形ですね。
最初は眼鏡とか着用者に鑑定をさせるような遺物にしようと思ってたんですけど、作者気づいてしまいました。
これ、いろんな形があった方が面白くね?と。眼鏡しかり計量器しかり義眼しかり。
読者の皆様に想像力の翼をはばたかせていただこうと思います
共通点は片目のマーク。
これはヨーロッパのエホヴァの眼やエジプトのウジャト眼がモチーフになっています。
まぁざっくり言うと、万物を見通す目というやつですね。( ̄▽ ̄)
今後も、こういう心躍るような遺物の設定を考えていきたいものです。
次話も楽しみしていただけると幸いです。
(/ω・\)チラッ
更新ちょっと遅くてごめんなしゃい。