表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/15

4月

 

 気持ちの良いあたたかな陽気はまだ少し先。

 春を待ち遠しく木の芽が顔を出した、入学式。

 体育館に整列し、隣を見れば見覚えのある小動物、もとい彼女が。


「あっ」


 と、つい声に出た。


「えっ?」


 と、彼女は俺を見上げた。

 ニット帽に隠れていた髪は茶色みがかり、瞳の色から色素が薄いのだとわかる。

 ほんのりと染まる頰は、十分に暖められた体育館の熱気にあてられたものだろう。


「俺のこと、わかる?」


 と聞けば、困ったように口ごもられた。


「いや、ごめん。なんでもない」


 そして、それ以上会話は続かず。

 俺が一方的に知っているだけで、彼女は何も知らない。

 恥ずかしさから、ふいと顔を背けてしまった。彼女は困っているだろう。


 そのせいで、ただでさえ長い入学式がさらに長く感じた。

 きっと、困らせてしまった彼女も。




 ❇︎❇︎❇︎




「あっ」


 と、再び声に出してしまったのは、入学式後のクラスにて。

 隣の席に座る彼女も今度は同じく、「あっ」と声に出した。


「えっと……隣の席だね」


 あの時と同じ、さくら色の頬で。


「ひなたです」


 改めてよろしくね、と。

 困らせてしまったのに、そんなことはおくびにもださず。

 窓から差し込む、柔らかな日差しに負けないほどに、柔らかい笑顔を見せた。


(あさひ)です」


 よろしく、と、こちらも。

 申し訳なく思いながら。


「あの、さっきのこと……」


 ひなたが言いかけて、頬のさくら色が広がる。

 どきりとして次の言葉を待っていると、空気を察してか、友人の裕也(ゆうや)がすかさずやってきた。


「あっ! あの時の子だ!」


 俺にも紹介しろ、と騒ぐ。

 そのおかげで、周辺のクラスメイトと賑やかな自己紹介合戦が始まってしまった。


 もはや、ひなたが言いかけたことは確認できず。

 よくわからない展開に、ひなたと目が合い、こっそり笑い合った。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 春の陽気と相まっていい感じの青春が始まりそうですね!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ