表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/15

6月

 

 じめじめとすっきりしない日が続く、明けない梅雨。

 奇跡的に晴れた体育祭では、各競技で盛り上がりを見せた。


 団体戦では背の低いひなたがちょこまかと機敏に動き回り、意外にも貢献していた。

 小動物よろしく、敵のディフェンスを華麗に避けて翻弄するのだ。


「ひなたちゃん、ハムスターみたい」


 褒めてるのか、けなしてるのか。

 俺の隣で、裕也が笑っている。


「……うさぎだろ」


 ちょこまかと動き回るひなたに、あの時の姿を思い出す。

 合格発表日。ぴょんぴょんと必死に跳びはねて、ニット帽のポンポンを揺らして。

 頰と鼻を赤く染めた横顔は、まるで雪うさぎのような。


 なんて、考えているうちに。

 ピーッと高く、試合終了の笛が鳴った。ひなたのチームが勝利したらしい。

 抱き合い盛り上がる中、ちらりとひなたがこちらを見た。小さくピースサイン。


 裕也が目敏くそれを見つけて、「かわいい」とつぶやいた。




 ❇︎❇︎❇︎




 体育祭の最終種目、一番の盛り上がりを見せる選抜リレー。

 選抜されてしまった俺は、スタート位置についていた。走者順は嬉しくないことに、最終。大トリだ。


 前の走者が走り出した。ちょこちょこと、機敏な小動物のように。頭に巻いたはちまきがたなびき、やっぱりうさぎのよう。

 ひなたもまた、選抜されていた。


「旭くん!」


 大きく呼ばれ、後ろへ手を伸ばす。

 1人を追い抜かしたひなたも、バトンを持った手を伸ばした。


 パシン、と受け取った。


「頑張ってー!」


 背中に声援を受け、力強く地面を蹴る。

 抜かすは、あと1人だけ。

 頭のはちまきが風に流され、後ろではためくのを感じた。俺も、うさぎのように見えるのだろうか。

 くだらない事を考えて、ふっと緊張が抜けた。

 軽くなった足は、最後の1人を追い抜かした。


 大きくなった声援は、歓声に。

 1位を獲得し、興奮した裕也が飛びついてきた。遅れて、ひなたもやってきて。

 ハイタッチをして、笑顔を交わした。




 ❇︎❇︎❇︎




 その裏で。


「好きです、旭くん」


 紅潮した顔で、まっすぐ見つめてくる瞳は揺るぎがない。

 彼女の想いが真剣なことだとわかる。


「……ごめん」


 誠実に、想いに応えて。頭を下げた。

 彼女は微動だにせず、反応もなく。


「……俺、行くね」


 断ってしまった俺は、ここに残るべきではない。後ろ髪をひかれつつも、立ち去ることにした。

 誰かに見られてしまっては、彼女を傷つける噂が流れてしまうかもしれないから。




「どした? ひなたちゃん」


 立ち止まるひなたに裕也が声をかけると、慌ててシーッと言う。人差し指を立てて。

 ひなたの目線の先を見れば、旭と見たことのない女子が向かい合わせで立っていた。

 そしてすぐ、旭は立ち去る。


「あー……なるほどね。旭はモテるからな」


 裕也がなんの気無しに言うと、ひなたは「そうだよね……」とつぶやいた。

 旭に断られた女子は、嗚咽を漏らしてくずれ落ちる。

 見ちゃだめ、と。ひなたも裕也を引っ張って、その場を離れた。



 断る者と、断られた者。

 そして、偶然それを見てしまった者。

 華々しく、その中にほろ苦さを残して。体育祭は、幕を下ろした。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 月がめぐるたびに、じわっと重なっていく関係性が透けて見えます。 今月(6月)は、今までで一番きゅっとしました! 明日も楽しみにお待ちしてます(*´人`*) [一言] 体育祭…… (ひなたち…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ